ただいまクマの着ぐるみ警報、発令中!

月芝

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020 しょっぺい太郎と後山間吾国絵詞

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 棹立ち沼での火災は丸一昼夜続いた。
 古タイヤとかいったん火がつくとなかなか消えないんだよねえ。
 ようやく鎮火してやれやれと安堵したのも束の間のこと、お次は異臭騒ぎが勃発した。

 原因はふたつ。
 ひとつはヤバい薬品類がゴミ山の中に混じっていたため。
 ヤバいのとヤバいのが入ったポリタンクが熱で溶けて、中身が漏れて混ざったことによって、うっかり吸ったらノドや目がやられる刺激臭が発生しちゃったそうな。

 それをどうにか抑えて、ようやく本格的に火災現場の検証を始めたところ、今度は大量の骨が出てきたものだから、びっくらポンや!
 現場が騒然となったのは言うまでもない。
 そしてこれがふたつ目の原因だったのだけれども、幸いなことに発見されたのは人骨ではなくて動物のモノばかり。
 どうやら悪徳ペット葬儀社が、預かったペットの遺体を適当に処理したらしい。
 まったくもって酷い話である。豆腐の角に頭をぶつけて死ねばいいのに。

 でもってこのことを知った全国の動物愛護団体が激怒した。

「早急に遺棄した不届きな業者を特定して、罰せよ!」

 との抗議の電話が役所と警察署にバンバンかかってきており、業務がすっかり滞ってパンク状態なんだとか。
 このためにますます変態さんに構っている暇なんてなくて……

  〇

 奪ったお宝といっしょにどこぞへ雲隠れしているであろうクマ公マークⅢ。
 その行方を追うのに頼りになる助っ人に、心当たりがあるという真姫。
 彼女が連れてきたのは一頭の犬であった。

 毛質はごわごわしておりタワシっぽい、くすんだ壁の漆喰みたいな色をした白の雑種だ。
 このワンちゃん、真姫の祖父の狩猟仲間の間では有名な犬にて。
 かつてとある地方の山奥で暴れまわっていた凶悪な巨大熊と仲間を率いては死闘を繰り広げ、ついに退治した伝説の猛者である。
 左耳の先がちょびっと欠けているのは名誉の負傷だ。

『累計発行部数一千万部を誇る名作、勇敢な犬たちと人喰い熊との戦いを描いた、某漫画の主人公のモデルになったのでは?』

 との噂がまことしやかに囁かれているが、これは真っ赤なウソである。
 だって年代が致命的に合わないもの。
 ちなみにこの犬の名を「しょっぺい太郎」という。

 真姫が連れてきたしょっぺい太郎を見て……

「おおかたこのワンちゃんの鼻で、ヤツの居所を探ろうとか考えたんでしょうけど。本当に大丈夫なの、これ?」
「……かなりヨボヨボ、でもってちょっとボケが入っているっぽい」

 半開きの口から舌を垂らしては、ハフハフしている犬。
 紫電と陽子が不安がるのもムリはない。
 なにせしょっぺい太郎はイヌ年齢二十歳、人間に換算すると79歳にもなる高齢犬なんだもの。
 なにもしなくてもプルプル体が震えているし、尻尾もくの字にひん曲がってる。目も白くどんより濁っており、牙はあらかた抜けてしまって口の中はスカスカだ。

 それでもご町内の元気な老人たちからすれば「79才? ははは、若い若い。そんなもん、まだまだハナタレ小僧じゃわい」と笑われるのだろうけど、しょっぺい太郎はイヌだもの。
 しかも元狩猟犬である。若かりし頃のムリが祟っており、あちこちガタがきている。
 さすがに現役バリバリのビンビンとはいかないのだ。

「いや~、あたいも迎えに行って驚いたよ。ちょっと前までは元気に若いメスの尻を追いかけ回していたのに。ここ三ヶ月ぐらいでいっきに老けこんじまったらしくってさ。
 でも鼻はまだ大丈夫らしいから。とくに女と喰いもんのニオイには敏感だって」

 言いながら真姫が「おーよしよし」と頭を撫でようとするも、しょっぺい太郎はその手をガブリと噛んだ。
 そのやりとりを目の当たりにし、紫電と陽子はますます不安になった。

