異世界の片隅で引き篭りたい少女。

月芝

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11 辺境にて意地汚く生きる。

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 農地用にと焼き払った空き地にて、私は現在猛特訓中である。
 
 フェンリルが爪を立てて猛然と走り回っただけで、畑の土はもこもこに耕された。だがすぐには農作業に入らずに、その柔らかな地面を利用することを思いつく。
 現状の自分の駄目さ加減を考慮して私が導きだした答えは、「まずは手近にあるものを扱えるようになろう」ということ。だから手近なフェンリルにちゃんと乗れるようになろうと、第一の目標を定めた。
 他力本願? いいんだよ。すべては生き残るためなんだから。
 いつ何が起こるかわからない辺境の地で、小娘が生活していくことを考えたら四の五の言っていられない。出来そうなことはなんでもやっていかないと非力な私なんて、あっというまに死んじゃうだろう。
 かといって剣やら弓が独学にてすぐにどうにかなるとは思えない。
 なによりこれまでに生きてきた環境があまりにも違い過ぎる。たぶん他者と同じ土俵に立っても、かなりの下位版に成り下がるのがオチだ。だからここは格好をつけずに意地汚くいこうと思う。
 チクワの使い道も考えるし、シルバーやレッド、シロたちとの付き合い方も考える。
 でも従魔契約とかはナシだ。
 アレはなんだか違う。私は彼らを従えたいワケじゃない。一緒にいて共に笑って生きたいだけなんだ。そこにつまらない上下関係なんてものはいらない。
 だからちゃんとシルバーに頭を下げてお願いして乗狼の特訓をしている。
 彼は時給換算にてチクワ五十本で快く引き受けてくれた。
 なんだかんだでちょっと銀狼の背に乗って駆けるのって、やっぱり憧れるしな。
 そんなワケでシルバーに跨って空き地を駆けてもらっているんだが……。

 走っては落ち、走っては落ち、曲がっては振り落とされ、止まっては背より放り出される。そのたびに黒土の上に派手に体が投げ出されては、激しく転がり泥だらけになる。この分では乗狼よりも先に受け身が上達しそうだ。
 こんなに転ぶのなんていつ以来だろうか。
 小さい頃に一人で自転車に乗る練習をしていたとき以来か……、そういえばあの時はたまたま公園に居合わせたお婆さんが見かねて、練習に手を貸してくれたっけか。うちの親は自転車を買い与えるだけ与えて放置だったしな。
 おかげさまで乗れるようになったけれども、あの時の私は彼女にちゃんとお礼を言ったのだろうか、ちょっとよく覚えていない。
 傷だらけになりながらも乗れるようになったことが嬉しくて、忘れてしまったような気もする、申し訳ないお婆さん、そしてありがとうございました。

 一日目はまるで駄目だった。でも受け身だけはコツが掴めたのか、三回に一回ぐらいは自分でも驚くほどすたっと着地が決められるようになった。
 二日目は全身筋肉痛につき、先日よりも酷い出来だった。あまりの無様っぷりにシルバーが心配してくれたが、無理を言って続けてもらった。
 三日、四日と過ぎていき、次第にシルバーの走るリズムに合わせて自分も動くことを悟ると少しはマシになってきた。乗るだけじゃなくて乗りこなすという意味を朧げながらも理解する。それでも油断をするとあっという間に上半身を置いて行かれて、後方にごろんと振り落とされる。
 五日が過ぎ、六日が過ぎ、打撲に擦り傷、青あざだらけになりながらもシルバーの動作や呼吸を少しずつ把握することにより、こちらも体の力の入れ具合や態勢の仕方に工夫を凝らすことで、振り落とされる回数がグンと減る。それでもちょっと調子にのったり、彼が跳ねるような動作をとるだけで反応しきれずに、ドサっとヘッドスライディングをすること度々。まだまだ道は遠い。
 巨大な獣の背に跨るような物語の中の人たちって凄いなって、本当に感心する。
 
 そして二十日近くを経て……。

 よく自転車やバイクに乗る人が、「自分が風になったみたいで気分がいい」というような感想を口にしているのを耳にしてきたが、私はいまそれを体感している。
 銀色の毛をなびかせてフェンリルが疾走する。
 その背に跨り、体を出来るかぎり低くして彼の体に張りつくかのような姿勢にて、目まぐるしく流れていく景色に動じることなく、私は冷静に対処していた。
 銀狼が走る、曲がる、跳ねる、そして止まる。
 傍からみるとフェンリルの毛皮の中に埋もれているかのような格好になっているが、これが彼に乗る方法の正解なのだ。乗馬のように背筋なんてピンと伸ばして胸を反り返していたら、風の抵抗をモロに受けてあっという間に振り落とされる。
 極力、姿勢を低くしてシルバーと一体化することで、風を後方へと上手に受け流す。騎乗する自身もまた彼の体の一部とすることで、私はようやくフェンリルの背を手に入れた。


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