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835 おめん
しおりを挟む木彫りのお面が落ちていた。
河川敷の橋のたもと付近。不法投棄にてよくゴミが捨てられてある場所。
行政がこまめに掃除をしているのだけれども、街中の死角になっているせいか、夜中にこっそりやってきては、家電や家具なんかを廃棄していく者があとをたたない。
そしてこれを目当てにやってくるリサイクル業者や、宝探し感覚で遊びにくる子どもたちも。
たまたま散策中に近くを通りかかったミヨちゃんとヒニクちゃんたち。
男の子たちが何かを囲んではしゃいでいるので、何ごとかとのぞいてみたらソレがあった。
「しかし不気味だねえ」
男の子たちの輪に混じって、お面をひと目みるなり、ミヨちゃんがぽつり。
南国の神様だか悪魔だかを模した木彫りの面。
ギョロ目で、大きな口、牙があり、頬骨や輪郭がゴツゴツしており、角まで生えている姿は、ほとんど鬼のよう。
元の持ち主は、観光先の雰囲気に浮かれて、ついお土産として購入したものの、帰宅後に冷静になって見てみれば、インテリアとしては微妙。
いくらご利益があったり、守り神的役割があろうとも、そもそも日本家屋の内装にはちっとも似合わない。
ぶっちゃけこれが家のリビングに飾られてあったら、気になってチラチラ見ちゃう。
かといって廊下の奥とかにあったら、夜中に怖くてトイレに行けなくなっちゃう。
そんなお面を囲んで男の子たち。
「おい、おまえビビってるのか」
「おまえこそ」
「だったらかぶってみろよ」
「えー、やだよ。きたない。さわりたくない」
「とかなんとかいって、ほんとうはこわいんだろう」
「そっちこそ、だったら自分がかぶれよ」
当初は軽い冗談のやりとり。
でもそこに男の子特有の負けん気やら、友達に舐められなくないとかいうプライドがからんできて、互いにはやしたているうちに、ついついムキになってしまう。
しようもないことで、やんやと言い合う男の子たち。
じきにケンカでも始まりそうな剣呑なムードになる。
ミヨちゃんたちが仲裁に入るも、現場は微妙な空気になってしまった。
そしてミヨちゃんたちが良かれと介入したがゆえに、かえって引っ込みがつかなくなった男の子たち。
女の子の前で情けない姿を見せられない。
という心理が働く。
その結果、なぜだか……。
「じゃーん、けん、ポン。あいこでしょ」
ジャンケンで負けた子がお面を持ち帰るという流れに。
勝者と敗者が明確になるのがジャンケンの醍醐味であり、残酷なところでもあり。
不運なことに負けてしまった男の子。もはや半べそ。
さすがに見かねてミヨちゃんが、「こんなの拾って帰ったらお母さんにおこられるよ」と口添えし、どうにか「やめておこう」ということに。
男の子たちがどこぞに走って行ったあと。
現場に残されたミヨちゃんとヒニクちゃんとお面。
もちろんミヨちゃんもこんな品を持って帰るつもりは毛頭ない。ちらりと眺めつつ「それにしてもお面ってふしぎだよねえ。そのときどきで表情がガラリとかわるんだもの」とつぶやくのみ。
コクンとうなづいたヒニクちゃんがぼそり。
「古代より現代にまで伝わるモノ、それが仮面」
見る側の気持ち次第で印象や表情を変えるお面。
世界中のあらゆる古代文明にて、その存在が確認されている。
人を人ならざる何かに変身させる仮面。ちょっと怖くない?
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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