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011 金の水差し
しおりを挟むロイチン商会。
商連合オーメイにてメキメキ頭角をあらわしており、いまもっとも勢いのある商会ながらも、その急成長の裏では絶えず黒いウワサがつきまとう。
そんな商会を率いるのは三つ子の姉弟たち。
すれちがった殿方がおもわず立ち止まってふり返るほどの魅惑の美貌を誇る、長女シャムド。
巨漢の太っちょにて物腰や言葉遣いは丁寧ながらも、冷徹に損得勘定を行う、次男ヒャムド。
巨漢の太っちょにてゴテゴテした装飾を好み、利に対してやたらと鼻がきく、三男チャムド。
堕天した女神のような長女が、人の業をこねくり回して造ったような肉塊の弟たちを従える形で牽引している。
かつてクンルン国で起きた魔槍にまつわる一連の騒動では三男のチャムドが、神聖ユモ国の南海の争乱では次男のヒャムドが関与したとの疑いが濃厚。それ以前にも元八武仙フェンホアが起こした事件の裏で発生していたイチカ皇女誘拐未遂事件。誘拐犯たちが逃亡のために用意していた船が、どうやらロイチン商会の息のかかったモノであったらしいとの調べもついている。
他にもパオプ国にて暗躍していたレイナン帝国の工作員たちとの繋がりも疑われているが、各国の諜報員たちが探りを入れるも決定的な証拠は掴めていない。
どうやら疑われていることを承知の上にて、ときに大胆に、ときにはしたたかに振る舞い、周囲を煙にまき、ひたすら暴利を貪っているらしい。
このことからしても、いかにこの三つ子がひと筋縄ではいかない連中なのかが、容易に想像がつくというもの。
わたしはかつてクンルン国の首都アルマハルにて、遠目にだが三男のチャムドを見かけたことがあった。
そのときの第一印象は「絶対に関わりたくない人物」というもの。
人を見た目だけで判断してはいけない。
なんぞという高尚な教えがある。言ってることは立派にて、それが人の生きる道として、正しいことも知っている。
が、明らかに目つきがおかしくて、口からだらだらとヨダレをたらし、どこからどう見てもヤバそうな狂犬を前にして、そんな建前をほざけるほどわたしは肝がすわってはいない。なんだかイヤな予感がしたら近寄らない。それが辺境育ちの知恵である。おためごかしな根拠や理由なんぞは、無事に生き残ったあとでゆっくり考えればいい。
だからわたしは諸々の事件に関与しているらしいとの疑惑を、星読みのイシャルさまから伝えられたときも、「あー、やっぱり」とぐらいにしか思わなかった。
とはいえ、末っ子の容姿と三つ子という情報から、お姉さんもきっと似たようものだろうと勝手に想像していたので、そのあまりの似ていなさっぷりには、ただただ驚愕。
ぶっちゃけ商連合オーメイに来訪して一番おどろいたかも。マジで似てねえー。
まぁ、超絶イケてる美形家族の中にてひとり地味な鬼っ子である、イケてないわたしがえらそうに言えた義理ではないけれども。
そんな悪名高き三つ子の長姉シャムドと遭遇して、わたしがいかほどに緊張と用心をしいられたことか。
だというのに、シャムドは必要以上にこちらへ接近してこない。
周囲をときおりチョロチョロしているけれども、それとても他の人と談笑しているばかり。わたしと直接言葉を交わしたのは、初見時の挨拶のときだけ。
他の公房会の面々が「隙あらば剣の母さまとお近づきに」と、接触の機会を虎視眈々と狙っているのとはあまりにも対照的。それがわたしには不自然かつ不気味ですらもあった。
◇
表面上は華やかに進行していく日程。
式典は複数日におよび、十五日にも渡りお祭り騒ぎが続く。
内心にて「来るならこい」と身構えてはいるものの、シャムドに怪しい動きは微塵もなく、むしろひょうひょうとすらしていて、なんだかひとりマジメに警戒している自分が阿呆らしくなってくるほど。
いざともなれば、イシャルさまが信を置いて随行させてくれた使節団の人たちもいるし、なにより天剣三姉妹(剣と鎌と槌)がいる。ついでに鉢植え禍獣のワガハイも。
だから「あまりひとりで気張る必要もないかなぁ」と考え、少し肩のチカラを抜こうかと思いつつあった、そんなある日のこと。
日中の予定を終えて、すっかりクタクタになっていたわたしは、あてがわれた部屋にて早々に横になった。
ふと見れば、枕元に設置されてある台のうえに、とてもキレイな水差しが置いてある。
金製らしいのだが派手さはなく輝きも鈍い。表面には何も彫られておらず、無地で飾りっけがなくて、とても地味だけど、さりとて妙な趣と存在感がある品。
ちょっと興味を覚えたわたしは、金の水差しを手にとり、しげしげと眺める。
「へー、使い勝手がよさそう。大きさも重さもちょうどいいし」
とにかく手に馴染み、おさまりがいい。
市場に数多ある湯飲みの中から、自分にばっちり合う品と出会ったときのような……、これはじつにいいモノ。
相性の良さにわたしはホトホト感心しつつも、水差しをそっと台に戻す。
いや、たしかに気には入ったけれども、さりとて「ちょうだい」とおねだりするほど、わたしは厚顔かつ軽薄な女ではない。
ただ、これを作った職人なり工房のことは知りたいので、おりをみてたずねてみようとは思うけど。ジョウロとか作ってたら園芸用に欲しいなぁ。
なんぞと考えつつ就寝。おやすみなさい。すぴー。
で、目を覚ましたら、なぜだかわたしは荒地にてひとりきりであったと。
以上、ちょっと長めの回想終わり。
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