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854 きゅかんび

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 天気予報では、くもりのち晴れ。
 降水確率は三十パーセントほど。
 はっきり言って微妙……。
 空を見上げたら、たしかに多くの雲が出ている。けれども晴れ間もちらほら。
 どことなく吸い込んだ空気に湿り気があり、少し動いただけで肌もじっとり汗ばむ。これらは湿度が高めの証拠。
 テレビのお天気キャスターのお姉さんは「急な雨にご注意ください」とか言うけれども、明確に「降る」とは断言してくれない。
 情報を提供される側としては「いったいどっちなのよ?」とイライラしちゃう。

 図書館から借りていた本の返却日がそろそろ迫っている。
 まだ余裕があるので週末でもよかったのだけれども、それだと混雑が予想される。
 返したついでに、新しい本も物色したい。
 どうせならばあの落ち着いた空間を堪能し、のんびり館内を見て回りたいので、行くのならば週末や休日よりも断然、平日。
 というわけで、出かけようとしていたミヨちゃんとヒニクちゃんの二人の幼女。
 けれどもお天気がこんな調子なので、「どうしたものか」と玄関先で思案中。
 雨が降ったら困る。
 なにせ本は紙で出来ている。
 借りた品を濡らしたら、たいへん!
 そこで念のためにビニール袋に入れてからカバンにしのばせる。
 そして自分も濡れるのはイヤなので、当然ながら傘を準備する。
 でも雨は降っていない。
 いかにも黒雲が垂れ込めて「降るぞ降るぞ」といった調子ならばともかく、空の様子はくもりだけど、陽射しが差すほど。ほぼ晴れといってもさしつかえがない。
 晴れのときに傘を持ち歩くのは邪魔だし、けっこう照れ臭くもある。
 これがオシャレな日傘とかならば、またちがうのだろうけど……。
 かといって折りたたみ傘は少々頼りない。
 ちょっと強めの風がひゅるりと吹いたら、骨組みがポキリ。そしてお母さんに怒られる。アイツは高いわりにヤワなのだ。いや、ひょっとしたら安物だからヤワなのかもしれない。
 まぁ、どちらにしろ、そんなわけでミヨちゃんは折りたたみ傘は信用していない。

 二人してしばし玄関先で相談した結果。
 ミヨちゃんたちは結局、ふつうに愛用の傘を持っていくことにした。
 横着した結果、出先で雨宿りをしいられるのはちょっと。
 ドラマとかマンガならば定番の出会いのシチュエーションだけど、現実はしょっぱい。見知らぬ誰かと並んで立つことの、なんと気まずいことか。あとイケメンは来ない。来るのはたいていおっさんかおばさんだ。
 なにより、大切な本に万が一のことがあってはならない。
 だから傘を持っていく。

 さいわいなことに図書館の前までくるまで雨は降らずにすんだ。
 この調子で帰りも天気がもってくれることを願いつつ、館内へと入ろうとした矢先のこと。

「あれ? 自動ドアが開かない。中に明かりはついているのに、どうして」

 小首をかしげるミヨちゃん。その袖をチョイチョイと引っ張ったのはヒニクちゃん。
 指差したのは張り紙。そこには「本日、館内整理のために臨時休館」の文言。
 なお返却だけならば、ポストを利用して可能。
 ミヨちゃん「ガーン」とショックを受けて、ふらふら。

「なんてこったい! これじゃあ、とんだムダ足だよ。今日は図書館の気分だったのに」

 何かをするつもり、もしくはそれを楽しみにしていたときに、直前になってダメになる。
 それは遠足が雨で中止になるぐらいに、かなしいこと。
 いっそ市内にある他の図書館を目指すべきか。だが幼女の足ではちと遠い。しかもそこで借りたら、担いで帰らなければならない。それはもはや苦役。
 結局のところ「しようがない。また後日出直そう」とあきらめたミヨちゃん。
 トボトボと帰ることにしたのだけれども、横断歩道にて信号待ちをしている間に、ぽつりぽつりと天から雫が……。
 傘を広げながらミヨちゃんがぼそり。

「ふんだりけったりだよ。よわりめにたたりめだよ」

 これを受けてヒニクちゃんもぼそり。

「休館だけど職員は大忙し」

 膨大な図書の点検、乱れた棚の整理整頓、
 数が多いから本の並べ替えもひと苦労。
 盗難や紛失がないかのデータ照会に、
 書庫の管理や修繕、除籍処理もある。しかも本は重い。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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