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022 襲撃者たち
しおりを挟むアスラ王子たちが闘いに勝利した瞬間。
魔槍があげた断末魔の叫び。
気が狂わんばかりにすさまじい絶叫ではあったが、近々にてこれをまともに浴びた者と、少し離れたところで耳にした者とでは、おもいのほか身体の影響に差が生じた。
「殺るなら、ここだ!」
そう判断した隊長の男は、すぐさま部下たちに目配せをする。
白煙筒を放ち、飛び込んだ襲撃者たち。
総勢十九名の襲撃者たちは、四人の組と三人の組に分かれて突入。
四人組が、アスラ王子、女用心棒ゲツガ、もうひとりの女を襲撃、そして小娘の身柄をおさえる役割を担う。残りの三人組が魔槍の回収へと動く。
四身一体の攻撃。
一人目と二人目の連撃をからくも防いだアスラ。しかし不利な体勢と肉体の疲労によって押し切られたところで、三人目の刃によって袈裟懸けに斬られてしまう。それでも致命傷を避けようととっさに身をよじったが、そこに三人目の影から出現した四人目。小弓による毒矢はかわし切れず、ついに倒れた。
同様に四人による連携攻撃を受けたゲツガ。だがこちらには飛び道具がなかったのが幸いした。どうにか撃退し、肩を浅く斬られるにとどめる。
もうひとりの女を狙った組は目標を見失う。失敗を悟った段階ですぐに手をひいた。女が少し後方に位置していたことで、わずかに猶予が生まれ対処されてしまったらしい。
小娘の身柄を確保しようと動いていた組もまた似たような状況ではあったが、こちらが捕獲を断念したのはいささか事情が異なる。
床に伏せてすばやく転がって逃げようとする小娘。思い切りのいい動きではあったが、しょせんは素人。手をのばせばまだ届く。だがそのとき、とてつもない怒気を感じて、おもわず獲物へとのばした腕を引っ込めたのである。かつて感じたことのない威圧。気をとられているうちに、小娘の姿が完全に煙の向こうへ消えた。
結果として作戦は半分成功し、半分失敗に終わる。
それでも第一の目標である魔槍の回収と、第二の目標であるアスラ王子暗殺は成功。
隊長は即座に撤退の判断を下す。
◇
一切足を止めることなく駆け続け、地上を目指していた襲撃者ら一行。
第三十九階層まできてもなお、その歩みを緩めることはない。
後方の闇を気にしつつ、部下のひとりが腕の中にある鉛色の箱を不安げに見つめる。
なかには回収された魔槍の穂先が納められてあった。
「自分にはこいつがすでに活動を停止しているようにおもえるのですが」
すると先を走っていた隊長が「くくく」と含み笑いをこぼす。
「案ずるな。折った程度でどうにかなるようなシロモノを、わざわざ試練の迷宮の奥深くなんぞに、隠し部屋まで作って封印などするものか。
しかし王子たちのおかげで助かったわ。魔槍を弱体化してくれたおかげで、こうして易々と手に入れられたのだからな」
そうでなければ自分たちのうちの誰かが、あの白い槍に操られていた若造と同じ運命をたどっていたはず。
隊長の話に一同がゾッとするも、部下のひとりがすぐににやり。
「まったく。その返礼がコロダマの毒とは、アスラ王子もついてない」
この言葉には全員が口角を歪める。
彼らからすれば本来の任務である「魔槍の探索」のみならず、わざわざ死地に飛び込んできた第二十三王子をも始末できたのだから、上々どころではない。
「これで帝位争いからまた一人脱落した。末席とはいえアスラ王子を早々に始末できたのは行幸である。
ふしぎな武器を従えた小娘は惜しかったが、おそらくはあれが例の『剣の母』なのであろう。だとすれば拉致に失敗してむしろ正解であった。
もしも成功していたら、いまごろ我らは天剣(アマノツルギ)どもに追われる立場になっていたはずだ。そうなればとても逃げ切れまい」
天剣と剣の母を手に入れそこなったというのに、おもいのほかに上機嫌な隊長。
そんな隊長の態度にべつの部下が首をかしげる。
「王子にそれほど危惧する要素があったのですか? 確かに個の武勇は優れておりましたが、逆に言えばそれだけの男だったように見えましたが」
彼は隊長とともにアスラ王子を直接襲撃した組にいた者。
実際に刃をまじえたからこその感想であったのだが、これに隊長はかぶりをふる。
「現時点ではさほどの脅威でもない。だがアスラ王子の持つ才芽……。見過ごすには、あまりにも危険であったのだ。この先どう化けるかわからない以上、ここで始末できたのは幸運であったわ」
「して、その王子の才芽とはいったい?」
部下からの問いに隊長がぼそりと口にしたのは「覇王」というもの。
才芽「覇王」
覇道を征く王者の相にて、数多の者たちを惹きつける反面、その道を突き進む過程において多くの血を流すことになる。
「ずっと我らが主もアスラ王子の存在を危惧しておられた。
よもやそれを消すのと同時に、魔槍が手に入るとはな。まさしく好機到来にて、これでようやく計画を次の段階へと移行できる。
今度の大練武祭は、さぞや激しいものになることであろうよ」
そこで会話を打ち切った隊長、歩調をあげ動きを加速する。
旗下の者たちもこれに倣った。
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