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011 第二次クマの着ぐるみ討伐戦 ― 追走劇
しおりを挟む日頃からチャリで町内をパトロールしているだけあって、恭平のペダリングはなかなかのものであった。
あと眼鏡が似合う美人秘書というパワーワードにて、下心という燃料に火がついたことで、ターボチャージ全開にて。
「うおぉぉぉー、タイトスカートが似合う美人秘書ーっ」
シャカ、シャカ、シャカ、シャカ、シャカ……
おかげで逃げる鏡花と、それを追うクマ公マークⅡの背をすぐに捉えることができたものの、うしろに乗っている真姫がなにやらカチャカチャしている。
ちょっと気になった恭平がチラッと見るなり「げっ!」
よりにもよって真姫が恭平の腰にある黒革のホルスターから、勝手にカチャカチャしては、銃を抜こうとしていたのだ。
「わっ、バカやめろ。そいつはオモチャじゃないんだぞ! 危ないから勝手に触るんじゃねえ!」
「だいじょうぶ、だいじょうぶ。これでも山では散弾銃に空気銃からライフルまで、ひと通りぶっ放しているから、銃器の扱いには慣れているもん。師匠たちからも『マキちゃんはけっこう筋がいいねえ、愛い愛い』と褒められているし」
「あー、そういえばおまえのところの爺さま、たしか狩猟をやっていたか~……って、そうじゃねえ! なに無免許の孫娘に銃を撃たせてんだよ! ダメじゃん!」
「ふっ、問題ない。なぜならすべては深山の奥の出来事だから。山は不思議がいっぱい。ようはバレなきゃいいのよ、バレなきゃ」
「バカ野郎! こんな町中でぶっ放したら、そっこーでバレてクビになるわ。日本警察の頭の堅さを舐めんなよコラ」
「まぁまぁ、キョーヘイ兄ちゃん。あんまりイライラしていると生え際が後退するよ……って、なんだよニューナンブかぁ、ちぇっ。
豆鉄砲じゃねえか、こんなのじゃ獰猛な野犬一匹、まともに仕留められねえっての。せめてS&WのM360Jならまだ使えたのに」
ニューナンブM60は、新中央工業(現・ミネベアミツミ)社製の回転式拳銃だ。警察の主力拳銃として大量に配備されたほか、麻薬取締部や海上保安庁にも配備されている。
が、その生産は1900年代に終了している。
なのに現在でも依然として多数が運用されているから、ちょっとモヤっとしちゃう。
そしてS&WのM360Jはアメリカ製の銃でナンブと同じく小型のリボルバーだが、こちらは高威力弾にも対応しており、軽くて扱いやすいため特殊な任務に従事している警察官に配備されている。
「しょせんはペーペーの平巡査か……」
ロクな銃を所持していないことに真姫は露骨にガッカリするも、そのとき目に入ったのがナンブのホルスターのそばにあった特殊警棒の姿であった。
三段式に伸び縮みするタイプで、たいへんな職務にも耐えられるようにと、かなりの強度を誇っている。
……といった情報をどこぞで小耳に挟んでいた真姫――たぶん陽子から聞きかじったウンチクだろう――は、「おっ、こいつは使えそうだ」と警棒を手に取るなり、すぐさまジャキン!
のばしては、いきなり「ふんっ」
クマ公マークⅡへと目がけて投げつけたものだから、恭平が「ぎゃーっ、なんてことしやがる」と悲鳴をあげた。
警察という組織は備品の管理にも超厳しいのだ。
うっかり紛失したり、ダメにしたりすると、各種書類の提出が義務付けられており、上司からもネチネチとけっこうな嫌味を云われ、ストレスで胃がキリキリしちゃう。
そんなことは知ったこっちゃないと、クルクル回りながら飛んでいく警棒。
しかし相手は背後からの不意打ちをも華麗にかわすような猛者である。
だから投げつけたとて、ひょいとかわされるだけだろう。
かとおもいきや、そうはならなかった。
なぜなら真姫が狙ったのは、ヤツの背中ではなかったからである。
警棒が向かった先はクマ公マークⅡの足と足の間だ。
走っている途中に、またの下へいきなり棒を突っ込まれたらどうなるか?
