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996 りょうぶん
しおりを挟む店舗の中にパン屋さんが入っているスーパーマーケット。
この商売の形態、わりとあちらこちらで目にするようになってひさしい。
品数と価格とボリュームが手頃にて、焼きたての香りにつられてついフラフラと。
試食とかあったらラッキー!
それが甘い菓子パンとかだったら、さらにラッキー!
でも食パンだと、ちょっとテンションが下がるかも。
本日の試食はチョコを練り込んだクロワッサン。
それを一つもらってモグモグしていたのは、ミヨちゃんとヒニクちゃんの二人。
今日はミヨちゃんのおばあちゃんの買い物に付き合っての来店。
「もぐもぐもぐ、これはこれでおいしいけれども、わたしはやっぱりメロンパンかなぁ」
これまで食べてきた試食を指おり数えて、その中のベストにメロンパンを押すミヨちゃん。
ちなみにヒニクちゃんの押しは、塩こうじを使って焼いた塩パン。噛めば噛むほどにほんのり塩の旨味が口の中に広がるけど、見た目は地味なので渋好みの逸品。
パン屋さんの棚にはいろんな種類のパンが並んでいる。
チョココロネ、メロンパン、アンパン、クリームパン、カレーパン、コッペパン、フレンチトースト、クロワッサン、バターロール、ジャムパン、シナモンロール、ぶどうパン、揚げパン、、サンドイッチ、ベーグル、デニッシュ類、パイ類、フランスパンに食パンなどなど。
目移りして困ってしまうほどに多種多様。豊富なラインナップを前にして、トレイ片手に右往左往するお客さんが続出。なんという豊かな食性!
だが選ぶ楽しみもまたパン食の醍醐味みたいなもの。
だから眺めているだけも楽しい。
しかしミヨちゃんがある商品に目を留めて「うーん」と考え込んだ。
それはピザである。
「これははたしてパンなのか?」
という疑問は前々から抱いていた。
あと販売形式にもちょっと首をかしげている。
一枚売りはわかる。いかにもピザでありピザピザしている。
これが半分となると、とたんに美味しそうに見えなくなる。言い方は悪いが残り物っぽい。
でもってひと切れずつとかになったら、その貧相っぷりは目に余るものがある。
ひと切れ分だけカットされて袋詰めされて、へにょんとなっている姿はちっとも食欲がそそられない。
「そのくせ高いし」とミヨちゃんがぼそり。
そう。パン屋さんの中でピザはじつはお値段高めの商品。
なにせ工程に手間がかかっている。チーズだってたっぷり使っている。具材だってそうだ。生地からこさえていたら、とってもたいへん。
いかに焼き上がりは速いとて、トータルでは他のパンよりも時間がかかっているのかもしれない。
だから価格に反映されるのは、まぁ、しようがない。
問題はバラ売りされると、やたらとマズそう、少なそうに見えることである。
「カレーパンとクリームパン、これにサンドイッチで三つとかいう感じで、いつもは自分の食べられる量と相談して買うんだけど、ピザだとこれが読みにくいんだよねえ」
ぼてっとした個。
ペロンとしたひと切れ。
なんとなく個の方が腹に溜まりそう。
が、実態はひと切れもあなどれない。
ピザは少量にみせかけて、ズドンと胃にくる。「へへん、これぐらい楽勝だぜ」と油断したら危ない!
「っていうか、わりとどこのパン屋さんにも置いてあるけど、はっきり言って需要があるのかな?」
ピザにはピザ屋がある。パンにはパン屋がある。
パン屋がピザに手を出すことは、相手の領分を侵すことにならないか?
専門店があるぐらいの品を片手間で造る。そこに意味は、意義はあるのか?
そんなミヨちゃんの悩みを受けて、おもむろにヒニクちゃんが口を開いた。
「ぜひとも本場の人の意見を拝聴してみたいところ」
海外にあるなんちゃって和食には辟易させられる。
ピザの国の人の目には、この現状はどう映っているの?
やっぱり怒っているのか、それとも笑っているのか。
……なんぞと、コヒニクミコは考えている。
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