古道具屋・伯天堂、千花の細腕繁盛記

月芝

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091 学校へ行こう!

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「未練があって成仏できない!」

 と、うさぎの櫛に宿っている幽霊の日向子。
 昇天するのに協力して欲しいと、千花の枕元に立った彼女。
 なんやかやあって手を貸すことになった千花であったが、その未練とやらの数がべらぼうに多かった。
 書き出してもらったら、ノート2ページに渡ってびっちり。
 ひぃ、ふぅ、みぃ……と数えたら、108個もありやがる。
 もはや未練というよりも煩悩じゃん。

「いくら何でも多すぎ! 10個ぐらいに減らしてちょうだい!」
「え~、無理~」

 幽霊は頑なにて、どれだけ迫ってもうなづくことはなく。
 舌戦は夜通し続けられた。
 しょうがないので、やるだけやってはみるけれど、ある程度は現場判断で妥協する。
 という譲歩案が採用された。

  〇

「ふわぁーっ」

 涙目で大欠伸をしては、千花は眠い目をこすった。
 登校途中でのことだ。完全に寝不足で目がしょぼしょぼしている。
 そろそろ校門が近づいてきたところで、千花は周囲に気をつけながら、スクールシャツの胸ポケットに入れている櫛にこそっと話しかける。

「そろそろ学校につくけど、あんまりはしゃがないでよね。まちがっても誰かに姿を見られたりとかしないように。バレたら絶対に騒ぎになるから」
「はいはい、わかってるって~」

 日向子の死んでからやりたいこと108選。
 ざっと目を通したところ、簡単に処理できそうな案件のひとつに『学校に行きたい』というものがあった。
 どうやら生前の彼女は病弱で、あまり学校には通えなかったようだ。
 入院中、病室の窓から外を眺めては、楽しそうに登下校をしている同年代の子らの姿をうらやましそうに見ていたんだとか。
 なかなかに切ない話である。

 学校シリーズだけで10個ほどあったので、千花はまずこれらをまとめてやっつけることに決めたという次第。
 だが、それには協力者を得る必要があって……

「よっ、センカ、昨日はあれからどうなった……って、ひでえ面だな。やっぱり何かあったのか?」

 うしろから声をかけてきたのは綺子であった。
 共通の友人である青木凛子が、うさん臭い櫛を拾って伯天堂に持ち込んだ場面に居合わせていたので、気になっていたという。
 でも、ちょうどよかった。千花は綺子にも協力を頼むつもりだったので、かくかくしかじか。
 というのも、日向子の望みの中に「学校で友達と乙女トークをする」というものがあったから。

 だったら千花だけでもいいのでは?

 ダメらしい。
 日向子いわく「貴女はちょっと……。私はもっと今時の、キラキラしてイケてる子と、きゃぴきゃぴ華やかなガールズトークをしたいの」とのこと。

 今時でもなく、華もなくて悪かったな!
 ピキっとこめかみに青筋を浮かべるも、千花はグッとガマンをして「だったら知り合いにちょうどいいのがいるから、紹介するよ。彼女なら、こっちの事情も知っているから大丈夫だとおもう」

 その知り合いというのが岡本綺子であった。
 彼女は千花の同学年にて、ピチピチのギャルだ。校内屈指の陽キャ集団に所属しており、まさに今時の女子高生を体現している存在にて。
 千花とはひょんなことから知己を得て以来の付き合いだが、綺子はちゃらい見た目に反して面倒身のいい姉御肌で、中身はごりごりの武闘派だったりもする。
 ぶっちゃけ、そのへんの軟弱な男どもよりも、よほど頼もしい。

 案の定、綺子は「わかった。そういうことならあたいも手伝うよ」とふたつ返事で引き受けてくれた。
 そこで千花は「ほら、日向子からもちゃんとお礼を言いな。キコなら大丈夫だから」と、胸ポケットにある櫛を、トンっと指先で軽く叩けば――

「よろしく~」

 いきなり千花の顔の向こう側に、蒼白い顔がスッと浮かんでは挨拶してきたもので、綺子はギョッ!
 ほんの一瞬のことにて、周囲には気づかれなかったものの、綺子は大きく目を見開いている。

「えっ、お化けなのに朝っぱらから出て大丈夫なのか」
「あー、この子は問題ないみたい。わりとガッツリ系だから」
「ガッツリ系って……家系ラーメンじゃあるまいし」
「というか、そもそもの話、幽霊=夜ってのが間違いだし」
「そうなのか?」
「うん、気づかないだけで昼間でもわりとそこいらをうろちょろしているよ。たぶん、この中にもまぎれ込んでるとおもうし」

 堂々と人混みに紛れていたら、ぱっと見にはまず見分けがつかない。
 わかるのは霊能力とかがある者のみで、千花にはその手のチカラは皆無だ。
 ゆえに気にするだけムダである。
 そう言われて、「マジかよ」と綺子は周囲をきょろきょろ。


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