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008 第二次クマの着ぐるみ討伐戦 ― 忌み地
しおりを挟むふたたび夜のタコ公園に集った三人娘。
……と、スペシャルゲストたち。
三人娘は前回と同様に準備万端、フンスカ鼻息も荒く「今度こそはやっつけてやるぜ!」とやる気に満ち充ちている。
が、それとは対象的にゲストたちは、始まる前からうな垂れており沈痛な面持ちであった。
「ほほほほ、貴女たちでは役不足ですわよ」
ついうそぶいてしまったせいで、引くに引けず。
変態さんを誘き寄せる囮役をするハメになった小泉鏡花はもとより、不運にも巻き込まれてしまったふたりの取り巻きA子とB子もまた、ぶつぶつぶつ……
ふむ、自信あり気に豪語していたわりに、生餌がいまひとつやる気に乏しい。
活きがよくないのは少々気になるところだ。
けれども三人娘にとってはうれしい誤算もあった。
それは鏡花が連れてきたボディガードの存在である。
さすがはお金持ちの家の子はちがう。子どもだけで夜にお出かけなんて許されないのだ。
黒スーツに黒ネクタイ、サングラスに黒い先の尖った革靴をはいた坊主頭の男。
肩幅広く胸板厚く、むっちり逆三角形の上半身、均整の取れた体つきにて、見るからに堅気ではなさげ。
それもそのはず。なにせ鏡花の家は、いまでこそ隣町の不動産王なんぞと呼ばれているが、もとを辿れば春日丘商店街の商会長とご同業であったのだから。
つまりは元地回りということだ。
――えっ、そもそも地回りって何のことかですって?
あーぶっちゃけ、ヤクザもんのことである。
勝手に縄張りを設けては、その地域で商売をしている堅気の衆から、あがりをせしめる連中のこと。
これだけ聞くとまるで寄生虫のようで「不逞野郎だ!」とおもわれるかもしれないが、そうとも言いきれないところが、ちとややこしい。
彼らがいることで外部からのならず者の流入を防いだり、表沙汰にはしたくないトラブルの仲裁役をしてもらったり、その独自の人脈を活かして祭などのイベントごとの段取りをつけたり……などなど。
地回りには、よろず揉め事を解決する地域の顔役としての側面もあったのだ。
非合法の存在なれども、いちおう貰った金銭の分は相応に働いていたのである。
今も昔も、肝心なときに役所と官憲があてにならぬのは同じにて、その足りない分を彼らが担っていた。
鏡花のところのお爺さんや商会長の宇梶鋼太郎は、情に厚く義理を重んじる人情派にて、けっして堅気の衆には手を出さないを信条としており、地域住民から慕われる地回りであった。
選挙のときにだけ地元に顔を出しては臆面もなく「清き一票を」なんぞとほざく、どこぞの政治家に爪の垢でも煎じて飲ませたいものである。
だからこそ組の看板を降ろし、堅気の商売に鞍替えをしたいまでも、地元で堂々とやっていけているのだ。
とはいえ切っても切れぬのが人の縁というもの。
かつての縁を頼っては、いまなおそっち系から人材が流れてきては、そのまま草鞋を脱ぐなんてこともちらほらと。
この入道頭もきっとその口なのだろう。
でもってお世話になっている恩返しにて、大切なお嬢を陰日向となって守っているといったところであろうか……
〇
ただいま作戦前の最終ミーティング中である。
蛾が集る外灯の下で、輪になる一同。
しゃがんで眺めているのは、地面に広げた町内の地図である。
赤ペンでなぞられているのは、あらかじめ設定した順路だ。
それとは別に星印がつけられている箇所があった。
「わかりましたわ。この線のとおりにワタクシは動けばいいのですよね。
ところで……こちらの星印はなんですの?」
地図を指差し訊ねる鏡花に、紫電が作戦の概要を説明する。
「そこは今夜のお客様を迎えるために用意した特設ステージよ」
場所はずいぶん前に廃業した町工場跡。
