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22 紅い玉の伝説。
しおりを挟む村に諸々を届けた帰り道、私は前から少しばかり気になっていたことをシルバーに訊ねてみる。
「ねえ、そもそもなんで魔族と人間は争ってんの?」
銀狼は即座に「馬鹿じゃから」という身も蓋もない解答を寄せる。
そこで「どの辺が馬鹿で、どのくらいに馬鹿なのか、詳しく」とせがむと面倒臭そうにシルバーが話してくれたところによれば、どうやら魔族と人間ってのは元は同じ種族だったんだって。それがとある事情により、違う進化の道を歩いて現在に至ると。
「で、その事情ちゅうのが長くなるんじゃが……」
……かつて世界は一つだった。
そこにある日、なんの前触れもなく空を切り裂いて異界より紅い災いが落ちてくる。
世界は混乱した。
みな何とかしようとするもまるで歯が立たない。
このままでは世界が終わる。
それを哀れに思ったのか、神々が手を差し伸べてくれた。
災いと同じく空を切り裂いて現れた異界の勇者たちが紅い災いに立ち向かい、多くの犠牲を払いながらもなんとかこれを封じることに成功する。
災いは紅い玉となり封印の地の底深くにて厳重に管理されることとなった。
そして生き残った者たちは二手に分かれることとなる。
一方は封印の地を守り監視するために。
一方は荒廃した世界を再び繁茂させるために。
そして気の遠くなるほどの長い歳月が流れた。
封印の地を守る者たちは、地の底に眠る紅玉の影響を少しずつ受けて、その容姿を次第に変えていき、ついには元の姿とはかけ離れた存在となる
世界の再生を誓った者たちもまた、環境の影響を受けてか、少しずつ変化し現在へと至る。
こうして世界には魔族と人間という二種類の種族が産まれた。
この頃になると、すでに古の伝承は途絶えて久しく、魔族らはただ盲目的に紅玉を至宝として守るばかりで、そこに込められた真意も忘れてしまった。また人間たちもかつての同胞らの変異した姿に本能的に同族嫌悪を抱き、次第に忌避感を募らせていくこととなる。
かくして道を違えた両者が本格的に衝突するまでに、それほどの時間はかからなかった。
「な? 馬鹿じゃろう」とシルバー。
「うん。馬鹿だな」と私も頷いた。
そもそもそんなに相手が気に入らないのならば、互いに近寄らなければいいのに、戦費と命を垂れ流すぐらいならば、総力を結集して国境に壁でも建設しろよ。
どうしてわざわざ額を突き合わせて、同じ土俵に上がるのか理解に苦しむ。
辺境すら満足に開拓できないくせに他に注力している場合じゃないよね、両方とも。挙句に民を飢えさせているなんて呆れてモノも言えない。
そしてこの国の上の連中が阿呆だということが、残念ながら発覚してしまった。
これはますます関わらないように注意しないといけないな。
「それで両者の負の感情が積もり積もって紅い災いさんが大復活! とかになったら笑えるね」
そんな冗談を私が口にすると、「ありうるのお」とわりかし真面目なトーンの銀狼のお返事。
まあ、そうなったらなったで現行の勇者諸君に頑張ってもらうしかないのだが、もしもの時は神域の御戸にでも逃げ込んで嵐が去るのを、ひっそりと待つとしよう。
翌朝、辺境の村は朝も早くから大騒ぎであった。
村の共同井戸の周りに、沢山の宝物やら食べ物が山積みされていたからである。
先日、森に勝手に立ち入った子供たちが森でデカい銀色の狼を連れた若い女に会って、なんとかしてくれるらしいとか言っていたが、大人たちはまるで信じていなかった。だが実際に、その言葉通りのことが起こり、これを信じざるおえなくなる。
箱詰めされた食糧はこれまで見たこともないような品であったが、食べてみるとすこぶる美味しい。煮てよし焼いてよし生でよし、しかも日持ちするのかまるで腐らない。
肥料だというモノを畑に撒けば、ほんの数日にて作物が息を吹き返し、これまでの不作がまるで嘘であったかのような隆盛を見せる。
金貨や宝石のおかげで借金のカタに取られそうになっていた村の娘たちも救われた。
村人たちは森の女に深く感謝した。そして彼女がもたらした福々たる食べ物から「聖女チクワ」と呼び、崇め敬うようになっていく。
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