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024 勧誘
しおりを挟む怒る巨漢じじい。
名をヴルスといった。アスラ王子のお目付け役にて、武の師匠でもあるそうな。
このままでは試練の迷宮内でお説教が始まりかねない。せっかく変装までして正体を隠しているのに、これまでかいた恥が水の泡となってしまう。
だからわたしは子どもである己の身を活かしてこれを阻止する。
トトトと近づき、ヴルスのたくましい腰にひしと抱きつく。
上目づかいで瞳をうるうる。
「おねがい、おじいちゃん。まずはわたしの話を聞いて」
子どもが大人に泣きべそをかいてすがるの図。
こうなると良識ある立派な大人ほど対処に困る。武人であればなおさら。
「うっ」
ヴルスがひるんだところで、わたしはかくかくしかじか。口早やに事情を説明。王子が死んだことにしている旨を伝えた。
するとすぐにことの重大さを理解したヴルス、「……わかった。そういうことであれば、説教はまたのちほどにせねばなるまい」と矛をおさめてくれた。
これ幸いと仮面の剣士姿のアスラ王子をヴルスに預けて、わたしとゲツガとケイテンは三人で先に迷宮の外へ。
いっしょに出てきたら、せっかくの変装が台無しになるからね。だからあとで宿屋で落ち合うことにした。
で、勇者のつるぎミヤビの探査能力にて襲撃者たちの気配を探ってもらうも、迷宮の門付近にそれらしい反応はないとのこと。
「人が多すぎて定かではありませんが、おそらく迷宮街をも抜けて、すでにこの地を離れてしまっているかとおもわれますわ」
ミヤビによれば、王子暗殺を成功させたと思い込んでいる敵勢は、ことが露見する前にとんずらしているとのこと。
襲撃の手並みといい、引き際といい、おそろしく動きがいい連中である。
毒とかおっかないし、できれば二度と会いたくない。
◇
ひと足先に宿屋へと戻ったわたしたち。
自室にこもりケイテン主導にて、試練の迷宮内で手に入れた大量の魔晶石をせっせと選別していたら、控えめに扉を叩く音がする。
姿を見せたのは仮面姿のアスラとヴルスの二人。
あらためて自己紹介ののちに、あれこれと迷宮内であった詳細を説明。
するとヴルスがアスラの頭をぐいと押さえつけ、ともに深々と頭を下げた。
「このたびは何から何まで迷惑のかけ通しにつき、なんとお礼を言ってよいものやら」とヴルス老。
「まぁ、なんだ。その悪かったな。オレさまを助けるのに使ったクスリって、すごい貴重なものだったんだろう。いくらだ? ちゃんと助けてもらった礼の分も今回の迷宮探索の報酬に上乗せして払うから」とアスラ。
彼らの申し出にわたしは「うーん」と考え込む。
だって奇跡の霊薬に用いた星香石ってば、基本的にパオプ国の至宝にて門外不出の品。よって市場価格はないに等しい。
「いくら欲しいといわれてもねえ、星香石の適正価格なんて知らないし」
その辺に落ちている石ころとて、売り主が一ミズレ金貨と値札をつければ、実際の価値はともかく販売価格がそうなる。
同様に、どれほど高価な宝石とて値札がなければ、タダみたいなもの。
わたしが独り言をつぶやいていたら、それを耳にしたヴルスの目がカッと見開かれる。
「なんと! いま星香石と申されたか。
なるほど、そういうことであったか……ならば納得よ。深々と袈裟懸けに斬られて、出血多量のうえに、心の臓近くに毒矢を射られたというのに、たちまち復活したという話も。
ううむ、これはとんでもないことになった」
愕然としているヴルス。彼はあの石のことを知っていたみたい。
星香石について聞かされたアスラも「はぁ!」と目をまん丸にして驚く。
「おまえ、そんな大切なモノを、どうして出会ったばかりのオレさまなんかに……。
ハッ、もしやこの超絶イケてるオレさまに惚れたのか?」
いきなりふざけたことをぬかしたので、わたしは「かんちがいすんな! ど阿呆」とアスラの脛をガツンと蹴飛ばす。
「どうしてもなにもない。仲間を見捨てるなんざぁ、辺境女のすることじゃあないからね。
わたしには世界一かわいい妹がいる。だからつねづね、それに恥じないステキにムテキなお姉ちゃんでありたいと生きてきたし、これからも生きていく。
ただ、それだけだ。わかったか、このとんちき自惚れ野郎」
ビシっとわたしが言ってやったら、帯革内にいたミヤビとアンとツツミも続く。
「今度、チヨコ母さまに失礼なことを言いやがったら、スパっとちょんぎりますわよ。このぱっぱら王子」
「……おまえごとき童貞王子が母を? フッ、笑止」
「いっそ未来への禍根を絶つべくここで潰すべきか。種を袋ごとぷちっと。にんにん」
剣の母と天剣三姉妹からぼろくそに言われて、アスラはおおいにひるむ。
しかしそれでもひき下がることなく、殊勝な態度にてこんな言葉を口にする。
「なんにせよチヨコにはとてつもない借りができちまったことにはかわりない。
もしよかったらなんだが、オレさまといっしょに来ないか? すぐにはとても返せそうにないし、そばにいてくれたら少しずつでも恩に報いられると思うんだが」
まさかの勧誘!
天剣のチカラ目当てといった風でもなく、あくまで純粋な申し出なのは、こちらを見つめてくる藍色の真摯なまなざしを見ればわかる。
だがしかし……。
「気持ちだけ受け取っておくよ。このあともいろいろと予定が立て込んでいるからね。
アスラだって大練武祭に出場するんでしょう? だったら外部枠の予選を勝ち抜いて、見事に本選出場を果たしたら、それでちゃらにしてあげる。
ってわけで、この話はこれでおしまい。それよりも、ほら、あんたたちも魔晶石を数えるのを手伝って、まだまだいっぱいあるんだから」
一方的に話を打ち切ったわたしに、なおも不満顔のアスラ。
それでも「わかった」としぶしぶ承諾してくれた。
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