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023 埴輪祭祀場
しおりを挟むトンネルをぬけると、そこは埴輪祭祀場であった。
――って、埴輪祭祀場とはなんぞやもし?
家、器台、壺、大刀、弓、盾、甲冑、矢筒、巫女、武人、楽士、力士、鷹飼い、馬飼い、踊り子、馬、猪、鹿、魚、水鳥……などなど。
市内の遺跡やら古墳から発掘された、多種多様な形象埴輪たち。
そのレプリカを200体も再現しては、ドドーンと並べ、来訪者が自由に触れるように展示されてある場所のこと。
古墳と森を背景に、たくさんの埴輪がいる姿はなかなか壮観にて。
ではどうして、こんなものがあるのかといえば……
刻はバブル真っ盛りにて。
ワンレンボディコンギャルたちが、夜な夜なディスコのお立ち台にてパンチラしながら朝まで踊り狂っていた頃。
当時の市長が町おこしの一環として、国からの地方創成交付金なる助成金の大半を独断でぶっ込んで設置したのである。
政治も経済もイケイケの時代であったのだ。
だがしかしこれが大失敗、もうびっくりするぐらいに大コケしちゃった!
なにせいまみたいにインターネットも普及していなかったし、SNSとかもなかったからね。勝手にバズったりしないのだ。そのへんのことを市長はまったくわかっていなかった。
結果はごらんの通りにて。
閑古鳥が「カッコー、カッコー」と鳴いており、埴輪たちはすっかり苔むしている。
ざんねん!
そんな埴輪たちが、ズンドコ、ドコドコ♪ ズンドコ、ドコドコ♪
輪になって仲良く踊っていた。
トンネルに幽霊が出ない代わりに、踊る大量の埴輪が出ちゃった!
輪の中心では天まで届けとばかりにメラメラと、盛大な火が焚かれている。
粗末ながらもダンボール箱で組んだ祭壇もあって、大量の女性モノの履物が山と積まれており、クマ公マークⅢが「ははー」と何度も地面にひれ伏しては、熱心にお祈りを捧げている。
合間にちょいちょい、お焚き上げのように履物を火にくべている。
おかげで周囲にはなんとも言えない異臭が漂っていた。
いかにも怪しげな儀式っぽい。
このツッコミどころ満載の摩訶不思議な光景を目の当たりにして。
真姫が声を大にして「コラッ!」と叫んだ。
「おまえら、ここは火気厳禁だぞ! 自然公園内でバーベキューやキャンプファイヤーは御法度だ! うっかり周囲に燃え移ったらどうする! 山火事舐めんな!」
ちなみに山火事の原因ランキング、トップ3は……
第一位 たき火
第二位 火入れ(山野の枯れ草や雑木を焼くこと。焼き畑のことね)
第三位 放火(疑惑も含む)
肉だけでなく山にも詳しい真姫ならではの発言である。
言ってることはすこぶる正しい。
けれどもそうじゃないし、いまこの場面で気にするのはそこじゃない。微妙にピントがズレている。
だから鏡花がみなの思っていることを代弁した。
「火事はたしかに怖いけど。それよりもまず、どうして埴輪たちが勝手にぞろぞろ動いているのよっ!」
言われて「おぉ、たしかに」と真姫がポンと手を打ったところで、それまで踊っていた埴輪たちがピタリと止まり、一斉にぐりんとこっちを向いた。
ぽっかり空いた穴だけで表現された目と口。
何を考えているのかさっぱりわからない表情ながらも、一行を歓迎していないことだけはなんとなくわかる。う~ん、以心伝心。
クマ公マークⅢが何を目的として、真っ昼間からあんなことをしているのかはナゾだけれども、きっとロクなことではないはず。
だからなんとか邪魔をして阻止したいところだけれども、一行の前に200体もの埴輪軍団が立ち塞がる。
「さすがにちょっと多いな」
「これでは近寄れないわね」
「……多勢に無勢」
さしもの三人娘も、この状況には慎重にならざるをえない。
「とはいえ、しょせんは埴輪だろ? 片っ端から叩き割ってしまえばいいんじゃないのか」
剣が威勢のいいことを口にしつつ、取り出したのは六角棒である。
修験者が持っているのに似ているが、所々が金具で補強されており、表面には精緻な模様が彫られている。
これは神道術の武具にて、この間持っていた練習用のナマクラな棒とは完全に別物だ。
「この前は油断をして不覚をとったけど、こいつさえあれば百人力だ。もう負けない!」
なんだかんだで剣も年頃の男の子。この前負けたのがよほど悔しかったらしい。
それもあってか今回はとっても積極的で好戦的だ。
そんな勇ましい剣の姿に、鏡花は瞳にハートマークを浮かべている。
でもってしょっぺい太郎は急にもよおしたらしく、あっちでぷるぷる踏ん張っている。
うう~ん……うう~ん……
ぷるぷるぷる……
…………ぽとり。
それが合図となったのかはさておき。
動き出す埴輪軍団とこれを迎え討つ三人娘たち。
先陣を切ってきたのは馬にまたがった兵士の埴輪。
「僕が行く!」
剣が六角棒をぐりぐり回しながら飛び出す。
みるみる両者の距離が縮まり、ふたつの影が重なり、ガッキ~ン!
