ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

月芝

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897 きれる

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「警察を呼べ!」

 突如としてスーパーマーケットの店内に響いた怒号。
 おどろいた客たちはみんなビクリとなり、声のした方を振り返った。
 その中にはミヨちゃんとヒニクちゃんの姿もあった。
 おばあちゃんからもらったお小遣いを握りしめて、お菓子を買いにきていたときのことである。
 当然ながら、店内はザワザワ。
 客たちもソワソワ。
 そしてふたたび鳴り響くがなり声。
 険のある声音は、耳にうるさく、ただただ恐ろしい。
 たとえ自分に向けられたものではないとはいえ、ブルルと震えちゃう。
 さすがに現場に突撃するほどの度胸がないミヨちゃん。お菓子売り場の棚の前にて固まるばかり。

「何があったのかなぁ」

 不安そうにしているミヨちゃん。その手をヒニクちゃんがギュッと握った。
 その後もぎゃあぎゃあと男の人がやかましい。どうやら二人の男性がもめているみたい。
 近くにいたおばさま方から伝わってきた情報によると、それはあきれるほどに些末なことが原因でおこった諍いであった。

 とあるおっさんが店内をカートを押しながらぶらぶら。
 するとパン売り場にて別のおっさんが「どれにしようかなぁ」と物色中。
 その売り場に用事があったカートのおっさん。イライラしながら場所が空くのを待つ。
 時間にすれば一分程度のことだろう。
 なのに待ちきれずにキレた。ぼそって「じゃまだろうが、いつまでもちんたらしてんじゃねえ」
 それを聞きとがめたのが棚の前にいたおっさん。
 いきなり背後から難癖をつけられて「あぁん!」となる。
 そこから先は売り言葉に買い言葉、やんやと罵り合いに発展し、あわてて近くにいた店員が止めに入るも、仲裁に入った店員さんをも巻き込んで騒動が拡大。
「これはマズイ」と他の店員さんが店長を呼びに走る。
 で、当店の最高責任者が登場。
 揉め事は下手に出し惜しみするより、いっきに上から問答無用で片付けるのが吉。
 しかしすっかり頭に血がのぼったおっさんたちは、聞く耳を持ち合わせていない。
 そして自分の行動を棚に上げて、「警察をよべ」だのとわめき散らすように。

 場の雰囲気もさることながら、周囲から向けられるあきれ顔、冷めた視線によって、引っ込みが付かないおっさんたちは、手がつけられない。
 これが大きなショッピングセンターとかならば、頼りになる警備員のひとりやふたり常駐されているものだけど、あいにくと街中のこじんまりとしたスーパーマーケットにはそんな気のきいた者はいない。
 そうこうしているうちに、ついに不安に駆られたお客の誰かが本当に通報しちゃったものだから、さぁ、たいへん!
 サイレンをウーウー鳴らしながらパトカーが到着。
 国家権力の介入によって、もう現場は騒然!!

 これにおびえたミヨちゃん。お菓子の購入を断念し「もういこう」とヒニクちゃんとともに店を脱出する。

「まったく、いい年をした大人なのに」

 お菓子を買い損ねたミヨちゃん、頬を膨らませてぷりぷり怒る。
 それをなだめつつ、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「かんちがいしている人は意外と多い」

 金を払う客だから自分はえらい。いやいや、ちがうから。
 購買活動は、お金と商品を等価交換しているだけだから。
 そこに上も下もない。対等な取引。にしても……。
 沸点の低いお年寄りって、けっこう多くない?
 ……なんぞと、コヒニクミコは考えている。


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