答えは、転ぶである。
ガッ!
クマ公マークⅡは足がもつれて盛大に転んだ。
顔面からいったもので、真姫は「よっしゃーっ」とガッツポーズ。
恭平も「おぉ! でかした」と喜び、さっそく倒れた被疑者を確保しようと近づくも……
前方へと倒れ、アスファルトとディープキスしたかとおもわれたクマ公マークⅡであったが、道路にぶつかる寸前のこと。
くるりんぱ。
背を丸めては、見事な前受け身を披露した。
転んだ衝撃を完璧に吸収しつつ、反動を利用してすぐさま立ち上がっては、クマ公マークⅡは何ごともなかったかのようにスタスタ駆け続けたものだから、真姫と恭平は「「なっ!?」」
ふたりそろって目をパチクリさせた。
でもってクマ公マークⅡの近くにまできたことで、いまさらながらに恭平が「あれ? なんだか目撃証言とずいぶん姿がちがうような……あと、なんかデカくない?」なんぞと言い出した。
ようやくクマの着ぐるみが、マスコットキャラ系からリアル系へとモデルチェンジしたことに気がついたようだ。
しかしいちいち説明するのは面倒である。
だから真姫は「なんか入道頭がタコ殴りにしたら、ぶちギレて変身した」と簡潔に述べ、それを聞いた恭平はますます困惑するばかり。
それでも足を止めることなく、うしろに乗っている真姫に急かされるままにペダルを漕ぎ続けては、ついにクマ公マークⅡへと追いついた。
でも真姫は「キョーヘイ兄ちゃん、このままヤツを追い抜いて!」と指示する。
鏡花のローファーに並々ならぬ執着をみせるクマ公マークⅡ。
ちょっとやそっとでは、こいつは止まらないし、きっと止められない。
なので当初の予定通りに、廃工場跡へと誘き寄せてそこで仕留める
そう判断した真姫は追走劇を続行することを選択した。
「……というわけで、キョーヘイ兄ちゃんはこのまましっかりペダルを漕いで。でもってキョウカは私と交替しようか」
ぜぇはぁ、ぜぇはぁ……
荒れた呼吸。すっかり汗だくにて、これがもしも学校の制服だったら、スクールシャツが肌に張りつき透けてしまって、ばっちり下着が丸見えになっていたことであろう。
もはや限界が近かった鏡花。
そんな彼女を走行中の自転車の後部座席へと引き上げるのと同時に、自分はぴょんと飛び降りるという離れ業を披露した真姫。
「おっ、ちゃんとした女子高生だ」
とかいう恭平の失礼な発言は聞こえなかったことにして。
ちらっと後方にいるクマ公マークⅡの様子を確認しつつ、真姫はチャリンコとの並走を開始する。
「キョーヘイ兄ちゃん、このまま廃工場まで行くよ」
「この先の廃工場って……まさか、あの忌み地か!?」
「そのまさかよ。シデンがたっぷりおもてなしを用意して待ってるから」
「おっふ、あのマッド賢姫のおもてなしかよ。ぞっとしねえな」
「あたいも初めはそうおもったけど、いまとなっては用意しておいて正解だったかも」
この変態さんは、いろいろとおかしい。
もともと変態という存在はおかしいモノだけど、それに輪をかけておかしい。
かつて真姫が山で遭遇した白い大きなイノシシもヤバかったけど、それとは似て非なるヤバい気配がぷんぷん。
きっと、なまなかの手段では倒せないだろう。
真姫は密かにより強い覚悟を決めつつ、チャリを守りながら仲間が待つ廃工場へと向けてひた走る。
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