  〇

 棹立ち沼での騒ぎあった日から二日後――

 しょっぺい太郎を連れて、三人娘はふたたび陽永神社を訪れていた。
 剣の兄である刀さんから「ちょっと見てもらいたいものがある」との電話がかかってきたからだ。
 なおクマ公マークⅢにやられた剣の怪我はたいしたことなかったらしく、翌日から部活に参加している。

「ところでツルギの兄ちゃんが見せたいものって何かな?
 って、あーこら、しょっぺい太郎! 鳥居にオシッコをかけちゃダメだって。するんならあっちの神木の裏にしとけ。あそこならバレないし、樹の肥やしになるだろうから」

 しょっぺい太郎はとってもマイペースだ。犬もこの歳になると、もはや人間の意なんぞ気にしない。そのくせムダに知恵が働くので、縄抜けならぬ首輪抜け、リードからの脱出なんてお手のもの。
 ヤツは自由だ。もはや無敵といえよう。
 これにはさしもの真姫も手を焼いている。

「ほらマキ、あんたが『もらったお札、雨に濡れてクソの役にも立たなかった』なんてズケズケ文句を言ったから、改良した新しいのを用意してくれたのかもよ」
「……ふっ、シデンじゃあるまいし。そうポンポン魔改造なんてしない」

 鳥居のところで三人娘と犬がわちゃわちゃしていると、「おっ、きたきた」と刀さんが姿をあらわした。

「おや、今日はワンちゃん連れかい? とりあえずその子は母に預けておいて、三人は社務所へ」
「あー、でもこいつアレだから、おばさんに迷惑かけちゃうかも」

 真姫はそう言って遠慮したが杞憂であった。
 なぜなら剣と刀の母親を前にして、しょっぺい太郎は借りてきた猫のようにおとなしくなったから。
 それどころか口元をしっかりと閉じて、顔つきもキリリと凛々しく、背筋もピンとのび……
 これまでのボケボケしていたのが嘘のように、しゃんとしているではないか。

 叢雲兄弟はタイプこそちがうが、そろってイケメンである。
 そんな兄弟の両親もまた美形にて、どうやら刀さんは母親似のようだ。
 とても成人済みと高校生の息子ふたりを持つ母親とはおもえぬ美魔女っぷりにて。
 そんなべっぴんさんを前にして、しっぺい太郎はデレデレしては格好をつけているといった次第。ろくすっぽ動かなかった尻尾まで全力でブンブン振っていやがる。
 その情けない姿は、スナック来夢のママさんである越前小百合に鼻の下をのばしている、だらしない商店街の男たちにそっくりだ。

「あの野郎!」
「とんだスケベ犬ね。やっぱり飼い主に似たのかしら?」
「……その説は科学的に証明されている。本で読んだ」

 これを単純接触効果という。
 繰り返し接触することで、対象に対する好意が高まる心理現象のこと。
 共に過ごす時間や、共有する活動が互いの性格に影響を与えるのだ。
 恋人同士、夫婦、親と子、飼い主とペットなどの関係に、さして差はない。
 行きつく先はみな同じ。

 しょっぺい太郎は剣のママさんに任せておいても問題なさそうなので、三人娘たちは刀さんと社務所へと。

「わざわざ来てもらって悪かったね。でも、これを見つけてしまったものだから」

 言いながら座卓の上に置かれたのは一冊の古文書である。
 表紙に『後山間吾国絵詞』と書いてある。

「ん、前に見せてもらった絵巻物と同じ?」
「いいえ、ちがうはよく見て。頭に『後』の文字がついている」
「……これは『のちの』と読む。つまり後記、もしくは続き」

 刀さんは「そうなんだよ」とうなづく。

「書かれた時代がちがうものだから、保管場所もちがっていてね。それで存在を思い出すまでに時間がかかってしまった。申し訳ない」

 この古文書には、かつてこの地に起きた憑き神騒動の後日譚が記されているそうなのだけれども。
 刀さんいわく。

「後日譚というよりかは、むしろこっちが本編であっちはプロローグにすぎなかった……みたいな」

 この古文書によると、どうやら憑き神は何者かに使役された存在にて、背後にとんでもない黒幕がいるらしい。


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