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757 うみびらき

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 暑い日が続く。
 梅雨入りが遅れており、いい天気なのはうれしいのだけれども、湿度だけが高くてむぅわんとむせかえる陽気に、ミヨちゃんはげんなり。
 ランドセルを背負うと背中がすぐに汗でびしょびしょになる。
 脇ににじむ汗染みも乙女としては気になるところ。

「雨って降らないと困るけど、降りすぎても困るんだよねえ」

 ゲリラ豪雨だの、から梅雨だの。
 近頃の雨は降り方が極端すぎると下校時にぼやくミヨちゃん。
 いつものごとく仲良しのヒニクちゃんとの帰り道。
 幼女たちの足は、土手の遊歩道を超えて、その向こうの河川敷から、川の浅瀬へと自然に向かう。
 ちょいと寄り道して涼んでいこうとの魂胆。
 が、日陰のあるベストスポット、橋のしたには地元のヤンキーズがたむろしていた。
 べつに悪さをしているわけじゃない。
 彼らもまた裸足となって、水にちゃぷんとつけて涼をとっていたのである。

「あっちー」「だりぃ」「うぜぇ」

 などとぼやきながら、のんべんだらり。
 いまどきの不良は昔みたいに気合は入っていないのだ。
 現代っ子は、真夏とて意地でも学ランを脱がない、リーゼントは崩さない、気合と根性! などというツッパリ上等な意気は持ち合わせていない。

 とはいえ、そんな野郎どものところに混じるほど、ミヨちゃんも無謀ではないのでそちらは避けて、べつの場所にて靴と靴下を脱いだ。

「うへぇ、まるでぬるま湯だよ」

 ちゃぷんと川の水に足をつけたミヨちゃんが、そう言った。
 晴天続きにて、うだるような暑さ。
 すっかり川の水量も減っており、端っこのきわきわなんて、幼女のくるぶしほどもない。そして水はちょっとした温水状態。
 もっと川の中央の流れがあるところに行けば、さぞや涼しいのだけれども、それはダメ!
 川の流れは上から見たのと、下の流れはまるでべつもの。
 いくら暑いからって、うっかり近寄るのは超危険。
 だから岸辺の浅瀬にてガマンする二人。

 大きな石に腰掛けて、足をぶらぶらしながら水と戯れていたミヨちゃん。
 同じく近くの石にてくつろいでいたヒニクちゃんに話しかける。

「ねえねえ、そういえば、そろそろ海開きなんだって」

 南の方では早くもそういう時期になっている。
 きゃあきゃあ騒ぎながら、一番海を楽しむギャルたちの映像をニュースで視たミヨちゃん。羨ましいと思う反面、こうも感じていた。

「ちょっと早くねえ?」

 だって、きまって曇天とかだし、下手をしたら雨の中にての海開き。酷い時には寒風ぴゅうぴゅう。
 そして映像の中では新調したであろう水着姿の乙女たちが、クチビルを青くして、ぷるぷる震えながら、無理やりはしゃいでいるんだもの。
 いかに恒例行事とて日にちに固執するあまり、現場の状況をしょうしょう蔑ろにしすぎなのでは? というご意見のミヨちゃん。
 これを受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「海開きの鍵は地元の公安委員会が握っている」

 神主さまに安全祈願をお願いして行うことが多い。
 一番早いを売りにして、なかには元旦にやるところもあるとか。
 が、海開きには決まりがいろいろあって、やるべき事がいっぱい。
 安全の確保に警備体制の有無などなど。水の事故は怖いからね。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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