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046 決闘カード
しおりを挟む刻一刻と終了時間が迫っている。もはや猶予はない。
タイムアップを迎えた時点で、コインの獲得枚数の差で負けが確定する。
だからとてまともに撃ち合っても勝ち目はない。
ならばどうする? どうしたらいい?
悩めるわたしが、ふと思い出したのは一枚のカードのこと。
宿屋兼ホテルで遭遇した二人組のアウトローを倒してゲットした決闘カードだ。
これを提示されたものは、必ず一対一の決闘に応じなければならない。
もはや生き残りはわたしと牙寿郎のみ。
いまとなっては無用の品のようにおもわれるのだけども。
――はたして本当にそうなのか?
ウエスタンストリートにやってきた直後に目撃した、決闘の光景をよくよく思い返してみる。
「あの時……男たちはどんな風に立ち回っていたっけ」
真昼の決闘。
たしか男たちは背中合わせに立ち、合図とともに同時に歩き出し、三歩進んでからふり返っては銃を抜き放っていた。
あの一連の動作が決闘の作法ともいうべきものだとして。
さすがにズルをして背中から撃つような卑怯なマネはダメだろう。
けど……
「……いや、ちょっと待って。もしかしたらイケるかもしれない」
わたしはピコンとある秘策を思いついた。
だが、それを実行するには仕掛ける場所こそが大事となる。
運がいいことに、わたしには場所の目星がついている。単身であちこちコソコソ移動していたのが、ここにきて役に立つ。
「よし! ダメでもともと。いっちょうやったるか」
意を決してわたしは作戦を実行すべく行動を開始した。
〇
あえて表通りに姿を見せたところ、さっそく発見されてバンバン撃たれる。
懸命に逃げるわたしを追う牙寿郎は余裕顔だ。
実力差は明白にて、はなから勝負になんぞなりゃしない。
大人と子どもという体格差もあって、あっという間に追い詰められてしまう。
いよいよトドメという段になったところで、わたしは「ちょっと待ったーっ!」
取り出したのは決闘カードである。
もはや雌雄は決したも同然にて、「この期におよんでなにをいまさら」と牙寿郎は鼻白むも、ルールはルールである。
「しょうがねえ、付き合ってやるよ」
牙寿郎はしぶしぶ決闘に応じた。
わたしはさりげない仕草にて、膝やお尻についた土埃を払いつつ、チラリ。
確認したのは現在位置と目当ての建物だ。狙い通りばっちり、都合がいいことに扉も開いたままになっており、わたしはほくそ笑む。
〇
ウエスタンストリートを舞台にした総勢百名にもよるサバイバルゲーム。
クライマックスは、わたしと牙寿郎の決闘による一騎討ち。
締めにはふさわしいシチュエーションにて。
わたしは緊張した面持ちにて立つ。
背中合わせにいる牙寿郎はとくに気負うこともなく平然としている。
「嬢ちゃん、決闘のルールはわかっているのか?」
「うん、三歩進んでから、ふり返って撃つんでしょう」
「その通りだ」
確認を終えたところで、いよいよとなる。
「それじゃあ始めよう」
牙寿郎の合図で、ふたりは動き出す。
一歩……二歩…………三歩っ!
バッとふり返った牙寿郎は銃を抜くも「はぁ?」
口をポカンとさせたのは、そこにいるはずの相手の姿がなかったから。
どこに行ったのかとおもえば、最寄りの建物へと向かって走って行くではないか。
わざわざ決闘を挑んでおいて、まさかの敵前逃亡。
意表を突かれたもので、さしもの牙寿郎も一瞬目が点になった。
その隙にわたしはまんまと目星をつけていた建屋内へと駆け込むことに成功する。
きちんと三歩進んでからの行動ゆえにルールには従っている。
とはいえ、かなり怪しいグレーゾーンかつ、決闘を冒涜するような行為にて。
目くじらを立てた牙寿郎は「ふざけんなっ!」とすぐに追いかけるも、屋内に踏み込んだところで「――っ!」
ここは婦人客を相手にした服屋にて、室内には多数のウエスタンファッションに身を包んだマネキンたちが飾られている。
しかしそんな店内にはふさわしくないものがひとつあった。
床に転がっていたのは一本の筒状の品。
ダイナマイト――を模したおもちゃ。
これこそが雑貨屋でわたしが手に入れたお助けアイテムである。
使い方は簡単だ。
導火線のところをグイと引っ張れば、メジャーの巻き戻しみたいにジジジと動いて、導火線が完全に取り込まれたところでドカンとなる。
たしかに威力は絶大だ。
けどそれゆえに使用者も巻き込まれかねない。
発動までにタイムラグもある。
諸刃の剣にて使いどころに迷うアイテム。
ちなみにわたしは陳列されているマネキンのプレーリースカートの中にとっくに避難している。お尻が膨らんだデザインが、女子供が隠れるのにちょうどいい広さ。
「くそったれがーっ!」
まんまと罠にはめられたことに気づき、牙寿郎が吠えたのと同時に、ダイナマイトはドッカーン!
といっても、本当に爆発するわけじゃない。
破裂してばら撒かれたのは、大量のスポンジの散弾である。ボフンと硝煙ならぬ粉塵が盛大に舞う。
店内はたちまち煙に包まれ、色とりどりの粉まみれとなった。
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