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771 かげん
しおりを挟む気がつけば、お店の入り口に消毒のためのボトルが置かれている光景が、すっかり馴染みになりつつある。
ビニール袋は有料化が本格的に始動。
大手が率先して舵をきり、じょじょに浸透。ついにはコンビニエンスストアも追随。いずれはすべてが倣うことであろう。ちょっと不便だけれども、まぁ、しようがない。
足元をみれば二メートルごとに描かれた、マークや線が引いており、他者との距離感を意識させる仕掛けが施されてある。
レジにはビニールシートがかけられ、店員とお客とをさえぎっている。
お金のやりとりも専用のトレーを用いて……とはなっているが、長年のクセがあって、ついこれまで通りにやってしまい、お互いに「てへへ」と照れ笑い。
テレビのワイドショーやバラエティ番組などを見れば、出演者たち同士の距離が開いており、あいだには透明のアクリル板のしきり。
街中に出れば、たいていの人がマスク姿。
人の出入りが多い場所では、やたらと消毒作業に精を出している姿も目立つ。
極力他人と接しないように。
面と向かって言葉をかわさないように。
試行錯誤と戸惑い。苦悩と工夫。慎重なのか過敏なのか。
なにせ正解がわからないもので、みんなどこまでやればいいのかがわからない。
内心では「あんまり意味ないかも」と思いつつも、対外的に「やってますよ」のポーズがないと、どこからバッシングが飛んでくるかわからない物騒な世の中。
「じっさいのところ、効果あるのかなぁ」
外出すると行く先々にてアルコール消毒。
すっかり手がかさかさで、荒れ気味でかゆくなったミヨちゃんが不満をぼそり。
「あんまり動くなって言ってたけど、言われなくてもそれほど動かないし」
出かける人は、わずかな時間でも余裕があれば、アグレッシブに動く。
出かけない人は、どれだけお金と時間を持て余そうとも、ちっとも動かない。
そして大部分の人は、わりとご町内だけで日々を過ごしている。
ヘタをしたら自宅から数百メートル程度の範囲内で生きている人もそこそこいる。
専門家と言われる人たちの意見も分かれている。
「油断するな! 警戒を怠るな!」
口を酸っぱくして危険を訴える人がいる。
「そもそも、あんなのたいして効果ないよ」
あっけらかんと、そう言う人もいる。
どちらの意見も理解できるし、なんとなく後者の方が本音のような気もする。
けれども、せっかくがんばったのに「成果ナシ」とか「ムダである」なんてことは、ちょっと認めたくない。
そんな心情も働いて、「いやいや、それでも多少は……」とか考えちゃう。
が、そもそも完全に防げる類のものでなし。
「ハエとか蚊とかG、あとカメムシの大量発生すらもおさえられないのに、アレだけどうにかできるとは、とても信じられないんだけど」
ミヨちゃんが身もふたもない本音をぶっちゃけたところで、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「ただいま、さじ加減を模索中」
効果があること、効果がないこと。
やるべきこと、やらなくてもいいこと。
やっていいこと、ダメなこと。
はやく明確になるといいんだけど。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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