古道具屋・伯天堂、千花の細腕繁盛記

月芝

文字の大きさ
23 / 111

023 ギャルの矜持とハイキック

しおりを挟む
 
 はっ、はっ、はっ、はっ……

 階段を一段飛ばしで駆けあがっていく。
 途中の踊り場にあった鏡。
 チラッと見れば、隅の方におさげの制服姿が映っていたような気がするけれども、戻って確認している余裕はない。
 二階に到着したところで、すぐさま方向転換。
 直角に右へと曲がっては、長い廊下をひたすら直進、前へ前へと。
 息せき切っては懸命に手足を動かし、走り続ける。
 でもそのかいあって、これならどうにか鎧武者を振り切れるとおもった矢先のことであった。

「そんな!?」
「これは……」
「オー」

 二階の廊下を三分の二ほど進んだところで、千花たちの前に立ち塞がったのは、まるでバリケードのごとく積み上げられた大量の机やイス、段ボール箱などなど。
 これでは先に進めない。

「どうしてこんなところに?」

 進退窮まった。千花は愕然とする。
 けれども進める者が一行のうちに一体だけいた。
 それはビスクドールのエリザベートである。小柄な人形の身ならば、どうにか机やイスの合間を縫って抜けられそう。

「じゃあ、そういうことで。センカ、キコ、健闘を祈る。グッドラック」

 さっさと自分だけ逃げようとするエリザベート。
 だが逃げられない。
 むんずと襟首を綺子に掴まれ引き戻される。

「行かせねーよ。こうなったらてめえも道連れだ」
「ノー! ワタクシ、斬首やハラキリはイヤなのデース」

 そんなのは千花だってごめんである。
 ジタバタ暴れる人形を拘束したまま、綺子が言った。

「逃げ道はない、か。こうなったらもう買うっきゃないね、センカ」
「へ? 買うって……いったい何を」
「もちろん売られたケンカさ」

 まさかの発言!
 ギャルは意外と勝ち気で好戦的?
 戸惑いを隠せない千花だが、そうしている間にも背後から聞こえてきたのは、ガチャリ、ガチャリというあの足音。

 ――こっちに近づいてきている!

 千花がふり返れば、鎧武者はちょうど階段をあがりきるところであった。

「こっちだ」

 綺子は最寄りの教室のドアを開けて中へと。
 促されるままに千花もあとに続く。
 ドアを閉めたところで、室内を見渡せば……
 古ぼけた地球儀に、鉱石の標本、アンモナイトの化石などがあって、隅に置いてある大きな巻物みたいなのは……授業で使っていた地図のようだ。
 いま時の授業ではスクリーンですませてしまっているが、かつてはいちいち大きな地図を吊り下げては授業をしていたものである。

 千花らが逃げ込んだところは地学教室であった。
 ざっと室内を見てから、綺子が矢継ぎ早やに言った。

「エリザベート、あんたはそこで座ってな。センカはでっかい地図を持って、そっちへ」

 言われるままに動き、千花が配置についたのはドア内の左脇のところである。
 反対側には綺子が陣取る。

「センカはあの鎧野郎が入ってきたら、そいつで思いっ切り向う脛をぶん殴ってやりな」

 向う脛――弁慶の泣き所。
 屈強な男もここを打たれたら、悶絶して涙目になるという人体の急所である。
 どうやらギャルは扉を開けて相手が押し入ってきたところを、ガツンとかますつもりのようだ。
 にしても、じつにテキパキしている。

「えーと、キコってば妙に手慣れてない?」
「あー、ほら、あたいらってばこんな格好をしてんじゃん。それで、ちょいちょい絡んでくるバカがいるんだよね。でもって、そういうバカは、こっちがおとなしくしていたら、すぐに勘違いして調子こくから」

 ギャルの世界はナメられたらおしまい。
 言うべきことはきっぱり言い、正すべきことは毅然と正す。
 そして物分かりの悪い相手には、実力行使も辞さず。
 一見するとちゃらちゃらしているようで、通すべき筋はきちんと通し、己を貫く。
 じつはとっても硬派はギャル界隈。そんじょそこらのなんちゃってヤンキーどもより、よっぽど気合いが入ってる。
 

 千花とエリザベートは、揃って「「へー」」
 いやはや、傾奇者もたいへんだ。
 などと感心しているうちに、教室の扉がガタガタガタ……
 ついに鎧武者がきた! ヤツが扉を開けようとしている。

 ……
 …………ガラリ。

 扉が開いた。
 抜き身の刃を手に、のそりと鎧武者が入ってくる。
 そのタイミングで「いまだ!」と綺子が叫んだ。
 不意打ちならば黙っていたほうがいいのでは? とおもうがこれも彼女の作戦のうち。
 あえて声を出すことで、自分の方へとヤツの注意を引きつけたところで――

「どっせい!」

 地図を丸めた物を千花は力任せにぶぅんと振った。狙うは膝下のあたり。

 ガンッ!

