剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?三本目っ!もうあせるのはヤメました。

月芝

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043 燃える都

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 白い魔槍にとり憑かれたコォンを退治することに成功したところで、わたしたちは今後の方針を相談。

「チヨコちゃんのチカラが有効なのは証明されたわ。でも」

 いったん言葉を区切ったケイテン。しばし沈黙して遠くの物音に耳をすます。
 わたしとアスラもそれに倣うと、かすかに聞こえてきたのは騒乱の音。
 どうやらコォンを退治したからとて、みんながもとに戻るという安直な展開は期待できないらしい。
 状況を確認してからケイテンがふたたび口を開く。

「やはりダメみたいね。そうそう都合よくはいかないか……となれば、騒動をおさめるにしても、わたしたちだけではムズカシイわね」

 おかしくなっているみんなを救うには、わたしの才芽の効能を宿した水が大量に必要となる。
 せっかくの特効薬とて、これを準備しみんなに与えるには、人手がいる。
 けれども現在の我が陣営はあまりにも貧弱。ここはなんとしても味方となる人員を確保しなければならない。

「まだ闘技場内にて正気を保っている人も少なからずいるはず。
 でも、その人たちをいちいち探し出して合流していたら、あまりにも時間がかかりすぎる。
 ここはやはり当初の予定通り一度脱出してから、王城、もしくは話しが通じるえらい人がいるところに駆けこむのがいいと思うんだけど」

 ケイテンの意見にわたしとアスラもうなづく。
 かくしてわたしたちはふたたび外へと向かった。
 だがしかし……。

  ◇

 大闘技場から外へと出たわたしたちは立ち尽くす。
 首都アルマハルのそこかしこにて黒煙がのぼっており、火事が起こっている。ところによってはボヤ騒ぎではすまない火勢にて、焔が曇天を赤く照らすほど。
 通りには逃げ惑う人たちと、荒れ狂う人たちの姿が入りまじっている。
 怒号、悲鳴、雄叫び、剣戟、炎、血……。
 都全体が狂乱に呑み込まれようとしていた。

「うそ、闘技場だけの話じゃなかったの」

 あまりの被害の拡大ぶりに、わたしは目をむく。

「ひでえな、まるで戦時下みたいな光景だ。王城の方も様子がおかしい。こいつはマジでやべえぞ」

 アスラの言う通りにて、小さな丘の上に建つ城からも煙が幾筋もあがっていた。

「……みたいね。あの黒い竜巻は出現直後に空へと消えた。おそらくは首都一帯に人心を狂わす赤い雪を降らせたんだわ。しかしこれは」

 冷静に周囲の様子を観察していたケイテンも、あまりのことに途中で口をつぐむ。
 大練武祭の開催期間中ということもあって、首都アルマハルにはどれほどの人間が集っていたことか。しかも祭りに浮かれて大多数の者たちが表に出ていた。
 たまさか屋内にて難を逃れたとて、そのあとの混乱に巻き込まれては無事ではすむまい。
 狂った者たちは少なく見積もって数万、いや、実態は数十万にも届くことであろう。これはもはや暴動の域をはるかに超えている。それこそ戦争状態に突入したといっても過言ではあるまい。
 問題はこれを鎮圧するはずの国側の体制が、ほとんど機能していないということ。

「最悪、首都アルマハルは焦土と化すわよ」

 いつになく低く重たいケイテンのつぶやき声。
 わたしとアスラはごくりとノドを鳴らした。

  ◇

 なんら打開策が見いだせないうちにも、ちらちらと赤い雪は降り続けていた。
 刻一刻と事態は確実に悪化していく。
 ふいにアスラが真剣な面持ちにてわたしを見つめた。

「なぁ、チヨコ。頼みがある」

 アスラが望んだのは、わたしの水の才芽を少し貸して欲しいということ。
 彼は手持ちの水筒に狂った人たちを正気に戻す水を入れて、闘技場へ単身にて再突入し、どうにかヴルス老やお供の者たちだけでも救い出すとの決意を語った。

「だったらわたしもつきあうよ」

 この申し出にアスラは首をよこにふる。

「そこまでは甘えてられねえよ。それにこれはオレさまのワガママだからな。なによりチヨコは最後の希望だ。おまえにもしものことがあったら取り返しがつかねえ」
「でも、でも」

 アスラをどうにか翻意させようとするも、うまい言葉が見つからない。
 焦るわたしの頭にポフンとやさしく手を置いたアスラが、ニカっと笑う。

「なぁに、心配はいらねえよ。ひとりの方がかえって小回りが利くってもんだ。それにオレさまは強い。だからそんな顔すんな」

 仲間を救うと覚悟を決めている男を前にして、わたしは無力であった。
 すがる思いでケイテンを見るも、彼女も静かに首をふるばかり。

  ◇

 付近の手洗い場にて水を補充。特効薬にて水筒を満たし、アスラは「じゃあな」と闘技場内へ、ひとり元気よく駆けていった。
 軽快に遠ざかる足音。屋内に消えた背中を見送る。
 けれどもゆっくりと感傷にひたっている暇はない。
 なぜなら丘の下からこちらへと迫る、赤い目をした群衆の姿があったからだ。


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