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943 けいふ
しおりを挟む特定の季節が近づくとテレビ放送で増えるのが映画の類。
定番番組やら終わった連続ドラマの放送枠の穴を埋めるようにして、各局にてぽつぽつ放送される。
話題になったアニメ映画やら、映画史に燦然と輝く新旧の名作のみならず、どどんとシリーズ作品を一挙公開とかもある。ときにはオールナイトなんていう景気のいいことも。
まぁ、さすがに小学二年生であるミヨちゃんは夜更かしは厳禁なので、そこは録画に頼ることになるのだが。
いろんなジャンルが放送されるので、わざわざ寒い中をレンタル屋に通わなくていいのは助かる。なによりタダなのがうれしい。
というわけで、いろいろ家族にて視聴を楽しんでいるヤマダ家。
そんな中でミヨちゃんが特に強く印象に残った映画が、モンスターな宇宙人に襲われちゃうSF大作。
とある惑星を目指して航行している宇宙船。とんでもない長距離移動につき、乗組員たちは全員、コールドスリープ状態であった。
順調だった旅路。だが突如として船内に警報が鳴り響き、眠りから目醒めたヒロインは愕然となる。
仲間たちが寝ていたはずのカプセルの大半が破損しており、中には無残な骸ばかり。
船には大きな穴が開いており破損。エンジンも停止して、航行不能状態に。
どうやら何かに運悪くぶつかったことが原因と思われる。
戸惑いつつもヒロインは現状を把握しようと操舵室を目指す。しかしその途中でナゾの宇宙生命体の遭遇して……というストーリー。
公開当時の最新の技術がふんだんに使われた内容だが、いま見ればちょっと古くさく、設定もありがちといえばありがち。
だがそれは誤解である。
そもそもこの作品こそが、エイリアン系の元祖と呼べる作品にて、すべての系譜はここより始まったといっても過言ではないほどの名作なのである。
だからこそ兄たちの強い勧めもあってミヨちゃんは視聴した次第。
「そのエイリアンががねえ、お腹にタマゴを植えつけるの。そしてそれが育つとキシャーって中から飛び出してくるんだ。あれは超こわかったぁ」
映画の感想をにこにこ語るミヨちゃん。
笑うとエクボがかわいいミヨちゃんだが、話している内容と表情がちょっとズレているような気がしてヒニクちゃんは首を小さくかしげるも、黙って話に耳を傾ける。
「……ていうかおかしいの。だって宇宙船の外壁とか内壁とかバキバキぶっこわすくせに、工具で攻撃されるとひるんだり、痛がったり」
単独で過酷な宇宙空間を移動し、頑丈な宇宙船をぶっ壊す。
もうそれ自体が超生物。
なのに生殖活動は他の生物の腹を頼る。
武器じゃなくて、チェンソーみたいな工具にひるむ。
そしてトドメは緑色の体液。
かつては世界中を熱狂させた普及の超大作も、数世代を経た子どもにとってはB級ホラーあつかいにてケラケラ笑われちゃう。
これを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「映画の設定ってマジメにするほど作品がつまらなくなるから」
かつてアクション映画に物申した武道家がいた。
で、リアルに主演映画をつくったら死ぬほどつまらなかった。
映画は娯楽。ちょっとぐらい暴走して振り切ってるほうがいい。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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