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023 ギャルの矜持とハイキック
しおりを挟むはっ、はっ、はっ、はっ……
階段を一段飛ばしで駆けあがっていく。
途中の踊り場にあった鏡。
チラッと見れば、隅の方におさげの制服姿が映っていたような気がするけれども、戻って確認している余裕はない。
二階に到着したところで、すぐさま方向転換。
直角に右へと曲がっては、長い廊下をひたすら直進、前へ前へと。
息せき切っては懸命に手足を動かし、走り続ける。
でもそのかいあって、これならどうにか鎧武者を振り切れるとおもった矢先のことであった。
「そんな!?」
「これは……」
「オー」
二階の廊下を三分の二ほど進んだところで、千花たちの前に立ち塞がったのは、まるでバリケードのごとく積み上げられた大量の机やイス、段ボール箱などなど。
これでは先に進めない。
「どうしてこんなところに?」
進退窮まった。千花は愕然とする。
けれども進める者が一行のうちに一体だけいた。
それはビスクドールのエリザベートである。小柄な人形の身ならば、どうにか机やイスの合間を縫って抜けられそう。
「じゃあ、そういうことで。センカ、キコ、健闘を祈る。グッドラック」
さっさと自分だけ逃げようとするエリザベート。
だが逃げられない。
むんずと襟首を綺子に掴まれ引き戻される。
「行かせねーよ。こうなったらてめえも道連れだ」
「ノー! ワタクシ、斬首やハラキリはイヤなのデース」
そんなのは千花だってごめんである。
ジタバタ暴れる人形を拘束したまま、綺子が言った。
「逃げ道はない、か。こうなったらもう買うっきゃないね、センカ」
「へ? 買うって……いったい何を」
「もちろん売られたケンカさ」
まさかの発言!
ギャルは意外と勝ち気で好戦的?
戸惑いを隠せない千花だが、そうしている間にも背後から聞こえてきたのは、ガチャリ、ガチャリというあの足音。
――こっちに近づいてきている!
千花がふり返れば、鎧武者はちょうど階段をあがりきるところであった。
「こっちだ」
綺子は最寄りの教室のドアを開けて中へと。
促されるままに千花もあとに続く。
ドアを閉めたところで、室内を見渡せば……
古ぼけた地球儀に、鉱石の標本、アンモナイトの化石などがあって、隅に置いてある大きな巻物みたいなのは……授業で使っていた地図のようだ。
いま時の授業ではスクリーンですませてしまっているが、かつてはいちいち大きな地図を吊り下げては授業をしていたものである。
千花らが逃げ込んだところは地学教室であった。
ざっと室内を見てから、綺子が矢継ぎ早やに言った。
「エリザベート、あんたはそこで座ってな。センカはでっかい地図を持って、そっちへ」
言われるままに動き、千花が配置についたのはドア内の左脇のところである。
反対側には綺子が陣取る。
「センカはあの鎧野郎が入ってきたら、そいつで思いっ切り向う脛をぶん殴ってやりな」
向う脛――弁慶の泣き所。
屈強な男もここを打たれたら、悶絶して涙目になるという人体の急所である。
どうやらギャルは扉を開けて相手が押し入ってきたところを、ガツンとかますつもりのようだ。
にしても、じつにテキパキしている。
「えーと、キコってば妙に手慣れてない?」
「あー、ほら、あたいらってばこんな格好をしてんじゃん。それで、ちょいちょい絡んでくるバカがいるんだよね。でもって、そういうバカは、こっちがおとなしくしていたら、すぐに勘違いして調子こくから」
ギャルの世界はナメられたらおしまい。
言うべきことはきっぱり言い、正すべきことは毅然と正す。
そして物分かりの悪い相手には、実力行使も辞さず。
一見するとちゃらちゃらしているようで、通すべき筋はきちんと通し、己を貫く。
じつはとっても硬派はギャル界隈。そんじょそこらのなんちゃってヤンキーどもより、よっぽど気合いが入ってる。
千花とエリザベートは、揃って「「へー」」
いやはや、傾奇者もたいへんだ。
などと感心しているうちに、教室の扉がガタガタガタ……
ついに鎧武者がきた! ヤツが扉を開けようとしている。
……
…………ガラリ。
扉が開いた。
抜き身の刃を手に、のそりと鎧武者が入ってくる。
そのタイミングで「いまだ!」と綺子が叫んだ。
不意打ちならば黙っていたほうがいいのでは? とおもうがこれも彼女の作戦のうち。
あえて声を出すことで、自分の方へとヤツの注意を引きつけたところで――
「どっせい!」
地図を丸めた物を千花は力任せにぶぅんと振った。狙うは膝下のあたり。
ガンッ!
鈍い音がして、したたかに右足の脛を殴打された鎧武者、脛当ての上からとはいえ衝撃は相当であったらしく、その身がつんのめるようにして前へと傾ぐ。
そこへ間髪入れずに放たれたのは、ギャルのハイキック!
「シヤッ!」
鋭い息吹とともに綺子の足が跳ね上がった。
その様は地から天へと昇天する竜のごとし。
スカートひらりで、中身もちらり。
でも安心してください。ちゃんとスパッツ履いてますから。
にしても見事な蹴りにて、美しいフォームに千花はおもわず見惚れてしまった。
エリザベートも「ワーオ、カラテガール」とはしゃいでは、やんやと手を叩く。
綺子の蹴りはクリーンヒット!
まともに顔面に受けた鎧武者が廊下へと吹っ飛んでいく。
どう見ても素人の蹴りじゃない。
そのことを千花が指摘したら「おや、まだ言ってなかったっけか。うち、小さいけど道場をやってんだ」と綺子はウインク。
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