むき出しの鉄筋の骨組みから漂うは、血の匂い連想させる錆び臭。ところどころ穴があいているトタンの屋根と壁、割れた窓、屋内は埃っぽくて、廃材やゴミなどが隅に山積みのまま放置されており、その奥には大きな開かずの金庫なんかもあったりする。
そこは地理的に風の流れが悪いのか、つねに陰気でジメジメしており、なにより空気が淀んでいる。
商店街にて辻占いをしているマダム徹子に「あそこは風水的には最悪の立地、家相や地相でも同じよ。あんなところで商売を始めるだなんて狂気の沙汰だわ」とまで言わしめた町内きっての忌み地。
そのせいで長らく買い手もつかず、近所の悪ガキどもだけでなく、野良猫すらも近寄らぬ廃屋だ。
ちなみにかつての持ち主は消息不明にて、「じつは後妻に殺されて死体が敷地内に埋められているのでは……」「いやいや、きっとあの金庫のなかに……」なんぞという都市伝説が子どもたちの間ではまことしやかに囁かれている。
「前回は囮だけだったけど今回はちがう。より確実にヤツを仕留めるために、ここに罠を多数仕掛けた。ようは追い込み猟だね」
星印をとんとんと指で叩きながら、紫電はにへら。
どうもこれまでの犯行手口から、クマ公は逃げ足がめっぽう速いらしい。
じつは三件目に被害にあった女性が高校の陸上部員で、たいそう負けん気が強かった。襲われた直後はさすがに驚きのあまり呆けてしまったものの、すぐにハッと我に返るなりかま首をもたげるは怒りの感情。
「おんどりゃーっ、なにしてけつかんねん!」
果敢にもクマ公にシャーッと飛びかかったらしい。
だがクマ公は奪ったスニーカーの片方をくわえて逃げた。
靴をくわえて逃げるクマ公、それを懸命に追う陸上部女子、しばし暗がりの鬼ごっこが続くも「しめた! あの角の先はたしか行き止まりだったはずだ」
いよいよ追い詰めたと、クマ公に続いて角を曲がったものの、そこで陸上部女子はハタと立ち止まることになった。
なんと、クマ公がどこにもいなかったのである。
「えっ、そんな……!?」
陸上部女子は愕然としたという。
クマの着ぐるみはけっこうな健脚なだけでなく、出現するときも唐突ならば逃げる時も煙のようにドロンと消えてしまう。
ほんに屁のようなヤツである。
着ぐるみ姿でそれだけ動けるだけでなく、マジシャンみたいに消える相手ならば、通常の囲みでは容易く突破される可能性が高い。
陸上部女子と同じ轍を踏むなんてもってのほかだ。
そこで今回はこの廃工場跡に誘き寄せる、もしくは追い込む。
「あー、くれぐれも誘い込むだけだからね。まちがってもアンタたちは廃屋のなかに入らないように。
なかは罠でいっぱい、難易度MAXのSAS〇KEばりにエグイことになってるから。たぶんマキ以外はただじゃすまないとおもうんで」
誰も寄りつかず、ひと目に触れないことを幸いと、紫電はやりたい放題に廃屋内を魔改造した。
――えっ、許可? そんなものはもちろん取っていない。
作業を手伝わされた真姫と陽子も全貌までは把握しておらず。
どうにも気になったもので、ふたりは途中で何度も訊いたのだけれども「それは当日のお楽しみ」と紫電ははぐらかすばかり。
ただ漠然と「あ~、忌み地が死地に変わったんだ」ということだけは理解していた。
ひと通りの説明を聞き終え、取り巻きA子とB子はゾゾゾとますます顔を青白くし、鏡花は不安そうに「さすがにそれはちょっとやり過ぎなのでは?」ともっともな疑問を口にするも、「……心配ない。変態に人権はない。法律にちゃんと明記されている」との陽子のでまかせに「そうだったのですね。知りませんでしたわ」と簡単に言いくるめられてしまったもので、取り巻きふたりと入道頭はおもわず「「「えっ」」」と目を見張った。
小泉鏡花は学校のお勉強や各種習い事を、なんでもそつなくこなす才媛。
だがそれと同時に大切に育てられてきた箱入り娘にて、ちょっと世間に疎いところがあるチョロインでもあった。
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