ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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865 ま

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 見慣れた街角だったはず……。
 なのにふいにゾクリとした。うなじがチリチリする。
 街並みは十年以上もほとんど変わっていない。実際はもっと長い間こと、そのままなのかもしれない。
 けれどもよくよく見て見れば変化はあった。
 門扉に表札はなく、雨戸も締め切ったまま、庭も荒れ放題の家が目立つ。
 通りに人の姿はなく、家の敷地内から吠えるイヌの声もなく、遠くに車のエンジン音が聞こえるだけ。
 もちろん住民がまったくいないわけではないのだろう。
 でも日中は勤めに出ているのか、生活音もせず、とにかく存在が感じられない。
 とても閑散とはしている。しかし不穏さはない。ゴーストタウンというほどでもない。
 ごくありふれた景色であることだけはまちがいない。
 なのにどこか異質な空間にて、そんな場所に足を踏み入れたミヨちゃんは、何やらそら恐ろしくなってしまった。
 当初の予定では、次の角を左に曲がるつもりであったのだけれども、家の庭より道路にはみ出た草木によって視界がふさがれており、ここからでは向こうがどうなっているのかわからない。
 なんてことのない曲がり角。
 恐れる要素は何もないはず。
 でもミヨちゃんは足がすくんだ。
 ふいに風が吹いて、周囲の草木がカサカサと枝葉をゆらす。
 孤独感がぐっっと強まり、ついには耐えかねたミヨちゃん。きびすを返して、その場所から逃げ出した。

 なんてことがあったという話を教室でしたミヨちゃん。
 これを聞いたクラスメイトたち。

「あー、ちょっとわかるかも」

 うなづいたのはリョウコちゃん。恵まれた体躯と運動神経を持ち、地元のサッカーチームに所属するスポーツ少女は、自主練でよく走っている。
 だいたいコースは決まっているのだけれども、たまに気分転換でちがうところを走る。
 とはいってもあくまで知っている道だ。
 で、ときおり空白の時間に遭遇することがあるという。
 それは日常の隙間のような時間にて、街中なのにまるで隔離されたように感じる。

「どこを見ても誰もいないし、空に鳥もいないし、とにかく何も聞こえないの。へんな悪夢に迷い込んだみたいで、あれは気持ちわるいよ」とリョウコちゃん。
 これに「それなら団地にもあるよ。夜になると、とたんに静まりかえるの。たくさん部屋があっても、すごく暗いんだ。みんな部屋にはカーテンをしているから」と言ったのはチエミちゃん。
 団地住まいゆえににぎやかなのかと思えば、さにあらず。
 たしかに日中はとてもにぎやか。でも陽が暮れると一転して静まりかえる。
 なぜなら寄り集まって生活しているからこそ、お互いに周囲に気をつかうから。
 まるで息を潜めているかのようになり、がらりと雰囲気がかわるので、「ちょっとおっかないかも」とチエミちゃん。

 みんな生活の中に「あれ?」と首をかしげる瞬間があると知って、ミヨちゃんが少し表情を和らげる。
 なおアイちゃんにも訊ねたかったのだけれども、この手の怪しい話は苦手なクラスのオシャレ番長は、とっくに退避しており、話しを聞けずじまい。
 これらを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「隙間にもいろいろあるから」

 日常から非日常へと通じて、はっとする隙間もあれば、
 自分らしく、ほっとひと息つける隙間も存在している。
 ただし、乗じてくる性質の悪いのもあるから、気をつけて。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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