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984 かける
しおりを挟むひさしぶりの試合だというので張りきっているのはリョウコちゃん。
地元の女子サッカーチームに所属している。
ミヨちゃんと同級生ながらも、身長は上級生ほどもあり、スラリとした四肢を持ち、運動神経は抜群。それを買われてチームに誘われた経歴を持つ。
彼女のすごいところは恵まれた身体能力に甘んじることなく、コツコツと鍛錬を積み重ねられること。
小さな弟の世話や家の手伝いなどで忙しいのに、ロードワークは毎日欠かさず、暇をみつけては自主練に励んでいる。
おかげでメキメキ実力をつけ、いまでは上級生に混じってグランドを縦横無尽に駆けまわっているほど。
だがその活躍の場は突如として奪われた。
例の世界的流行感冒のせいで、次々と大会が中止になり、ちょいと隣町にて練習試合のために集団で移動するのも四苦八苦するような状況に追い込まれる。
チーム練習もままならない。
それでも腐らずに、明日を信じて、己を貫くリョウコちゃんの姿勢はチームメイトたちをも揺り動かし、結果として誰一人欠けることなく、いまへと至っている。
そんな彼女のひたむきながんばりを知っているからこそ、友人であるミヨちゃんやアイちゃんやチエミちゃんやヒニクちゃんたち一同は、我がことのようによろこんだものである。
ただ惜しむらくは肉親以外は応援が禁じられてしまったこと。
こんな時世だから密密を避けるためにといわれては、それもしようがない。
だからとて、すごすごと引き下がるほど幼女たちは素直ではない。
グランドの近くで見ちゃダメならば、離れところから双眼鏡片手にこっそり応援すればいいだけのこと。
でもって試合当日。
リョウコちゃんには内緒で試合が行われる場所に集合したミヨちゃんたち。
双眼鏡を持ちより、水筒には温かいお茶、そして大声は出せないので小さな旗をこしらえ、あとけっこう大きな脚立を持ってきたのはヒニクちゃん。
大人の背丈ほどもある脚立を担いであらわれたときには、一同、ギョッ!
しかしいざ設置してみると、高いから天辺に座れば遠くがじつによく見える。でもちょっとグラつくから誰かが下で支えていないと危ない。
それでも交代でのぼっては、向こうで活躍する友にエールを送る。
グランド内では選手たちが元気よく走り回っており、夢中になってボールを追いかけている。
とても楽しそうだ。
そんな姿は見ているだけで、ちょっと泣けてきちゃうのが少し切なくもある。
するとおもむろにヒニクちゃんがぼそり。
「健康は奇跡」
平和な日常はありふれたものなどではなくて、
いくつもの奇跡が寄り集まって支えあっているモノ。
だというのに大人たちはケンカばかりして。
いい加減にしてほしい。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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