わたしだけノット・ファンタジー! いろいろヒドイ異世界生活。

月芝

文字の大きさ
116 / 298

116 撃ち砕けない

しおりを挟む
 
「オーライ、オーライ、っとストーップ! ちょい右。そこそこ、じゃあゆっくり下ろして。そーっとね、そーっと」

 わたしの誘導で巨大なコンクリートブロックを川縁に置いたのは富士丸くん。
 本日はリンネ組にて護岸工事。
 このあいだの大雨で河川の一部が氾濫。幸いなことに被害はたいしたことなかったけれども、いい機会だったので領内を見て回ると、他にも危ない地形やら水害を引き起こしそうな箇所がいくつも見つかって、「今のうちにやっつけてしまおう」となる。
 大きな資材は富士丸がじゃんじゃん運び込んで、細かい作業はオービタルたちがドシドシ片づける。
 ちなみにわたしの仕事は拡声器片手に、それっぽい指示を出しつつ、それっぽく威張って、それっぽくふるまうことだ。
 元女子高生になにを期待する。土木建築の知識なんぞ欠片もないわ。「護岸工事? とりあえず適当に土嚢でも積んどけばいいかな」レベル。そんな小娘が本気を出したら、周囲がとっても迷惑する。
 かといって「ほへぇ」としているわけにもいかない。
 なぜなら現在の工事現場は、わたしたちがせっせとこしらえた移住村の一つの近くだからだ。
 住民たちもわたしたちが各地で拾ってきた元難民たち。
 いろいろお世話をした手前、あまりだらしない姿を見せるわけにはいかない。
 だったらいつものように部下に丸投げして、ついて行かなければいいのにとお思いかもしれないが、いきなり巨大なロボットとアリ人間どもがゾロゾロやってきたら、十中八九、村は大パニックに襲われる。
 ショックのあまりお年寄りがぽっくりさんとか、ちょっとしゃれにならない。
 だから移住を手助けした際に面識のあるわたしの出番となるわけだ。

 わたしが現場監督として「精を出しているフリ」に精を出していると、女性が声をかけてきた。

「リンネさま、お茶とお菓子をお持ちしました。少し休憩なされてはいかがでしょうか」

 そう言ってくれたのはエキドナさん。
 彼女は近くの移住村の村長さんで、村に隣接するウチのインスタント食品工場の主任でもある。姉御肌にてパワフルなシングルマザー。

「ありがとう、いただきます。ところで村のみんなや工場の方はどんな感じ?」
「おかげさまで。心なしか笑顔も増えてきたかと」
「そう、それはよかった」

 エキドナさんのところの移住村は通称「女人村」とも呼ばれている。
 べつに女性だらけってわけじゃなくって、女性の割合が他所寄りも多いだけのこと。
 ここにはわりとワケありの難民たちが集められている。
 心や体に傷を負った方や、夫を失い幼子を抱えている者とか。
 傷を舐めあうと言えばちょっと聞こえが悪いけれども、同じ境遇の者同士での語らいというやつは、なかなかどうしてあなどれない。
 自分の苦しみを理解してくれる存在がいる。親身になって話を聞いてくれる相手がいるというのは、それだけで救いとなることもある。
 心の問題は解決するまでに、どうしたって時間がかかるもの。
 こればっかりはのんびりゆったり粘り強く見守るしかない。
 エキドナさんの口から近況なんぞを報告してもらい、お茶を楽しんでいると、少し離れた木陰からちらちらと、かわいらしいお客さまの姿が見え隠れしている。
「おいでおいで」と手招きすれば、おずおずと姿をあらわしたのは小さな男女六人組。
 どうやら護岸工事なるイベントが気になって、のぞきにきたみたい。

「こらっ、あんたたち。工事現場はあぶないから近寄ったらダメだっていったじゃないか」

 いきなりエキドナさんにとっちめられて、首をすくめる子どもたち。
 わたしはクスクス笑いをこらえつつ「まあまあ」
「リンネさまがそうおっしゃるのなら」しょうがないとエキドナさん。
「大人がダメって言うと、よけいに気になるもんだよ。ほら、みんな、こっちでいっしょにお菓子を食べながら見学しよう」

