43 / 71
042 デパートへGO! ― 迷子
しおりを挟むクダンちゃんがたまたま座ったベンチで相席することになったのは、人生の迷子中という中年の男性です。
男性はぽつぽつと身の上話を始めました。
彼が働いているのは、食品加工の機械を販売する会社です。
誠実な人柄とコツコツと積み上げてきた実績もあって、男性の営業成績は安定しています。
たいへんな時もあり、順風満帆とまでは言えませんけど、わりと充実した日々。
ですが、ある日のことでした。
社長から「今度、売り出す新商品だ。うちの息子が仕入れてきたんだぞ。次期社長の箔づけにもなるから、バンバン売り込みを頼むぞ」と営業部にお達しがありました。
だから営業部一同も「がんばるぞ、おーっ!」と意気込んだのですけれども……
新しい機械は毎分100個ものお饅頭を作れるというモノ。
しかもたんに数をこなすだけじゃない。いろんな形や種類のお饅頭を同時に作れるというからたいしたものです。
しかし商品を売り込むには、ちゃんと説明ができなければなりません。詳しくなる必要がある。だから中年の男性もしっかりと機械について学びました。
けれども、そのせいで気がついてしまったのです。
何に気がついたのかといえば、この機械がとんだ欠陥品だということに!
欠陥その一。
500個に数個の割合でミスをする。
欠陥その二。
10000個を越えたあたりで息切れをおこし、ガタっと生産量が落ちて故障がちとなる。
その一はともかく、その二の方は、わりと深刻です。
工場での大量生産を目的としての設置であれば、生産ラインが止まりかねません。
「なんだよこれ? とんだポンコツじゃないか! こんなの、とてもじゃないけどお客さまに紹介なんてできやしないよ」
中年の男性は憤り、すぐに上司にかけ合いました。
ですが、上司は「いやあ、あのぅ、そのぅ」しどろもどろ、どうにも煮え切らない態度です。
どうやらこの機械を仕入れてきたのが社長の息子ということもあり、あまり波風を立てたくないみたい。
このままでは埒が明かないと判断した男性は、意を決して社長に直談判しました。
ですが、返ってきた言葉は信じられないような内容だったのです。
「そうか……まぁ、しょうがないな。かまわんから売りなさい。
頻繁に故障する? けっこうけっこう。そんなのは先方の取り扱いが悪いと言い張ればよろしい。それにメンテナンス費用をその都度請求すれば、うちはますます儲かるじゃないか」
あえて欠陥品を売りつけ、さらには修理代までせしめる。
そんなことを臆面もなく口にする社長に、男性は幻滅し、呆れ、たいそう憤りました。
男性は怒りのままに社長室を飛び出し、周囲に「こんな不正が許されていいのか!」と声をあげて訴えました。
ですが、社員のみんなはサッと顔をそらすばかりで、目も合わせようとしません。
不正はよくない。
その考えはとても正しい。
けれども今回のことに言及すれば、社長からも、次期社長である息子からもにらまれてしまう。もしもそんなことになったら、いったいどんな酷い目に合うことやら。
それにことが発覚したら会社にも大ダメージです。
もしもこれがきっかけで経営が傾いたり、会社が潰れてしまったら、そろって路頭に迷うことになるでしょう。
触らぬ神に祟りなし、寄らば大樹の陰と昔から申します。
だからみんなはあえて口をつぐみ、見て見ぬフリをすることにしたのでした。
騒ぐは自分ばかり。
そんな状況に、男性は嘆き絶望しました。
さなか男性の肩をポンと叩いたのは上司です。
上司は言いました。
「正義の味方もけっこうだが、君にも家庭があることだしねえ。息子さん……たしかそろそろ受験じゃなかったか」
家族のことを言われて、男性はビクリ。
ひたひたと迫る同調圧力を前にして、男性は己が非力を痛感するばかりにて。
〇
「あぁ、いったいどうしたらいいんだろう……」
ひとしきり吐き出し、中年男性はうなだれています。
聞けば聞くほどに酷い話にて、クダンちゃんもたいそう気の毒におもいました。
すると、その時のこと。
急にビビビときて、クダンちゃんの脳裏にとある映像が浮かびました。
これは予知です。
見えた映像は左右分割にて。
左側は、ウソをついて機械を販売し続けた時の場合です。
右側は、正直に話して会社を告発した時の場合でした。
左側の未来では、一時的に会社の業績は右肩上がりになるも、次期社長となったところで諸々が発覚し、信用ガタ落ちとなり、会社に債権者やダマされた人たちが押し寄せていました。
右側の未来では、中年の男性は会社に居場所を失くし、ひとり社を去ることに。
ですが、捨てる神あれば拾う神あり!
彼の勇気ある行動を見ていた者いて、それがなんと……
人生の迷子の進むべき道は当然、右です。
だからクダンちゃんはちょっとだけ後押ししてあげました。
「なにも迷うことはありません。あなたはあなたの信念を貫けばいいのです。
心配はいりません。ご家族はそんなあなたをきっと誇りにおもうでしょう。
そして、そんなあなたのことをちゃんと見てくれている人はきっといるはずです」
この言葉を受けて、中年男性は「そうか、そうだよな。うんうん、やっぱりお客さまに不義理なマネなんてしちゃいけない」と立ち上がり「ありがとう、なんだか君のおかげで迷いが晴れたようだ。よぉし、やるぞー」
意気揚々と遠ざかっていく背は、もはや丸まってはいません。
それを見送りクダンちゃんは小さな声で「けっぱれ」とエールを送りました。
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜
野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」
「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」
この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。
半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。
別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。
そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。
学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー
⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。
⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。
※表紙絵、挿絵はAI作成です。
※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか
サクラ近衛将監
ファンタジー
レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。
昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。
記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。
二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。
男はその未来を変えるべく立ち上がる。
この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。
この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。
投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。
詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~
Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」
病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。
気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた!
これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。
だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。
皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。
その結果、
うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。
慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。
「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。
僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに!
行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。
そんな僕が、ついに魔法学園へ入学!
当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート!
しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。
魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。
この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――!
勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる!
腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる