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883 ゆうぎおう

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 人気のない公園がある。
 狭いうえに住宅地のど真ん中で、声が響くだけでなく、騒ぐと近隣の人からにらまれる。
 遊具はシーソーと鉄棒がひとつきり。
 しかもボール遊びはダメ、ペットを連れ込むのもダメ、たむろするのもダメ、花火もダメ、通り抜けるのもダメ……。
 しょぼい公園のくせして禁止事項が羅列されてある立て看板だけがご立派。
 はっきり言って子どもたちからは、とっくに愛想をつかされている場所ゆえに、誰も見向きもしやしない。
 が、そんな閑散とした公園なのに、近頃、ちょっと注目を集めている。

 ある日のことだ。
 たまたまここを通りかかった子。塾への向かうのにこの公園を抜けるのが近道。
 だから歩いていると、ポトリと背後で音がした。
 何かとふり返ってみると、地面にドングリが落ちている。
 まぁ、公園だし、特に珍しいことがないとそのまま先を急ごうとするも、ふとあることに気がついて、ぞーっとなる。
 だってその公園には木なんて一本も植えられていないんだもの。
 何だか怖くなったその子は、足早に立ち去った。
 しかし話はこれで終わらない。
 べつの日にもまた同様な目にあう。
 しかも今度は小石だった。
 ほんの小指の爪の先ほどの石なので、当たったところでどうということはない。
 けれども、あまりいい気はしなかった。
 そしてまた別の日のこと。
 今度は友達と歩いているときに、カコンと音がした。
 おそるおそる見れば空き缶、コーヒーの小さいやつが転がっている。
 近くには誰の姿もない。ゴミ箱もないので通りすがりに誰かが放り投げたという可能性もない。
 怖くなった二人は「きゃー」と逃げた。

 以降、この話を耳にした子らがチョロチョロと公園をのぞきに来るようになる。
 そうしてときおり同じような体験をする者まで出はじめたので、話はますます大きくなった。
 で、ウワサがめぐりめぐってミヨちゃんのところにまで届く。
 学区内でそんな面白そうな話があるならば、これはぜひとも見物せねば。
 と放課後にやってきたミヨちゃんとヒニクちゃんの二人。
 そして二人の背後にもポトリと降ってきたのだけれども……。

「なんでクツ?」

 降ってきたのは小さな子ども用のクツが片方。
 これはこれで怖いけれども、怖さよりもミヨちゃんはあっけにとられる。
 すると周囲をキョロキョロ素早く見渡したヒニクちゃんがおもむろに口を開いた。

「犯人はきっとカラス」

 収集癖のあるカラスは多い。そして遊びに興じるカラスも。
 さる世界的に有名な宮殿の丸屋根にて、スキーみたいに滑り
 下りるという遊びに夢中になっていたカラスもいたという。
 たぶんあわてている人間たちの様子を物陰からこっそり。
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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