 声をかけたとたんに、しゅんとなっていたのがケロリと元気をとり戻す。
 子どもらが、「わーい」とお菓子の盛られた皿に群がる。
 愛い愛い。子どもはやっぱりこうでなくっちゃね。
 夢中になってお菓子を頬張り、まるでリスのように両頬を膨らます姿がじつにかわいらしい。

 山のような富士丸が山のような資材を運ぶたびに、子どもたちの歓声があがる。
 それを尻目にエキドナさんと世間話に興じていたら、なにやら熱い視線を感じた。
 女の子の一人がじーっとわたしの顔を見つめている。

「どうした?」とたずねれば、ちょっとモジモジしつつ女の子が「リンネしゃまって、えらいひとなの」なんて言い出した。
 なかなか鋭い質問だ。さて、なんと答えたものか……。
 えらいかえらくないかで言えば、たぶんえらい人ではない。
 なにせリスターナでの立場はあくまで客分のノラ勇者。土地をもらったから居住はしているけれども、正式にリスターナの所属にはなっていない。活動内容がそれっぽいので誤解している面々も多そうだが、これが真実。貴族ってわけでもないし、役職があるわけでもないし欲しくもない。感覚的には同居人とか居候に近いかも。
 そのへんはシルト王をはじめ首脳陣は、みなよく理解している。
 そして彼らは「べつにそれでもかまわない」と許してくれてもいる。
 でもこんな事情を話しても、この子はきっと首を傾げるだけであろう。
 だからとて「勇者だからえらいのだ」ともならない。国を追われ、故郷を失い、多くの犠牲を払った元難民からすれば、勇者は必ずしも尊敬される対象とは限らないから。むしろ騒乱を助長していることもしばしばにて、憎んでいる者も多いことであろう。
 よってこの答えもダメだな。
 ノットガルドの世界にとってはえらい人との自覚は、ややある。
 ただしこの場合は「たいへんだ!」の意味にて。
 さすがにこれをぶっちゃけるわけにはいかない。小さい子から「えー」と失望の眼差しを向けられたら、いかに神鋼精神とてヒビが入る。
 となると、あとは……。

「わたしはあんまりえらくないかな。えらいのは王さまだよー」

 思案の末に導き出されたベストな解答がコレだ。
 すべては御上のご威光であるとし、責任の一切合切を美中年に丸投げ。
 けっして驕らず、増長せず、下を慈しみ、上を立てまくってヨイショする。
 われながら完璧な処世術である。
 でもせっかくのわたしの配慮も、小さなお子さまを前にしては形無しだった。
 だって幼女はわたしの答えを聞いて、こんな感想を零したのだもの。

「へー、うちの王さまって首を狩るだけがオチゴトじゃなかったんだぁ」

 首狩り王の悪名が末端にまですっかり根付いていた。
 ちょっとやそっとでは揺るがないぐらいに、どっしりと。
 ごめん、リリアちゃんパパ。
 こいつばかりは、いかにわたしのマグナムでも撃ち砕けやしないよ。


しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

通販で買った妖刀がガチだった ~試し斬りしたら空間が裂けて異世界に飛ばされた挙句、伝説の勇者だと勘違いされて困っています~

日之影ソラ
ファンタジー
ゲームや漫画が好きな大学生、宮本総司は、なんとなくネットサーフィンをしていると、アムゾンの購入サイトで妖刀が1000円で売っているのを見つけた。デザインは格好よく、どことなく惹かれるものを感じたから購入し、家に届いて試し切りをしたら……空間が斬れた!  斬れた空間に吸い込まれ、気がつけばそこは見たことがない異世界。勇者召喚の儀式最中だった王城に現れたことで、伝説の勇者が現れたと勘違いされてしまう。好待遇や周りの人の期待に流され、人違いだとは言えずにいたら、王女様に偽者だとバレてしまった。  偽物だったと世に知られたら死刑と脅され、死刑を免れるためには本当に魔王を倒して、勇者としての責任を果たすしかないと宣言される。 「偽者として死ぬか。本物の英雄になるか――どちらか選びなさい」  選択肢は一つしかない。死にたくない総司は嘘を本当にするため、伝説の勇者の名を騙る。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?

サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。 *この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。 **週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**

処理中です...