重たい衝突音がして、埴輪兵士が落馬し、埴輪馬もどうと横倒しとなった。
剣のカウンターが見事に決まったのだ。
だがしかし……
「わわわ、手、手が痺れる」
原因は相手がレプリカだったこと。
不特定多数に触られ、なおかつ野ざらしにされることが前提で作られた品にて。ふつうの埴輪のように割れやすい素焼きの土器製ではない。
見た目こそは素焼きっぽいけれども、とっても丈夫な高強度コンクリート製&鉄骨入り。
先にも述べたが設置された時代は、バブリーだったのだ。金に糸目をつけずに予算をぶっこんだ結果、バットを持ったヤンキーどもがよってたかって殴りつけてもビクともしないハイパーな埴輪たちが誕生したのである。
そしてそんなモノを棒で叩けば、そりゃあ手の方が痛くなるのは当たり前……って、あれ?
手の痺れに涙目になっていた剣がギョッと目を見開く。
視線の先には、突っ込んできた埴輪の猪の首を、愛用の肉解体包丁でバッサリ、一刀両断にした真姫がいたからだ。
「おいっ、どうしてこんな固いのがスパって切れるんだよ!」
「どうしてといわれても、気合いと根性……あとは心の眼とか?」
真姫は小首を傾げつつ言った。
「それに前にじいちゃんの猟師仲間の石工のおっさんが言ってたぞ。『石にも筋や切れ目がちゃんとある。そこを小突いてやれば、どんなに固い石でもイチコロよ』って。
とはいえ、さすがに何度もは厳しいなぁ。
刃がもたねえ、痛んじまう」
ふたりがそんな会話をしているのを横目に、紫電と陽子も一体ずつ撃破する。
紫電は魔改造した電動インパクトレンチで、ガガガガガ!
埴輪の踊り子の腹に風穴を空け瓦解する。
陽子は絵本の二刀流にて一点集中で、ダダダダダ!
ピンポイント攻撃により、埴輪力士の右の脛を砕いて動けなくする。
一対一ならば負けやしない。
だがいかんせん敵は固く数が多すぎる。
ゆえに三人娘は目配せにてうなづき合う。
埴輪たちを無視して、大元であるクマ公マークⅢへと肉迫し、これを倒すべく駆け出した。
けれどもその矢先のことであった。
ゴゴゴと地面が揺れて、ブォオォォオォォォォーーーーッ!
にわかに古墳の方から突風が吹き、あおられた焚き火の炎が膨らみ、いっそう激しく燃え上がったとおもったら紅蓮の奥に何者かのシルエットが浮かびあがった。
そして聞こえてきたのが――
「がははははは、我、曼菩右久々知日高。山間吾国の真王である。乙女たちのかぐわしき薫りに導かれて、黄泉の国より甦れり!」
とたんに膨れ上がる邪悪なる妖気と独特の臭気。
なにせかぐわしい薫りってば、アレのことだもの。
あまりにもニッチでマニアックすぎて、常人にはちょっと理解しがたいものがある。
でもって、クマ公マークⅢだけでもやっかいなのに、もっとヤバそうなのがあらわれたものだから……
「くっ、撤収! 撤収だーっ!」
剣は叫ぶなり、懐から取り出したお札の束をバサリと宙へ放り投げた。
刀さんが神道術で作ったお札たちが、風に舞いながら次々に埴輪たちに張りついては、足止めをしているうちに、戦略的撤退だ。
腰を抜かしている鏡花は剣がおぶって、しょっぺい太郎は真姫が抱きかかえては、すたこらさっさ。
一行は脇目も振らずに、幽霊トンネルを駆け抜けた。
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