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179 剣の丘
しおりを挟む荷物をあらかた失い、ウマにも逃げられた青年騎士。
このままだと旅を続けるのはムズかしかったのですけれども、水色オオカミのルクからおもわぬ助力を得て、歩みを進めることが可能に。
水はルクのチカラでいくらでも出せます。しかもおいしくて飲むとなんとなく元気になるというオマケつき。
食べ物もルクがひとっ走りして、森から果実などをとってきます。
移動はルクが造り出した氷の犬ソリにのって、シャーツとすべって楽ちん。
完全におんぶにだっこ状態ですが、彼には現地についてからきびしい修行が待っている。だからいまはチカラをたくわえておくべき。それに時間もおしているようですので。
なお重たい鎧は脱いで、街道脇にあった大岩の裏に穴を掘って、埋めておきました。
先祖伝来のいい品らしいので帰りに拾うことにして、身軽になって先をいそぎます。
空の青さをそのまま落とし込んだような大きな丸い湖面。
ちょうど真ん中あたりにポツンと浮かぶ小島。
そこが目指す「剣の丘」です。
湖の岸辺には石碑あり、表面にはこういう文面が刻まれておりました。
『我が剣をもって試練を越えし者。武の極みへと至らん』
これをみたライムさん、決意もあらたに気合十分。
とはいえ湖を渡るには舟がいる。しかしどこにもそれらしきものが見当たりません。周囲は開けており、イカダがわりになりそうな木材もない。これは泳いで渡れということなのだろうかと、いそいそと服を脱ごうとしたライムさん。
それはルクが止めました。だって水色オオカミのチカラをつかえば、湖を渡るぐらいどうということはありませんもの。
「えいっ!」
ルクが短く吼えると、とたんに岸辺から中央の小島へと向かい氷がピキパキはっていき、すぐに氷の渡り廊下が完成。
スタスタ先をいくルクのうしろから、おっかなびっくり、へっぴり腰にてついて来るライムさん。
渡り切る間に彼が二度ほどツルンと転んで尻もちをついていたのには、ルクは気づかないふりをしてあげました。
湖の中にポツンとある小島。
剣の丘、その名前の由来は一歩足を踏み入れたとたんにわかりました。
丘の斜面にところせましと突き立てられてある剣、剣、剣……。
いったい何本あるのでしょうか? 百や二百どころではきかなさそうです。
それだけではなく、これらすべての剣がみんなちがう形をしていることにも、水色オオカミはおどろかされました。
握りの部分、装飾、刃の長さや幅、色味、剣身に浮かぶ波紋、どれひとつとして同じモノが見当たりません。
「ウワサには聞いていたけれども、すごいな。なんでも全部で千と一もあるんだとか。これってすべて剣聖の持ち物だったらしいよ」
「へー、だったらかなり古いモノのはずなのに、そのわりにはずいぶんとキレイだよね?」
「うん。それもナゾなんだ。手入れされることもなく、ずっと雨ざらしだからサビてしまいそうなものなのに」
「なにか魔法でもかけられてあるのかなぁ」
「うーん、どうだろう。ずっと昔に都から派遣されたエライ学者先生が、そのことについても調べたらしいんだけど、結局わからなかったって記録にあったよ」
「そっかー。それにしてももったいない話だよね。これだけの剣をおきっぱなしだなんて」
「……それもそうだな。どうしてこれまでにここに来た連中は、誰も持って帰らなかったんだ?」
小首をかしげながら手直な一本に手をのばしたライムさん。
おかげで理由はすぐにわかりました。
なぜなら剣がビクともしなかったからです。
一見すると無造作に地面に突き刺しているだけのようにしか見えないのに、両手でつかんでいくらふんばっても、うんともすんともいいやしない。
まるで大地に根がはってしまっているみたいです。これじゃあ、持って帰りたくてもとても運べそうにありません。
ライムさんとルクは納得すると、剣の林をよけるようにして、丘をのぼっていきました。
修練場への入り口はこの坂をのぼりきった先の頂上にあるんだそうです。
気がせくあまり、つい早歩きになるライムさん。
いっしょに向かっている途中で、ふとルクは足を止めました。
視界のすみにかすかな違和感が浮かんだからです。耳の底にジジジと低い音も。
これって竜の谷にて石になっていたラフィールさんに会ったときと同じ感覚です。
だから茜色の瞳にいっそう意識を集中し、周囲をキョロキョロ。
すると、一本の剣の前にてじっとたたずみ、これを見下ろしては、ねめつけている女性の姿を見つけました。
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