神造小娘ヨーコがゆく!

月芝

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102 ヒト喰いの地編 白銀の巨人

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 白銀の魔甲騎兵から姿を現したのは、愛機と同じ色をした大柄なマネキンだった。
 形状からして男性なのだろう。ただし顔はない。愛機の頭部によく似た、レンズのような大きな紅い目が中央に一つあるだけ。

 彼がリヴァイヴ……、見たことのない種族だ。

「よもや我が愛機とここまで闘えるとはな。見事だ、イクロス王子」

 リヴァイヴは大仰に拍手をしてみせ、対戦相手の健闘を称える。
 一見すると戦闘後の爽やかなやりとり、だというのに私は引っかかっていた。
 彼らが闘っている間中、周囲をかこんでいる連中がちょっかいを出してくることはなかった。それどころか二人の決闘が終結すると同時にそれらの気配が消えた。
 普通は逆じゃないの? 自分たちのボスがやられそうになったら助けに入るなり、邪魔をするもんだろう。なのに連中は引いた、どうして?
 本当に偶然だった。
 何気なく視線が湖の方をチラリと向く。
 するとさっきまで、さざ波ぐらいしか立っていなかった湖面が、ザワザワと波打って荒れている。
 この光景を見た瞬間に、黒猫の着ぐるみフォームの尻尾の毛がビビビと逆立つ。
 これは何度か経験がある。特大級にヤバイときの反応だ。
 通信にてイクロス王子に危険が迫っていることを報せた直後に、それが起こった。

 湖の中から、にゅうっと大きな何かが伸びてきて、リヴァイヴの体を呑み込む。
 巨人の腕が彼を掴んだことを理解するのと同時に、イクロス王子が「全軍撤退!」と叫んでいた。
 すかさず動けないメテオールごと王子を両脇に抱えた味方機らが、その場から逃げ出すのに平行して、調査兵団も即時撤退を開始する。
 ゆっくりと上体を起こし始めた巨人。
 必死に距離を稼ごうとする味方勢。
 やがてその全貌が露わとなったとき、絶望が大地にそそり立つ。

 湖を割って姿を現したのは白銀の巨人。

 昔の超合金の玩具のようにモッサリとした容姿なのだが、とにかくデカい……。
 マジかよ、駅前のタワーマンションぐらいもあるぞ。
 これがリヴァイヴの魔甲騎兵が、湖の中央から岸まで平然と水の上を歩いていたカラクリだったんだ。奴は水中に潜んでいたコイツの腕の上を歩いていたんだ。

「大量の資材を集めてたのって、もしかしてコイツを造るためなの」

 いかなる時にも冷静沈着なイクロス王子ですらが、呆れて二の句を繋げないほどの異様な巨体。さしもの魔甲騎兵を駆る勇猛な騎士らとて、あの巨人の相手は荷がかち過ぎている。最悪、ひと踏みで全滅もあり得るぐらいの圧倒的な質量だ。
 だがデカい相手はヨーコさんの得意分野、だからここは私が引き受けることにする。

「王子、アレの相手は私がするから。みんなを連れて出来るだけ離れて」

 それだけ言うと返事を待たずに黒猫の着ぐるみが飛び出す。

「おい、ヨーコ! ちょっと待て」

 呼び止めようとしたイクロス王子の声を遥か後方に聞き流し、黒猫の着ぐるみが大地を疾駆し、白銀の巨人へと立ち向かう。
 近づくほどに、その大きさに怯みそうになる自分の心を鼓舞し突撃。
 渾身の猫パンチを巨人の脛の部分へ、「にゃあー」と気合を入れて放つ。
 カン、と金属の固い音がするも対象は無傷。
 わずかにヘコみもしやしない。
 続けて猫キックを放つもダメ。猫爪で「にゃあにゃあ」引っ掻くと、表面にわずかながらの傷がついたのみ。ならばと猫目ビームを至近距離で照射するも効かない!
 この頑丈さ、以前に戦った黒いゴーレムと同じ素材なのかも。あの時は何とかなったけど、さすがにこのサイズでは、温めて冷やしてモロくするという戦法は使えない。
 どうしたものかと逡巡しているうちに、動き出す白銀の巨人。
 超巨体、超重量ゆえに動作はゆっくり。だけど一歩が大きい。歩くだけで震度七クラスの地震が発生。大地が揺れ、爆撃されたみたいに周囲が破壊される。

「変身! 第三フォーム」

 足下でチマチマ攻撃しても埒が明かない。フクロウフォームに変じて飛翔する。
 これだけの巨体だ。どこかに体内に侵入できる箇所はないかと考えたのだ。外から駄目ならば内から。
 これより一寸法師作戦を敢行する。


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