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014 大きなのっぽの古時計
しおりを挟む隣室へと移動した千花たちであったが、お目当ての壁掛け時計があったはずの場所を確認するなり――
「げっ!? なんか縦にのびてる」
「のびてるっていうか、これは完全に置時計だよね」
柱に設置されていたゼンマイ式の振り子の掛け時計が、いつのまにやら床に据え置く大きなのっぽの古時計と入れ替わっていた。
あの有名な童謡、そのまんまの見た目である。
ヴィンテージ? アンティーク?
専門知識がないので、千花にもちょとわからない。文字盤のところがローマ数字じゃなくてアラビア数字(1、2、3……みたいなお馴染みのやつのこと)なので、おそらくは和製とおもわれるけど。
にしてもデカくて尊大でえらそうだ。
擬人化したら、絶対にカイゼル髭を生やしていそう。
そんな古時計が左右に振り子を悠然と揺らしては、チクタク、チクタク。
――ちょっと目を離した隙に、時計がでっかくなっちゃった!
いつのまにこんな大きな物を……とんだイリュージョンである。
はじめこそはこの事態に戸惑っていた千花だが、すぐに気を取り直して時計を調べ始めた。芹那も手伝う。
どうみたってまともじゃない。
だから、こいつがきっと騒動の元凶なのだろうと、ふたりは考えたのだけれども……
「ない! ない! な~んにもない! ……どうして?」
わけがわからず、千花はガシガシ頭をかく。
一方で芹那は興味深げに、時計の内部をしげしげ眺めている。
「ほうほう、どの歯車もピカピカ、サビひとつ見当たらない、か。
パーツごとのかみ合わせも問題ないし、こまめに油を差してはしっかりメンテナンスをしているようだね。機械工学部の知り合いが見たら、きっと大はしゃぎするわね」
壁掛け時計が変じて? あらわれた大きなのっぽの古時計。
こちらも朱漆の鏡台と同様に、くまなく調べてみたけれども、とくに異常なし。
女の髪の毛も、切断された男の小指も、血濡れた刃物も、怪しげな札も、紙の人形も、動物の骨も、サルの手のミイラも入っていない!
なかに詰まっているのは、時計のからくりに必要な機械だけ。
そして古時計は特に悪さをするわけでもなく、ただチクタク、チクタク、たまにボーンボン♪ 時を刻むだけ。
存在そのものは不審の塊だけれども、その身は潔白にて。
「だったら、どうしてあらわれたのよ? さも自分がラスボスみたいな顔をして、まぎらわしい!」
イラ立つ千花は古時計を蹴飛ばすも、相手はビクともせず。重固いっ!
かえって蹴った足の方がジンジン痛み、千花は涙目になった。「うぅ」
それを「どうどう」となだめる芹那。
ふたりはいったん落ちついて、あらためて現状を整理することにした。
・絶賛、旧家にて怪異に囚われ中。
・ふたつの部屋を行ったり来たり。
・朱漆の鏡台が怪しい。けど存在以外は不審な点はなし。
・掛け時計が変じたのっぽの古時計も怪しい。けど存在以外は不審な点はなし。
・スマホは圏外。外部に助けは呼べない。
・精神的な疲労は感じるものの、不思議と喉の渇きや空腹は覚えず。お花摘みも……
・もしかしてここの時間は止まっている? 時計の針は動いてるくせに。
・直接仕掛けてこないことから、千花たちに危害を加える気はないっぽい?
とりあえず思いついたことをふたりで言い合っては、箇条書きしてみる。
まとめたメモをにらんでは、ふたりして「う~ん」
「過去の経験則からすると、こういうケースの場合、だいたい2パターンなんだけどねえ」と千花。
「2パターン?」
「うん。ひとつは、恨み骨髄パターン。これはそのまんまだね。不義理をされて「おのれぇ!」とブチ切れるの。怒りが向かう対象が特定されている分にはいいんだけど、無差別の場合、巻き込まれたらとんだ災難、ご愁傷様。
でもってもうひとつは、お願いパターン。
こちらは、何かやって欲しいことがあって、引き留めていることが多いかな。
どうも今回は、こっちのパターンっぽい気がする」
「願いを察して、叶えてあげたら脱出できるってことかしら?」
「そういうこと。いま巷で流行っているリアル脱出ゲームみたいな」
リアル脱出ゲームとは、遊園地や野球場、学校、地下鉄などさまざまな場所を舞台にして、参加者たちが物語の主人公となって謎を解き、脱出を試みる体験型イベントのこと。
それにちょいとホラー要素が足されたシチュエーションが、いまの自分たちを取り巻く状況である。
「だからリアル脱出ホラーゲームとおもえばへっちゃら」
「……なわけないじゃない。そもそもヒントもなしで、どうしろと? ならばさっさと虎の子のお札を使っちゃった方がいいんじゃない」
「あー、そうしたいのは山々なんだけど……」
千花は気まずそうに目をそらした。
怪異にぺたりとお札を貼れば、たちどころに解決する。
でも、今回の場合だと怪しいのが二つある。
しかしお札は一枚しかない。
でもって、このお札……じつは使い切りタイプ。貼ったとたんに込められた法力やら霊力が放出されてしまう。だから対象をきちんと見極めてから使用しなければならない。
なのに朱漆の鏡台と大きなのっぽの古時計、どちらも怪しいときたもんだ。
「だったら、ふたつまとめて」と言い出す芹那に、千花は首を振る。
「無理、どっちもクソ重かったじゃん」
古時計の方は見るからに重く、蹴っ飛ばしてもビクともせず。
鏡台の方は一見するとどうにかなりそうだが、まるで根を張っているみたいで、これまた微動だにせず。
それは調べているさなかに判明している。
とどのつまり、どちらも移動不可ということ。
「どうする芹那さん。
確率は二分の一、一か八かに賭けてお札を貼ってみる?
それとも地道に家探しする?」
「ギャンブルはさすがにちょっと。でも家探しするのはどうしてなの」
「あぁ、それはわざわざこの場所、このふたつの部屋に限定して閉じ込められたから。
もしお願い事があると仮定した場合、それが他の場所に関することだったらどうしようもないじゃない。
だから、きっとここに何かあるんじゃないのかなぁって」
「おぉ! なるほど。言われてみればたしかにそうかも」
「というわけで、とりあえず手分けしてちゃっちゃと漁ってみようか」
「了解」
……というわけで、ふたりはさっそく室内の捜索を始めた。
押し入れにタンスに床の間の天袋に地袋、ダンボールに缶ケースなどなど。調べる箇所や物はたんとある。
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