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021 園芸の鬼、特別部活動の日
しおりを挟む今日は園芸部の特別部活動の日。
管理している温室を飛び出しては、外での活動となります。
とはいっても場所は同じ校内ですけれど。
「総員、せいれーつ!」
部長の威勢のいい掛け声により、部員たちはすぐさまビシっと横並びとなります。
園芸部の部長は大谷津姫という三年生の女性です。
細目でほんわかした雰囲気を持ち、三つ編みがとても良く似合うおっとりした先輩で、花と土をこよなく愛す、胸もたわわな淑女。
豊穣を司る女神のような彼女ですが、さすがは園芸部の看板を背負っているだけあって、植物関係の知識は相当なもの。また研究熱心でもあり、新入生へと向けた部活紹介イベントのおりに公開された、あのステキな銀のバラを手がけたというのですから、本当にたいしたものです。
知識をひけらかしたり、えらそうに振る舞うこともなく、新入部員のクダンちゃんにも親切にしてくれます。
大谷部長は小さい頃から草花が好きだったそうですが、あいにくとサラリーマン家庭で団地暮らし。
庭がないので、ベランダで鉢植えぐらいしか育てられない住環境。
ゆえに大谷部長にとって、園芸部の温室は特別で、思い入れもまた格別。
いずれは郊外に自分だけの花園を持つのが夢なんだとか。
だからなのでしょう。植物を粗略に扱うような行為を見かけたら、頭からにょきにょきツノが生えて、菩薩がとたんに羅刹に変わっちゃう!
クダンちゃんは偶然にも一度だけ、その場面を見かけたことがありました。
あれはサッカー部がうっかり花壇にボールを蹴り入れてしまった時のこと。
きっとわざとではなかったのでしょう。
でも、そのあとがいけません。ズカズカと花壇に踏み込んでしまったのです。
その乱暴狼藉を目にして大谷部長は激怒しました。
当事者たちをショベルでボコボコにしただけでは飽き足らず、サッカー部の部室へと単身抗議に乗り込みました。
あいにくとクダンちゃんが見かけたのは、屈強なサッカー部員たちをメタメタにしているところだけにて。
そのあとのことですが、ウワサに聞くところでは、居合わせた部員らをまとめて固い地面の上に正座させ、さらに膝の上に40Lサイズのガーデニング用培養土の袋を重石代わりにのせて、こんこんと一時間も説教をしたというから凄まじい。
大谷津姫という御仁は、自他ともに認める園芸の鬼です。
みんなが揃うを見届けてから、大谷部長は続けて――
「装備かくにーん! 頭から順に、麦わらー」
「「「「「麦わらー」」」」」
部長の掛け声を部員たちは復唱しつつ、自分の装備を指さし確認する。もちろんクダンちゃんもいっしょに声を張りあげます。
この調子で続けて、アームカバー、軍手、タオル、作業用エプロン、つなぎのズボン、長靴などなど。忘れ物がないかをチェックしていきます。
それが終わったら「総員、右向け右! 進め!」
ピッ、ピッ、ピッ、ホイッスルを吹き先導する大谷部長に、クダンちゃんたち部員らはついていきます。
その姿は軍隊の勇ましい行進――というよりかは微笑ましいカルガモ親子のお引越しのよう。
あっ、そういえば本物のカルガモ親子の移動も、そろそろのはず。
毎年、四月頃に人工池でタマゴから孵って、五月の上旬に第13ドーム内を縦断している芥川へと移動します。風物詩みたいなものにて、そのさなかには道路が封鎖されて、リアルタイムでテレビ中継も入ります。
毎年、クダンちゃんもテレビの前にかじりついては、ハラハラしながら見守っているうちのひとり。
それはさておき……
園芸部一同が向かったのは校舎の前庭です。
本日は月に一度の庭木の手入れの日。
園芸部はそのお手伝い。
えっ、いやじゃないのかですって?
とんでもない! むしろ逆です。
なにせ間近の特等席にてプロの庭師たちの技をじっくり拝見できて、なおかつ運がよければいろいろアドバイスもいただけるのですから。部のOBのなかには、これが縁となって庭師に弟子入りした方もいるんだとか。
ですから園芸に携わる者としては願ったりかなったりなのです。
前庭に到着した園芸部一同は、直立不動にて待機中。
そうしたらさして時を置かずに、ゆるゆると軽トラックが近づいてきました。
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