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042 ファンタジー、ラブストーリー、バイオレンス
しおりを挟む貨物船から降ろされたコンテナがうず高く積まれており、一帯がまるで巨大な迷路のようになっている。
ここはとある地方の湾岸地区。夜な夜な悪い人たちが集ってはイケナイ物品を闇取引していそうな雰囲気のある場所。
そんな場所の奥まったところにある倉庫を、現在わたしはネコ化けしてこっそりのぞき見中。
倉庫の内部は自動車の整備工場みたいになっており、視線の先では車やらバイクなどが、せっせとバラバラに解体されている。
だからとて修理とか点検をしているわけではなさそう。
倉庫の出入り口付近には、いかにもその筋の者ですといった感じの強面の男たちが見張りに立ち、鉄パイプ片手に内外へと目を光らせている。
ガガガだのプシューだのという器械の音に混じってときおり響くのは、現場を仕切っている監督の男の罵声。
態度だけでなくシャツの柄の趣味も悪い男がガラガラ声にて「おら、モタモタしてんじゃねえぞ! 納期が迫ってんだからな!」と威張っては、盛大にツバを飛ばしている。
作業に従事している面々がその度にビクビクしながら、へいこら従っている。
目の前の光景にわたしが「うん、これはたしかにマズイ状況だね」とつぶやけば、首輪に化けている生駒が「だろう?」と嘆息。
鈴の人である伊藤高志。
ただいま絶賛違法行為に加担している真っ最中。とはいえこき使われている方だけど。
ちなみ倉庫で行われているのは、盗んできた品の解体作業。こうやってバラバラにしてから、海外へと船で運び出しては売りさばいての荒稼ぎ。
でもってどうして伊藤高志がそんな物騒なことに巻き込まれているのかというと、どうやら下谷総合病院に入院している友人のためらしい。
その友人にはねんごろにしている女性がいた。
しかしその女がじつは悪い筋の男の情婦だったものだから、さあたいへん!
「おいこら、てめえ。なに人の女に手を出していやがるっ!」となってトラブルに発展。ボコボコにされちゃったあげくに「慰謝料を寄越せ」とのお決まりのコース。
そして要求された金額がこれまたエグイ。
しかしそんな大金なんて払えない。だから「かんべんしてください」と泣いてあやまったけれども許してもらえるわけもなく、あちらこちらで借金を強要されたり、怪しい保険に入らされそうになったり……。
見かねた伊藤高志が横槍を入れるも、悪党どもは骨の髄までしゃぶり尽くす気まんまんだから、獲物を逃がすわけもなく。
「だったてめえが肩代わりしな」
とは言われても、家を飛び出してから、各地をふらふらしていた伊藤高志に金なんてとても用意できるはずもなく。かといって友人を見捨てることも出来ない。いっそのこと警察に駆け込んで何もかもぶちまけようかと思ったが、そうなると報復が怖い。実家や家族にまで危害がおよぶ可能性がある。連中はやるといったら必ずやるのだ。
すっかり八方塞がりとなったとき、悪党どもは伊藤高志が車やバイクの部品のあつかいに長けていることを知り、「おっ、こいつはちょうどいいぜ」とこの秘密の解体工場に連れてきた次第。
以来、昼夜の関係なしに搬入されてくる大量の盗品類を、ひたすら解体する作業に従事している面々に混じって、汗水を流している伊藤高志なのであった。
◇
倉庫の床近くにある換気用の小さな窓。割れガラスの隙間から、わたしは内部の様子をじっと息を潜めてうかがっている。
せっせと働かされている人たち。みんな青っ白い顔にて、頬はこけヘロヘロで目もうつろ。服も油よごれだらけ。労働環境はお世辞にもよろしくない。というかほとんど奴隷みたいなあつかいにて、こき使われまくっている。
「友人のために巻き込まれちゃったのかぁ。沙耶さんを励ましたことといい、基本的にいい人みたいだね。鈴の人ってば」
「あたいからすれば、ちょいとお人好しが過ぎると思うけどな。いかに善意があったとて、自分の手にあまることにちょっかいを出すのは、ちがう気がするんだよねえ」
困っている友人を助けようと考えなしに手をのばした結果、いっしょになって穴に落ちていれば世話はない。
と生駒は少々手厳しい。
「もうこうなったら警察に通報するしかないよ」
わたしがそう提案すると生駒が「うーん」とこの案をしぶる。「そうするのが一番簡単なんだけど、そうなると伊藤高志の身柄も捕まっちまうんだよなぁ」
たとえ無理矢理にとはいえ犯行に手を貸している現場にいる以上は、踏み込んできた警察にまとめて拘束されてしまう。事情が事情なのできちんと取り調べを受けたら、無罪放免となるかもしれないけど、それまでには相当な時間がかかるはず。
こちとらとっても急いでいる。そんなのを悠長に待ってなんていられない。
となれば、救出するしかないんだけど……。
「うぅ、こんなの聞いてないよぉ。最初のお仕事はわりとほのぼのファンタジーで、二番目のは大人の青春ラブストーリーっぽかったのに。なんで、よりにもよって最後がアクション要素のあるバイオレンスな内容になってるのよ? ならず者どもを相手にして、小学五年生の女児にどうしろと?」
涙目にてわたしが泣き言をこぼすも、生駒はニヤリ。
その不敵な笑みにわたしは首のうしろあたりがぞわぞわり。
なぜだろう、ものすごーくイヤな予感がする。
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