ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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 演劇界が大ピンチ。
 小劇場とか劇団とか、ただでさえカツカツだったのに……。
 ここのところの流行性疾病のせいで、さらに追い込まれて、もはや存亡の危機に直面している。
 この国は夢を追う人にとってもキビシイのだ。
 横並びにならずに、枠から飛び出そうとする人は応援せずに、むしろ出る杭は打たれるを実戦しちゃう社会風潮すらもある。
 上手くいかなかったら「ほらね、やっぱり。だから言ったのに」とあざけり、見下し、バカにする。
 上手くいったら「やっぱり才能のある人はちがうよね」と手のひらを返して褒めそやし、持ち上げる。
 なのに何か問題を起こしたら、あっさり見限り、非難ごうごう。
 成功には妬みと羨望を、失敗には激辛対応を。
 そのくせ大人たちはシレっとこう言うのだ。

「文化の火を消してはいけない。絶やしてはいけない。守らないといけない」と。

 有用性に理解を示し、必要性も重々承知している。
 が、動かない。
 何ら手をさしのべない。
 応援していると口にするだけで、実益のあることは何ひとつしない。
 ぶっちゃけ、お金を出さない。身銭を切らない。
 たとえ出しても微々たるもの。そのくせ恩着せがましくて、なんだか粋じゃない。
 これは何も演劇だけの話ではない。
 芸術や音楽なんかでも同様の問題が、常につきまとっている。
 ショービジネス全体の問題でもあるのだ。
 事実、世界的に有名なサーカスとかショー集団が次々倒れている。
 超一流どころですらもが存続できない時点で、その辺の末端なんて、とっくに青色吐息。

 いつものごとく仲良しのヒニクちゃんと下校中のこと。
 ミヨちゃんがそのような前置きをしてから口にしたのは、大学院生のヒロ兄ちゃんの友人のこと。
 その人はふつうに大学を卒業したのちは、夢を追いかけて演劇の世界へと飛び込んだ。
 友人知人たちは、そんな彼を応援している。
 けれども、個人の努力ではどうしようもない壁が立ちはだかり、にっちもさっちもいかない状況へと追い込まれてしまった。

「才能や運の問題でも、なかなかあきらめきれないのに。このままだとずっと想いが成仏できないよ」

 おおいに同情を示すミヨちゃん。
 将来への展望が見えず、事態が好転する兆しも見えず。
 うつうつした想いを抱えて、たまらず「うわー!」と堤防で叫べば、「うるせー」と釣りをしているおっさんに怒鳴られる。
 そんな切なくも熱い青春を送っている若人の話を聞いて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「笑え」

 イライラしたり、へこんだり、泣いたり嘆いたりしても、
 気分がどんどんと落ちていくばかり。
 でも笑えば、ふつふつと活力がわいてくる、このふしぎ。
 俯いてなんてやるもんか。なんだか悔しいもの。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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