199 / 286
199 闇の女神さまの神像
しおりを挟む故人を偲び、しんみりとなっているココット、ナルタ、アンプ、リオーネの四名。
じゃまをするのもアレなので、少しそばを離れた水色オオカミのルク。
敷地内を散策したあとに、開け放たれている扉から教会の内部にも足を運んでみました。
外観はよくある石造りであったのに、一歩、中へと入ったら総木造りとなっており、木が持つ独特のニオイややさしさが満ちた空間が待っていました。
華美さは少ないかわりに、まるで我が家にでも帰ってきたかのような、気安さがあって、とってもココロが落ちつける場所。
ですがここに飾られてある女神像は、少々かわっていました。
これまでの教会で目にしたのは、ほとんどか石か木を削って作られた彫像。
なのにペームトの街の教会に祀られてあったのは、女神さまを模した大きな人形であったのですから。
森や街の様子といい、ここでは人形作りもとても盛んなようです。
いまにも動き出しそうな女神像を見上げて、ルクがふしぎそうな顔をしていると、背後から声をかけられました。
「おや? これは珍しいお客さまがおいでになったものですね。ひょっとして本部から連絡があった水色オオカミさんというのは、あなたのことでしょうか」
ふり返ると黒いローブ姿の好々爺。白く長いアゴヒゲがふさふさとしており、ルクのシッポみたい。
自分はこの一帯の教区をあずかっている神官のエリオットだと、彼は名乗りました。
どうやらこちらの素性は知っているようです。弓の街の酔いどれ神官さんとはちがって、ちゃんとしたヒトみたい。
「ボクは水色オオカミのルク、よろしくね」
シッポをぶんぶんふりながらあいさつをすると、「これはごていねいに」とペコリと頭を下げたエリオットさん。
女神像を前にしてしばし歓談するルクとエリオット。
あたりさわりのない会話の中で話題になったのは目の前の神像について。
「ルク殿はこの女神像がふしぎですか? これは闇の女神さまをかたどった品でしてね。実際に人形みたいにコキコキ関節が動くので、いろいろとポーズをとらせることができるのですよ」
それを活かして毎朝、態勢をかえているそうです。
いろいろと考えるのは楽しいのだけれども、街の住民らの反応はイマイチらしく、それがちょっと不満だとグチる神官さん。
まともそうに見えたのに、女神さまの神像で遊んでいるとか、じつはけっこうバチ当たりなのかも? とちょっぴり不安になった水色オオカミの子ども。
そんな場面に顔を出したのは、幼い姉弟と自分の娘を引き連れたアンプさん。
いつのまにやらいなくなったルクのことを、わざわざ探しにきてくれたみたい。
ふつうに神官さんと会話をしている水色オオカミの姿に、目をぱちくりさせるアンプとリオーネ。ですがエリオットさんの仲介もあり、たいして戸惑うこともなくすぐに受けれてくれました。
アンプ親方はエリオットさんに幼子たちの事情を説明し、彼らを自分の子どもとして迎え入れたいと話をすると、「それはすばらしい。ココットさんにナタルくんだね。ようこそ、ペームトへ。これからはこの街を故郷として、どうぞ健やかにすごしてください」と言ってくださいました。
地域でおおきな影響力を持つ神官さんのお墨付きを得て、晴れて街の住民として仲間入りが許された姉弟たち。
身のふり方も落ちついたみたいだし、いろいろとかなしいことがあったものの、これからはしあわせになってもらえたらと、願わずにはいられない水色オオカミのルクなのです。
教会をあとにして、アンプさんの自宅へと案内された一行。
大きな工房をかまえているだけあって、なかなかの立派な御屋敷。
いまはここに父娘と、十人ばかしの職人さんたちとで暮らしているそうで、家の中は明かるくとってもにぎやか。職人らは姉弟たちの父親であるワーボさんとは顔見知りにつき、みんな子どもたちを大歓迎してくれました。
大きな家、おいしい食事、温かなベッド、やさしく気のいい人たち……。
もう寒さにふるえることも、夜の闇におびえる必要もありません。
これまでの苦労がウソのように、あまりにもトントンびょうしに何もかもがうまくいく。
そのせいか逆に少し不安になっていたのはココット。
ナタルも一見するとむじゃきによろこんでいるように見えますが、それは姉に心配をかけまいとがんばっている裏返しなのかもしれません。
ときおりそんな表情をうかべる子どもらが気になったルクは、姉弟たちがこの地に慣れるまで、もうしばらくつき合うことにしました。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
64
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる