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006 男と女とカメオ、渚のエトセトラ
しおりを挟むカメオとは大理石や貝殻などに浮き彫りを施したアクセサリーのことである。
人物の横顔が彫られたブローチなどが定番だけれども……
いろはダイヤルの開錠に成功した千花は、金庫から取り出したカメオをひと目するなり「あちゃあー」と天井を仰いだ。
「ビスクドールといい、このブローチといい、青木さんのお父さんってば引きが強すぎるよ」
いわくつきの人形と、いわくつきのカメオを、わざわざ選んで購入している。しかも同時期に。たまたまなのか? それとも元からそういうモノを引き寄せる体質なのかはさておき。
「そいつをとっとと叩き壊すのデース。それで万事キュウス」
とエリザベート。
「いやいや、ダメじゃん。それだとバッドエンドだから」
万事休す――何もかもおしまい。もはやお手上げの意。
岡本さんはチャラチャラした見た目に反して、意外に学があることを披露しつつ「にしても、こいつがねえ? キレイなもんじゃないか。これが凛子の家に悪さをしているとはとても信じられないんだけど」と、千花の背後から肩越しに覗き込んでは小首をかしげている。
カメオに彫られているのは左を向いた女性の横顔。
モチーフやデザインこそはありふれているけれども、彫りの出来はなかなかよい。
でも……
千花はカメオの右縁を指先で撫でながら言った。
「これ……たぶん、カットされたものだ」と。
もとはもっと大きな品、おそらくは男女が向かい合っていたものを、半分に割って男女別々に再加工したようである。
そのことに言及したとたんに、千花の頭の中にありありと。
とある映像が浮かんできた。
夕暮れ時の渚にて――
カップルが揉めている。
声までは聞こえないけれども、雰囲気から別れ話のようだ。
そのうちに一方的に話を切り上げた男性の方が、きびすを返す。
離れていく男性に追いすがる女性。
けれども掴んだ腕を乱雑にふり払われて、女性は砂の上に横倒しとなりシクシクシク……
さめざめと泣く女性だが、男性はちらりと一瞥したきりにて助け起こすこともせずに、さっさと行ってしまった。
どうやら女性は男性に捨てられたようである。
まさに悲劇!
プツンと、そこで映像は終わった。
現実へと戻ってきた千花は「そういうことか」とすべてを察し嘆息する。
このカメオ、もとは男女で対になった構図であったのだ。
おそらくは盛り上がったカップルが、自分たちをモデルにして作ったのだろう。
けれども破局した。
こうなると残されたカメオは当事者たちにとっては思い出の品というよりも、黒歴史の遺産となる。
男と女、どちらがやったのかはわからない。
あるいは品物を引き取った業者が「縁起が悪いから」と分けたのかもしれないけれど。
かくして持ち主たちの別れとともに、カメオもまたバラバラにされてしまった。
いきなり愛しのダーリンと引き離されたカメオ(女)は、すっかりお冠にて。
ゆえに幸せそうな持ち主を妬んでは、「おまえたちも不幸になれ~」と祟っていたという次第。
明らかとなったカメオの事情について。
千花から説明を受けた岡本さんは「ちっ、クズ男死ね! ハゲろ!」と憤り、エリザベートも「ガッデム! モゲてしまえデース!」とやはり憤り、手のひらを返し、祟るカメオにおおいに同情する。
さりとて、無関係の青木一家に障るのは八つ当たりだろう。とんだ筋違いにて。
そこで諸々を踏まえた上で、千花が示した解決策は……
「よし! 新しい男をあてがおう」
終わった恋にいつまでもウジウジするより、次である。
イケメンが彫られたカメオを見繕って、それとペアにしておけば祟りもおさまるはず……たぶん?
イケメンカメオの仕入れと販売をすることで、伯天堂にも利益があるから、千花もウハウハ。みんなハッピーである。
「たぶんって、いい加減だなぁ。本当に大丈夫かよ。
というか、ふつう、こういう場合って、お札とか呪文で『えいやっ』と調伏するんじゃないの?」
「あんまり無茶いわないでよ岡本さん、私はしがない古道具屋の娘だよ? 知識や耐性こそは多少あるけれど、霊能力とかさっぱりだし」
言われてみれば、たしかにその通りにて。
今度の一件で千花がしたことといえば、人形の首根っこを掴んだり、脅して言うことを聞かせたり、金庫を開けたり。イケメンなカメオをあてがうのも、すべて現実的な手段にてオカルト要素は皆無だ。
「……なんだか想像していたのとちがうなぁ」との岡本さんに、「勝手に期待されても困る」と千花は肩をすくめつつ、手の中のカメオ(女)に向かって、「そういうわけだから、イタズラはもうやめてよね。その代わり、とびっきりのイケメンカメオを連れてきてあげるから」と諭す。
するとその気持ちが通じたのか、フッと家の中の空気が軽くなったような気がした。
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