ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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 踏んづけたらテンションが下がるモノ。
 イヌのアレとか、ネコのアレとか、バナナの皮とか、生ごみ系とか。
 くちゃくちゃ噛んだあとのガムなんて踏んだら、さぁたいへん。
 とるのも手間だし、洗うのも手間だし、歩くたびにねちゃねちゃするし。
 うっかり水たまりにびちゃんとやっても、「あー!」となる。靴どころか靴下までじっとり濡れた日には、一日気分がブルーに。
 しゃがんで立ち上がるときに、自分のスカートの裾を踏んでボテっと転んでも「うー!」となる。自分のせいだから怒りをぶつける相手がいないので、やり場のない怒りがうちでぐるぐるまわってムカムカ。
 危険なのは外ばかりではない。
 家の中も油断はできない。
 たとえば裸足でペタペタ歩いて台所とか洗面所なんかに行ったとする。
 すると床に水滴が落ちてたりしたら……、イラ!
 これがジュースとか油、あるいはハチミツとかだったら、もっとイライラしちゃう!
 だから日常生活においては、足下には絶えず注意を払っておく必要がある。
 でも、いつもいつも下ばかりうつむいて過ごしてなんていられない。
 で、忘れた頃に降りかかるのが災難というもの。

 その日、その夜。その夜更け。
 いつもよりちょっと暑くて、夜中にふと目覚めたミヨちゃん。
 ベッドを抜け出し寝ぼけまなこでふらふら。まずはトイレに行った。
 用を足し、自室に戻る前に台所にも寄る。
 ノドの渇きを覚えたからだ。
 勝手知ったる我が家の台所。
 目をつむっていたって歩けるし、どこに何があるのかもわかっている。
 だから部屋の明かりを点けることもなく、コップをとり冷蔵庫をあけてお茶を用意しようとした。
 だがそのときである。
 足が何かをむにゅっと踏んだ。
 台所だからたまに野菜の切れ端とかが、うっかり落ちていることがある。あるいはゴミ箱からこぼれたテッシュとかが転がっていることも。
 だからミヨちゃんは「しようがないなぁ」としゃがんで拾おうとした。
 しかし幼女の目に飛び込んできたのは……。

 深夜に響く幼女の金切り声!
 すぐさま驚いた家族たちが起き出し、「何だ、どうした」と駆けつける。
 そして部屋の明かりの下に姿をあらわしたのは、床にてひっくり返りピクピクしているGの戦慄。それもけっこう立派なヤツ。
 ミヨちゃん、おどろきのあまり「びえーっ」と泣き、男どもはGを前にしてオロオロするばかりでちっとも頼りにならない。お母さんは「殺虫剤はどこだったかしら」と居間の棚をがさごそ。現場はぷちパニック。
 そんな不甲斐ない連中を尻目に、「やれやれ、情けない」と動いたのはおばあちゃん。
 台所にあったビニール袋を手にとると、これを使っておもむろに床に転がっているのを、ひょいとつかんで捕獲してしまった。
 ビニール袋に入れられたGはそのまま玄関に運ばれて、靴を使ったプレス攻撃を喰らい昇天。
 かくしてヤマダ家の平穏は守られた。

 そんなエピソードを下校中に仲良しのヒニクちゃんに披露したミヨちゃん。

「……あのときの感触がまだ足の裏に残っているの。ぷにゅっていう感じで。うぅ」

 よほどショックだったらしく、以来、夜は必ず電気をつけないと家の中を移動できなくなってしまった。
 この話を受けて、ヒニクちゃんが口を開いた。

「最近のGはヘロヘロしている」

 猛暑にてへばっているのは人間ばかりじゃない。
 たとえ人類が滅びようとも、奴らは生き残ると云われる、
 あの超生命体すらもがバテてるって、けっこうヤバくない?
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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