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966 どーん
しおりを挟む街をぶらぶらしていると、家の庭やら軒先にて見かける機会が多い果樹。
金柑である。
ミカンなどに比べると木が小ぶりなわりに、実は多くつける。
青々した木にたわわに実る小さいオレンジ色。
その姿はまるでクリスマスのツリーみたいで、なんとも愛らしい。
見ているだけでちょっと気分がほっこりしてきて、寒いシーズンにもかかわらず体までほっこりしてきそう。
そんな金柑。
のど飴などではおなじみにて、皮の部分が甘く、中身がしぶいというちょっとかわった果実。
それゆえにそのまま食べる機会はほとんどない。
オーソドックスなのはハチミツに漬ける食し方。
甘ーく漬けた実を紅茶に入れたり、お湯に溶かしたりして楽しむことで、冬場の冷えやらノドの乾燥、風邪なんかを蹴散らしちゃう。
あとはお酒に漬けたり、ジャムにしたり、料理の風味づけに使ったり……。
「今年はなんだか豊作っぽいねえ」
仲良しのヒニクちゃんとの散歩中に、そんなことを口にしたミヨちゃん。
その言葉の通りにて、行く先々にて金柑の木を見かけ、実がたくさん。
せっかく実っているのに収穫しないのかと、他人事ながら気になってしょうがないミヨちゃんなのである。「もしかしたらまだ収穫時期がすこし早いのかしらん」と首を傾げたりもする。
かと思えば一方でこんな立て看板を目撃して、ミヨちゃんはくすり。
『おい! どろぼう。ちゃんと見てるからな!』
力強い筆使いにて、なかなかに迫力のある文言。
それは果実を盗む人に向けてのもの。
よほど何度もやられているのだろう。字から憤怒がありありと見てとれる。相当にお冠のようだ。
「果樹園とか畑で盗まれて事件になってるのは知ってるけど、こんな街中でもやる人がいるんだ」
たまに昔の時代を描いたマンガなどのシーンで、柿どろぼうとかの話があるけれども、そんなのが現代にまで脈々と受け継がれていることに、ミヨちゃんは呆れるやら感心するやら。
「そういえば今年は賽銭ドロボウも増えているんだって」
よほどの有名な寺社仏閣の賽銭箱でもなければ、中身なんてたかが知れている。
拝借する労力を考えると、わりに合わない犯行のような気がする。
それでも手を出さずにはいられないやむにやまれぬ事情があるのか、たんに遊ぶ金欲しさ、小銭欲しさなのか。
「まぁ、なんにせよ、あまりいい傾向とはいえないね。なんとなく世界が悪い方へと流れているような気がする」
ミヨちゃんが意味深な台詞をぼそりとつぶやいたところで、おもむろにヒニクちゃんが首をふるふる。
「よくよくふり返ってみると、いつもだいたいこんな感じ」
歴史の教科書を紐解けば、あんなことやそんなこと。
人類史はトラブルの宝庫にてイベントにはことかかない。
大いなる流れの中では、現状も「あー」って程度なもの。
だからあわてないあわてない。どーんといこう。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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