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827 のみくす

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 ネコは化けるという話は昔からある。
 その真偽はさておき、近頃のネコブームときたら勢いがますますとどまることを知らない。
 ネコ好きが自慢の我が子にかけるお金ときたら……。
 ネコの経済効果を示す言葉「ネコノミクス」
 一説には二兆円を軽く超えるんだとか。
 みんなを魅了し、それだけのお金を出させるネコ。
 飼い主もメロメロになり、お財布のひもがゆるゆる。
 手練手管を誇る百戦錬磨の夜の蝶たちも真っ青な腕前。

 ネコ市場が活性化するほどに、そこを狙って参入する他業種もいっぱい。
 ペットフードでは、厳選された自然素材と、健康に気を配った高級品が飛ぶように売れて、飼い主がスーパーの総菜コーナーで値引き販売された品を食べているような状況。
 ネコが快適に過ごせるグッズは日々増える一方にて、ネコのための住宅や、自動給仕するエサ箱なんてものもある。
 すべてはネコ愛のなせるわざ。

 が、そんな世間の風潮を目の当たりにして、「ちょっとまって」と首をかしげたのはミヨちゃん、小学二年生の幼女。
 ミヨちゃんはモフモフ系が大好きなので、もちろんネコも好きだ。
 だからネコに愛とお金を注ぎ込むことについては、是非もなし。
 けれども、それって本当にネコのためになっているのか?
 との疑問が捨てきれない。

「ネコの魅力ってさぁ、その我が道をゆくみたいなところでしょう? ツンツンたまにデレみたいなところでしょう? なのにあんまり甘やかしすぎたら、ネコ本来の魅力が低下してしまうのでは……」

 ネコの……というか、これはペットとして飼育されている動物全般にいえることだが、その行動の根底には野生の時代の名残りが色濃い。
 はじめから人間と仲良くやれていたわけじゃない。
 長い長い時間をかけて、少しずつ互いに歩み寄った結果が、いま。
 そしてネコと人との現状をかんがみるに、ミヨちゃんは危惧を覚えている。

「すっかり飼い慣らされたらケモノは牙と爪を失う、そして誇りも。それはそれできっとかわいい。でも、その代償としてネコ本来の魅力を失ってしまうのではなかろうか」

 野性味のある天真爛漫さこそが、ネコの醍醐味。
 それが人の顔色ばかりをうかがい、媚びを売るようになってはおしまいよ。
 つまり現状のネコノミクスの加速は、結果としてマイナスに跳ね返ってくるのでは?
 というのがミヨちゃんの意見。
 これを受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「猫可愛がりされた者はたいていダメになる」

 見返りを求めない無償の愛もけっこうだけど、
 あんまり注ぎすぎると、すっかり怠惰になって、
 根腐れを起こす。甘やかされた者はだいたい図に乗るし。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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