ミヨちゃんとヒニクちゃんの、手持ち無沙汰。

989 こやし

　
　自転車はこわい。
　横合いからいきなりひょいと飛び出してくる。
　唐突に目の前でＵターンをしたり、なんの脈絡もなく方向転換をする。
　信号無視なんてしょっちゅうだ。
　車道と歩道を好き勝手に行き来する。
　夕方から夜にかけて無灯火で爆走していることも多い。
　ヘッドフォンで音楽を聴きながらの運転も珍しくない。
　ひどいのだとスマートフォン片手にふらふらしている。
　あげくのはてにはいきなり背後から「ちりんちりん」とベルが鳴らされ、ドキリ！

　車道に専用レーンを設けたものの、そこを利用する自転者が肝心の交通ルールを守らない。というか、たぶんよく理解していない。
　なにせアレはオートバイや自動車の免許を取得するときに、学科という形ではじめて細かく本格的に学ぶものなのだから。
　結果として自動車側からしたら「危なっかしいったらありゃしない」「あんなのに絡まれたらこっちが損だ」「邪魔だなぁ」といった感じになる。
　一方で自転車は身軽で気軽だから「そこのけ、そこのけ」とばかりにシャーッと快速。
　なにより自転車をあつかっている者に、自分がハンドルを握るそれが車両扱いなのだという自覚も皆無。
　そして今日もまた街中を自転車が爆走する。

　ミヨちゃんとヒニクちゃんが住宅街を歩いていたら、ちょうど十字路に差し掛かった。
　彼女たちが歩いている道が主筋にて、横断している方が一旦停止。
　道路にも書かれてあるし、標識も立っている。
　なのに自転車がシャーッ！
　それも一台だけじゃない。何台も何台も連続して。
　十字路は下り坂の終点近くに位置しており、駅までの近道ということもあって地元民が多数利用している道。
　で、上った分の労力を少しでも取り戻そうとするかのように、ブレーキから手を放し、ペダルからも足をはずし、下り坂の滑走をたんのうする自転車勢。
　気持ちはわからなくもないけど、やはり危ない。
　弾丸となって勢いよく降りてくる暴走自転車が、顔前を駆け抜けていく幼女たちはたまったものではない。

　この十字路のことは近隣や学校でも問題になっており、過去には一度、車両の通行を禁じて、夜間には柵を設けたこともあったのだが、柵のことをすっかり忘れて激突する自転車が続出。
　自損事故乱発の末にそのうち死人が出るかもと、ついに撤去された経緯を持つ。

「まったくこまったもんだよねえ。ところで自転車って環境にいいって話だけど本当かなぁ」

　ミヨちゃんが疑問に感じたのは駅近なんぞで、トラックの荷台一杯に山と回収される自転車たちの存在。免許なしで手軽に使える反面、遺棄される自転車のまぁ多いこと多いこと。
　あれを差してのこの発言。
　それを受けておもむろにヒニクちゃんが口を開いた。

「微妙」

　ビニール袋はダメ。これからはエコバッグを使おう。
　そういって乱造されたエコバッグの大半が押し入れの肥やし。
　資源や環境を守るつもりが、逆にマイナスに働くとか案外多い。
　……なんぞと、コヒニクミコは考えている。