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 国の代表がなにか気に喰わないことを言ったら、大勢が集まってのデモ行進。
 ガソリンの価格があがったら、トラックがずらりと並んでクラクションで猛抗議。
 ある税金があがったら、そのあおりを受ける人々がたくさん集まって、「やめろ」とシュプレヒコール。
 ある行政サービスが低下、もしくは廃止されたら、その恩恵を受けていた人や関連団体が、これまた大通りを占拠してねり歩く。
 大使館の前で、ちびちび行うものもあれば、議事堂を取り囲むような大規模なものまで。
 酷いのになると、そのまま暴動に発展したりもする。
 そうなると、もう、何がなにやら……。

 今日も今日とて、どこかで誰かが声をあげている。
 真っ当だと理解できることから、「はい?」と首をかしげちゃうものまで。
 いろんなことに、いろんな人がぷんすか怒っている。

 そんな映像を夕方のニュースで見たミヨちゃん。「海外ってすごいよね」と感心。
 昼下がりの教室にて話題とする。

「いや、さすがにお店をおそったり、火をつけたりして、暴れまわるのはダメだよ。でも、なんていうのかな、あの熱量とか行動力には目をみはるものがあると思うの」

 政治に不満があれば、性別や年齢に関係なく声をあげる。
 ひとりでだめなら仲間を募る。
 それでもだめなら各地にて活動を広げる。
 暴力をともなう過激なのは問題外だけれども、「自分も社会の一員だ!」「自分にだって何かを要求する権利はある!」といった姿勢には、見習うべき点もある。
「どうせ自分なんか」と卑下して、縮こまって、何もしないよりかは、ずっといい。
 なんぞとミヨちゃんは感じている次第。

「わたしたちのところも、むかしはけっこう激しかったってきいたけど……」

 そう言ったのはアイちゃん。
 クラスのオシャレ番長は、オシャレ情報を追ううちに、自然と歴史や文化にも造詣が深くなった。
 あくまでファッションをメインに見ているが、ちょっとした歴史博士といえなくもないほど。
 かつてはガチガチにバトルをしちゃうデモも多かったと聞いて、おどろくミヨちゃん。

「でも、いまじゃあ、せいぜいネットでブーブー言うぐらいでしょう? なんでなのかしらん」

 現在とてデモがないわけじゃない。
 けれどもかつてと比べると、それはとてもおとなしい。
 ぶっちゃけ、効果がるのかどうかも疑問に思えるレベル。
 たとえ世間の注目を集め、ニュースでとりあげられたとて、それっきりでおしまい。
 そこから先の活動へと続かないケースがほとんど。
 とどのつまりが、「民意とはなんぞや?」という話に行きつく。
 ミヨちゃんたち、そこで「うーん」と考え込んでしまった。
 するとここでおもむろに口を開いたのはヒニクちゃん。

「民意とは人民の意思」

 人民は社会を作っている人たちのこと。それすなわち、
 国民のことにて、国家を成立させている人たち。
 上から下か、下から上か。どっちが正解なのかしらん。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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