 鈍い音がして、したたかに右足の脛を殴打された鎧武者、脛当ての上からとはいえ衝撃は相当であったらしく、その身がつんのめるようにして前へと傾ぐ。
 そこへ間髪入れずに放たれたのは、ギャルのハイキック!

「シヤッ!」

 鋭い息吹とともに綺子の足が跳ね上がった。
 その様は地から天へと昇天する竜のごとし。
 スカートひらりで、中身もちらり。
 でも安心してください。ちゃんとスパッツ履いてますから。
 にしても見事な蹴りにて、美しいフォームに千花はおもわず見惚れてしまった。
 エリザベートも「ワーオ、カラテガール」とはしゃいでは、やんやと手を叩く。

 綺子の蹴りはクリーンヒット!

 まともに顔面に受けた鎧武者が廊下へと吹っ飛んでいく。
 どう見ても素人の蹴りじゃない。
 そのことを千花が指摘したら「おや、まだ言ってなかったっけか。うち、小さいけど道場をやってんだ」と綺子はウインク。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

乙女フラッグ!

月芝
キャラ文芸
いにしえから妖らに伝わる調停の儀・旗合戦。 それがじつに三百年ぶりに開催されることになった。 ご先祖さまのやらかしのせいで、これに参加させられるハメになる女子高生のヒロイン。 拒否権はなく、わけがわからないうちに渦中へと放り込まれる。 しかしこの旗合戦の内容というのが、とにかく奇天烈で超過激だった! 日常が裏返り、常識は霧散し、わりと平穏だった高校生活が一変する。 凍りつく刻、消える生徒たち、襲い来る化生の者ども、立ちはだかるライバル、ナゾの青年の介入…… 敵味方が入り乱れては火花を散らし、水面下でも様々な思惑が交差する。 そのうちにヒロインの身にも変化が起こったりして、さぁ大変! 現代版・お伽活劇、ここに開幕です。

少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。

昼寝部
キャラ文芸
 俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。  その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。  とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。  まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。  これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

柳鼓の塩小町 江戸深川のしょうけら退治

月芝
歴史・時代
花のお江戸は本所深川、その隅っこにある柳鼓長屋。 なんでも奥にある柳を蹴飛ばせばポンっと鳴くらしい。 そんな長屋の差配の孫娘お七。 なんの因果か、お七は産まれながらに怪異の類にめっぽう強かった。 徳を積んだお坊さまや、修験者らが加持祈祷をして追い払うようなモノどもを相手にし、 「えいや」と塩を投げるだけで悪霊退散。 ゆえについたあだ名が柳鼓の塩小町。 ひと癖もふた癖もある長屋の住人たちと塩小町が織りなす、ちょっと不思議で愉快なお江戸奇譚。

ただいまクマの着ぐるみ警報、発令中!

月芝
キャラ文芸
とある地方に、ちょっぴり個性豊かな住人たちが暮らす町があった。 でも近頃、そんな町をにぎわしている変態……もとい怪人がいる。 夜ごと、クマの着ぐるみ姿にて町を徘徊しては、女性に襲いかかり、あろうことか履物の片方だけを奪っていくのだ。 なんたる暴挙! 警戒を強める警察を嘲笑うかのように繰り返される犯行。 その影響はやがて夜の経済にも波及し、ひいては昼の経済にも…… 一見すると無関係のようにみえて、じつは世の中のすべては繋がっているのである。 商店街からは客足が遠のき、夜のお店は閑古鳥が鳴き、関係者の嘆きもひとしお。 なのに役所や警察はちっとも頼りにならない。 このままでは商店街が危うい。 事態を憂い、立ち上がったのは商店街の未来を背負う三人の看板娘たち。 精肉店のマキ、電器屋のシデン、古本屋のヨーコ。 幼馴染み女子高生トリオが、商店街の景気と町の平和の守るために立ち上がった。 怪人に天誅を下すべく夜の巷へと飛び出す乙女たち。 三人娘VS怪人が夜の街でバトルを繰り広げる、ぶっ飛び青春コメディ作品。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...