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974 くない
しおりを挟む本日は冬の合間の春日和。
天気もよく陽気もポカポカしている。
だからいつもよりも心なしか人の出が多いようにおもわれる。
かくいうミヨちゃんもそのうちの一人。
こんなにいい天気なのに、家に閉じこもっているだなんてもったいない。かといって人混みはちょっとアレなので、土手の遊歩道の方へと散歩に向かう。
ふんふん、鼻歌まじりにてご機嫌で歩いていたミヨちゃん。
その足がピタリと止まった。
前方の地面にて奇妙な物体を発見したからである。
それはアスファルトにズブリと刺さっていた。
大きさは小学二年生の幼女であるミヨちゃんの指先から手首までほど。
黒いソレに見覚えのあったミヨちゃん。おもわずつぶやいた。
「あれ? これって、くない……だよねえ」
漢字では苦無もしくは苦内と書く。
忍者が持つ道具としてとても有名な品。
時代劇にもチラチラ登場するので、ミヨちゃんは知っていた。
だからはじめはオモチャか映画や舞台の小道具なのかと考えたのだけれども。
引っこ抜いてみて幼女はたいそうおどろく。だってずっしり手に重たいのだもの。
「たぶん鉄製だよね。うーん、レプリカかなぁ」
本物そっくりに作られた手裏剣とかがお土産品として売られている。
もちろんあくまでお土産用なので刃はついていない。
だけれどもコレは地面にざっくり刺さっていた。
しかも固いアスファルトにもかかわらず、である。
ミヨちゃんはとっさに腰を落として周囲をキョロキョロ。それこそクノイチばりの動きにて四方を警戒。もしや通行人をターゲットにした悪質なドッキリの類で、物陰よりこっそりカメラで撮影されているのかもしれないとにらんだのだ。
ユーチューブとかで迷惑動画をアップしてよろこんでいるかんちがい野郎がいると、まえにニュースでやっていた。自作自演でわざと炎上させて、世間をざわつかせて注目をあびて悦に浸るド変態。
そんな輩にからまれてはたまらない。
が、どこにもそれらしい姿はなし……。
「はて?」
首をかしげつつ、ミヨちゃんは「えいや」と手にしたクナイを地面に向けて投げてみた。
しかし刺さることはなく、カキンと乾いた音がしてアスファルトにはじかれ、少しばかり離れたところにまで滑って止まっただけ。
幼女ゆえの非力とも考えられるけど、たぶんコレが普通の反応。
とどのつまりクナイが地面に刺さっているという状況がかなり変なのである。
いろいろ悩んだ結果、ミヨちゃんはクナイをそっともとの穴に突き刺しておいた。
そして後日、仲良しのヒニクちゃんにこの話をしてから現場に行ってみるも、すでにクナイの姿はどこにもなかった。そればかりか地面にあいていたはずの穴まであとかたもなく消え失せてしまっており、「あれぇ」となる。
するとしゃがんでアスファルトを調べていたヒニクちゃんがぼそり。
「忍者現存説はわりと有名」
形をかえ、姿をかえ、いまなお脈々と生き続ける忍びたち。
もしも本当にいたとしたら、周囲には絶対に悟らせないはず。
実際のところ表に出ている忍者像って氷山の一角だとおもうの。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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