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028 踊る白い影たち
しおりを挟むページにベタっとついている手の跡。
ひと目でペンキや血糊じゃないことはわかった。
本物だ。本物の血……
よく見れば、草臥れている雑誌のところどころに黒ずんだ染みがある。
血のついた手で無造作に触りたくったかのようだ。
ガラッ。
不意に背後から音がした。
驚き天斗がふり返れば、教室の前の方の入り口の戸が開いており、タタタと遠ざかっていく足音が聞こえる。
ついさっきまで、誰かが黒板近くの教室の隅っこに潜んでいたのだ。
雑誌にばかり目を奪われていたせいで、どうやら天斗は気づけなかったらしい。
「義徳!」
とっさに口から出たのは死んだ友人の名前。
だがこちらの声は届かなかったのか、足音は遠ざかっていくばかり。
天斗も廊下へと飛び出した。
かすかな残響……左側から聞こえる。
そちらに顔を向ければ、ちょうど人影が階段の方へ消えるところであった。
背中が見えたが一瞬のことなので相手の正体はわからない。
天斗は人影を追う。
階段のところまできたところで、あらためて耳を澄ませば――
「上か?」
だから天斗も階段を駆けあがっていく。
踊り場を越え、すぐに三階に到着するも、足音はまだ続いていた。
なので天斗も上へ上へと、ひたすら足を動かす。
だが途中で、ずるり。
気が急くあまりうっかり踏みそこなって、「あっ、痛」
右足の向こう脛のあたりを段の角でゴリっと擦ってしまう。
手をついたので倒れこそはしなかったものの、痛みに悶絶する。
ガツンとくるような痛みではなくて、じんじんと骨に響くもの。
ズボンの裾をめくり確認してみたら、肌が赤くなって薄っすらと血が滲んでいた。
とはいえ歩けないほどではない。小学生の頃には、サッカーとかでスライディングなどで、あちこち擦り傷をこさえてもへっちゃらだったはず。だから大丈夫。
天斗は痛みをこらえ足を引きずりつつ、四階へと向かった。
〇
四階に到着したものの、人影は見当たらず。
足音ももう聞こえない。
だから天斗はとりあえず廊下を進んで、手前の教室から順番に確認していこうとするも、その時のことであった。
キー、キー、キー……
軋む音がして、頬を冷たい風が撫でた。
風は上部からきている。
この先には屋上へと通じている扉があったことを天斗は思い出す。
ふだんはカギがかかっており、生徒は自由に出入りできないようになっている。
理由については、まぁ、いちいち語るまでもないだろう。
ずいぶんと前に、一度、そういうことがあったらしい。
「そういえば学校の七不思議に、屋上で踊るふたつの白い影とかいうのがあったっけか」
どこの学校にもひとつやふたつは伝わっているであろう怪談話。
ご多分に漏れず、この中学校にも存在している。
誰もいない音楽室で鳴るピアノとか、夜中になると数が増える非常階段、トイレの赤マント、理科室の動く標本、プールの手、合わせ鏡の呪い、そして屋上で踊るふたつの白い影だ。
六つはベタな内容で、わりとありふれた話。
けれども最後の屋上で踊る白い影だけは、他とはいささか毛色が異なっている。
それはこんな話であった。
〇
黄昏刻、下校時刻はとうに過ぎている。
とある運動部に所属していた下級生。
いつもよりも部活の片付けに手間取って、すっかり遅くなってしまった。
だから急いで帰ろうと校門に向かうも、ふと寒気がしてふり返ってみたら、屋上の方に白い人影らしきものが、ふたつ見えた。
いったい何だろうと訝しんでいると、どうやら誰かが踊っているようである。
おおかたダンス部の熱心な部員たちが、居残り練習でもしているのだろうと考え、帰ろうとした下級生であったが、そこでハタとあることを思い出した。
「あれ? 屋上ってたしか生徒は立ち入り禁止だったはず……」
だから、いま一度確認しようとするも、すでに人影は消えていた。
そして先ほど見た光景を、あらためて思い浮かべてみて、心底ゾッとした。
なぜなら、よくよく思い出してみたら、さっき白い人影たちが踊っていたのは、屋上は屋上でも、さらに一段高いところにあった給水タンクの上であったからだ。
ありえないことにて、すっかり肝を冷やした下級生は「ひぃいぃぃぃ」
逃げるようにして帰宅したという。
そしてその夜から高熱を出し、七日間も苦しんだんだとか。
〇
「義徳のヤツは、この白い影のことを『きっとしょうけらの双子だ』とか言っていたけど……そもそも、しょうけらって何なんだよ?」
ぶつぶつ独り言をしながら、天斗は屋上へと向かうことにする。
手前まで来たところで見上げれば、やはり扉は開いており、半開きの状態で風に揺れていた。
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