それいけ!クダンちゃん

月芝

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042 デパートへGO! ― 迷子

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 クダンちゃんがたまたま座ったベンチで相席することになったのは、人生の迷子中という中年の男性です。
 男性はぽつぽつと身の上話を始めました。

 彼が働いているのは、食品加工の機械を販売する会社です。
 誠実な人柄とコツコツと積み上げてきた実績もあって、男性の営業成績は安定しています。
 たいへんな時もあり、順風満帆とまでは言えませんけど、わりと充実した日々。
 ですが、ある日のことでした。
 社長から「今度、売り出す新商品だ。うちの息子が仕入れてきたんだぞ。次期社長の箔づけにもなるから、バンバン売り込みを頼むぞ」と営業部にお達しがありました。
 だから営業部一同も「がんばるぞ、おーっ!」と意気込んだのですけれども……

 新しい機械は毎分100個ものお饅頭を作れるというモノ。
 しかもたんに数をこなすだけじゃない。いろんな形や種類のお饅頭を同時に作れるというからたいしたものです。
 しかし商品を売り込むには、ちゃんと説明ができなければなりません。詳しくなる必要がある。だから中年の男性もしっかりと機械について学びました。
 けれども、そのせいで気がついてしまったのです。
 何に気がついたのかといえば、この機械がとんだ欠陥品だということに!

 欠陥その一。
 500個に数個の割合でミスをする。

 欠陥その二。
 10000個を越えたあたりで息切れをおこし、ガタっと生産量が落ちて故障がちとなる。

 その一はともかく、その二の方は、わりと深刻です。
 工場での大量生産を目的としての設置であれば、生産ラインが止まりかねません。

「なんだよこれ? とんだポンコツじゃないか! こんなの、とてもじゃないけどお客さまに紹介なんてできやしないよ」

 中年の男性は憤り、すぐに上司にかけ合いました。
 ですが、上司は「いやあ、あのぅ、そのぅ」しどろもどろ、どうにも煮え切らない態度です。
 どうやらこの機械を仕入れてきたのが社長の息子ということもあり、あまり波風を立てたくないみたい。
 このままでは埒が明かないと判断した男性は、意を決して社長に直談判しました。
 ですが、返ってきた言葉は信じられないような内容だったのです。

「そうか……まぁ、しょうがないな。かまわんから売りなさい。
 頻繁に故障する? けっこうけっこう。そんなのは先方の取り扱いが悪いと言い張ればよろしい。それにメンテナンス費用をその都度請求すれば、うちはますます儲かるじゃないか」

 あえて欠陥品を売りつけ、さらには修理代までせしめる。
 そんなことを臆面もなく口にする社長に、男性は幻滅し、呆れ、たいそう憤りました。
 男性は怒りのままに社長室を飛び出し、周囲に「こんな不正が許されていいのか!」と声をあげて訴えました。
 ですが、社員のみんなはサッと顔をそらすばかりで、目も合わせようとしません。

 不正はよくない。
 その考えはとても正しい。
 けれども今回のことに言及すれば、社長からも、次期社長である息子からもにらまれてしまう。もしもそんなことになったら、いったいどんな酷い目に合うことやら。
 それにことが発覚したら会社にも大ダメージです。
 もしもこれがきっかけで経営が傾いたり、会社が潰れてしまったら、そろって路頭に迷うことになるでしょう。
 触らぬ神に祟りなし、寄らば大樹の陰と昔から申します。
 だからみんなはあえて口をつぐみ、見て見ぬフリをすることにしたのでした。

 騒ぐは自分ばかり。
 そんな状況に、男性は嘆き絶望しました。
 さなか男性の肩をポンと叩いたのは上司です。
 上司は言いました。

「正義の味方もけっこうだが、君にも家庭があることだしねえ。息子さん……たしかそろそろ受験じゃなかったか」

 家族のことを言われて、男性はビクリ。
 ひたひたと迫る同調圧力を前にして、男性は己が非力を痛感するばかりにて。

  〇

「あぁ、いったいどうしたらいいんだろう……」

 ひとしきり吐き出し、中年男性はうなだれています。
 聞けば聞くほどに酷い話にて、クダンちゃんもたいそう気の毒におもいました。
 すると、その時のこと。
 急にビビビときて、クダンちゃんの脳裏にとある映像が浮かびました。
 これは予知です。

 見えた映像は左右分割にて。
 左側は、ウソをついて機械を販売し続けた時の場合です。
 右側は、正直に話して会社を告発した時の場合でした。

 左側の未来では、一時的に会社の業績は右肩上がりになるも、次期社長となったところで諸々が発覚し、信用ガタ落ちとなり、会社に債権者やダマされた人たちが押し寄せていました。
 右側の未来では、中年の男性は会社に居場所を失くし、ひとり社を去ることに。
 ですが、捨てる神あれば拾う神あり!
 彼の勇気ある行動を見ていた者いて、それがなんと……

 人生の迷子の進むべき道は当然、右です。
 だからクダンちゃんはちょっとだけ後押ししてあげました。

「なにも迷うことはありません。あなたはあなたの信念を貫けばいいのです。
 心配はいりません。ご家族はそんなあなたをきっと誇りにおもうでしょう。
 そして、そんなあなたのことをちゃんと見てくれている人はきっといるはずです」

 この言葉を受けて、中年男性は「そうか、そうだよな。うんうん、やっぱりお客さまに不義理なマネなんてしちゃいけない」と立ち上がり「ありがとう、なんだか君のおかげで迷いが晴れたようだ。よぉし、やるぞー」

 意気揚々と遠ざかっていく背は、もはや丸まってはいません。
 それを見送りクダンちゃんは小さな声で「けっぱれ」とエールを送りました。


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