乙女フラッグ!

月芝

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030 清掃ボランティアの日

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 晴れて欲しい日にかぎって雨が降る。
 降って欲しい日にかぎって、やたらといい天気になる。
 学校行事あるあるだ。
 でもって、本日は残念ながら晴れてしまった。

「あーダルい、雨なら中止だったのに」
「いやはやなんとも、ムカつくぐらいの、どピーカンだねえ」
「本当に……。何が悲しくって、こんないい天気のときに赤の他人のお墓掃除なんてしなくちゃいけないのよ? しかも子守りのオマケつき!」
「だよねえ~、うちの学校もこの手の行事さえなければなぁ」

 千里と麻衣子がブツブツぼやいていたのは、清掃ボランティアについて。
 彼女たちが通う淡墨桜花女学院のある市内には、七曲霊園(ななまがりれいえん)という墓所がある。斎場や火葬場が併設されているのだが、これがまぁ、なんともバカでかい霊園なのであった。
 なにせ総敷地面積が二十六万平方メートルほどもある。十万平方メートルでドーム球場二個分相当なので、いかに巨大なのかがわかるだろう。
 学院といい、伊白塚公園といい、どうやら先人たちはなんでもかんでも「大は小をかねる」と思い込んでいたようなふしがあるのはさておき。
 七曲霊園の真に凄いところは、広大さにあらず。
 いかなる宗教、宗派、埋葬方法などを問わずに、ドンと来い!
 来る者拒まず、すべてを受け入れるふところの深さである。
 火葬、土葬、樹木葬なんぞは当たり前、戦前までは鳥葬やら即身仏まで受け入れていたというのだから驚きだ。ペットも可。
 古今東西のあらゆる宗教が混在するカオス空間、多種多様な墓石に霊廟などが集う墓地のテーマパーク、その筋のマニアによれは「ここは人類の夢、奇跡を実現している尊い場所!」とのことらしいのだけれども……

 では、どうしてそんな七曲霊園にて、うら若き女子高生たちが清掃活動に従事せねばならないのかというと、ここに学院の創始者が眠っている縁であった。
 なにせこの霊園は広い。管理するのもたいへん、見回るだけでもひと苦労だ。
 山間部の土地を利用して造成された墓所は自然に囲まれており、秋の落ち葉の季節ともなればいくら掃いてきりがない。新緑の季節には雑草がぼうぼうになる。サルやイノシシもこんにちわ。
 人手がいくらあっても足りない。けれども予算は限られている。かといって油断すると、あっというまに荒れてしまう。
 それを見かねた何代か前の学院長が「でしたら、うちの生徒たちに手伝いをさせましょう」などと言い出したのが、清掃ボランティアの始まり。
 まったくもって余計なことをしてくれたものである。
 なお、一二年生はがっつり学校行事に組み込まれており強制参加、ただし特進組に所属する生徒は参加自由となっている。
 えっ、そんなに面倒ならば、サボったらいいのでは?
 はははは、甘い。
 しっかり補習として週末にやらされる。
 サボり対策は万全なのだ。

 そんな清掃ボランティアをさらにややこしくするのが、パートナー制度である。
 市内の小学校からの参加者の面倒を、年上のお姉さんたちがみなくてはならないのだ。
 信じられないことに、この活動に協賛している地元の小学校が少なからずいる。
 この制度は首輪であり枷でもある。
 子どもの手前、女子高生たちは本性を隠し、よきお姉さんを演じなければならない。
 また子どもたちも年上の目があることにより、モジモジ従順な良い子になるのだ。
 不思議な相互作用、なぜなのか理由はわからないが、そういうお年頃なのだろう。
 とはいえ、何ごとにも例外はある。
 たまにはねっ返りのきかんぼうも混じっており、うっかりそんな子と組まされたら最悪だ。
 だがしかし……

「ボク、伊吹悠人(いぶきゆうと)といいます。芝生小学校の六年生です。本日はよろしくお願いします、お姉さま方」

 千里と麻衣子のグループに合流した男の子は礼儀正しかった。
 やや照れながらもきちんと挨拶をし、ペコリと頭を下げる仕草がキュンとくる。
 シンプルなマッシュショート、サラサラ茶髪に浮かぶエンジェルリンクが艶々。
 くりくりした愛嬌のある目が、人懐っこいネコを連想させる。ちょっと小柄だけれども、背はこれからだろう。全体の均整がとれており、将来が楽しみな美少年であった。
 そんな美少年から「お姉さま」と呼ばれて、麻衣子はデレデレだ。
 けれども千里は「はい、こちらこそよろしくね」と応じつつも、内心で「おや?」と首を傾げている。
 上目遣いで、こちらを見つめてくる悠人に小さな違和感を覚えたからだ。
 どこがどうというわけではない。けれども妙にあざといというか、打算が薄っすら透けてみえるというか。

(あっ! 誰かに雰囲気が似てるとおもったら、暁闇組のルイユ・クロイスだ)

 物腰柔らかく礼儀正しいが、言動がどこか芝居がかっており、それでいて本心を見せない。一期がもっとも警戒しており、けっして気を許すなと言っている敵チームの男。
 そんな男と目の前の少年の姿がかぶり、千里は「でも、なんで?」と首をひねる。


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