剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?五本目っ!黄金のランプと毒の華。

月芝

文字の大きさ
11 / 50

011 金の水差し

しおりを挟む
 
 ロイチン商会。
 商連合オーメイにてメキメキ頭角をあらわしており、いまもっとも勢いのある商会ながらも、その急成長の裏では絶えず黒いウワサがつきまとう。
 そんな商会を率いるのは三つ子の姉弟たち。
 すれちがった殿方がおもわず立ち止まってふり返るほどの魅惑の美貌を誇る、長女シャムド。
 巨漢の太っちょにて物腰や言葉遣いは丁寧ながらも、冷徹に損得勘定を行う、次男ヒャムド。
 巨漢の太っちょにてゴテゴテした装飾を好み、利に対してやたらと鼻がきく、三男チャムド。
 堕天した女神のような長女が、人の業をこねくり回して造ったような肉塊の弟たちを従える形で牽引している。
 かつてクンルン国で起きた魔槍にまつわる一連の騒動では三男のチャムドが、神聖ユモ国の南海の争乱では次男のヒャムドが関与したとの疑いが濃厚。それ以前にも元八武仙フェンホアが起こした事件の裏で発生していたイチカ皇女誘拐未遂事件。誘拐犯たちが逃亡のために用意していた船が、どうやらロイチン商会の息のかかったモノであったらしいとの調べもついている。
 他にもパオプ国にて暗躍していたレイナン帝国の工作員たちとの繋がりも疑われているが、各国の諜報員たちが探りを入れるも決定的な証拠は掴めていない。
 どうやら疑われていることを承知の上にて、ときに大胆に、ときにはしたたかに振る舞い、周囲を煙にまき、ひたすら暴利を貪っているらしい。
 このことからしても、いかにこの三つ子がひと筋縄ではいかない連中なのかが、容易に想像がつくというもの。

 わたしはかつてクンルン国の首都アルマハルにて、遠目にだが三男のチャムドを見かけたことがあった。
 そのときの第一印象は「絶対に関わりたくない人物」というもの。
 人を見た目だけで判断してはいけない。
 なんぞという高尚な教えがある。言ってることは立派にて、それが人の生きる道として、正しいことも知っている。
 が、明らかに目つきがおかしくて、口からだらだらとヨダレをたらし、どこからどう見てもヤバそうな狂犬を前にして、そんな建前をほざけるほどわたしは肝がすわってはいない。なんだかイヤな予感がしたら近寄らない。それが辺境育ちの知恵である。おためごかしな根拠や理由なんぞは、無事に生き残ったあとでゆっくり考えればいい。
 だからわたしは諸々の事件に関与しているらしいとの疑惑を、星読みのイシャルさまから伝えられたときも、「あー、やっぱり」とぐらいにしか思わなかった。
 とはいえ、末っ子の容姿と三つ子という情報から、お姉さんもきっと似たようものだろうと勝手に想像していたので、そのあまりの似ていなさっぷりには、ただただ驚愕。
 ぶっちゃけ商連合オーメイに来訪して一番おどろいたかも。マジで似てねえー。
 まぁ、超絶イケてる美形家族の中にてひとり地味な鬼っ子である、イケてないわたしがえらそうに言えた義理ではないけれども。

 そんな悪名高き三つ子の長姉シャムドと遭遇して、わたしがいかほどに緊張と用心をしいられたことか。
 だというのに、シャムドは必要以上にこちらへ接近してこない。
 周囲をときおりチョロチョロしているけれども、それとても他の人と談笑しているばかり。わたしと直接言葉を交わしたのは、初見時の挨拶のときだけ。
 他の公房会の面々が「隙あらば剣の母さまとお近づきに」と、接触の機会を虎視眈々と狙っているのとはあまりにも対照的。それがわたしには不自然かつ不気味ですらもあった。

  ◇

 表面上は華やかに進行していく日程。
 式典は複数日におよび、十五日にも渡りお祭り騒ぎが続く。
 内心にて「来るならこい」と身構えてはいるものの、シャムドに怪しい動きは微塵もなく、むしろひょうひょうとすらしていて、なんだかひとりマジメに警戒している自分が阿呆らしくなってくるほど。
 いざともなれば、イシャルさまが信を置いて随行させてくれた使節団の人たちもいるし、なにより天剣三姉妹(剣と鎌と槌)がいる。ついでに鉢植え禍獣のワガハイも。
 だから「あまりひとりで気張る必要もないかなぁ」と考え、少し肩のチカラを抜こうかと思いつつあった、そんなある日のこと。
 日中の予定を終えて、すっかりクタクタになっていたわたしは、あてがわれた部屋にて早々に横になった。
 ふと見れば、枕元に設置されてある台のうえに、とてもキレイな水差しが置いてある。
 金製らしいのだが派手さはなく輝きも鈍い。表面には何も彫られておらず、無地で飾りっけがなくて、とても地味だけど、さりとて妙な趣と存在感がある品。
 ちょっと興味を覚えたわたしは、金の水差しを手にとり、しげしげと眺める。

「へー、使い勝手がよさそう。大きさも重さもちょうどいいし」

 とにかく手に馴染み、おさまりがいい。
 市場に数多ある湯飲みの中から、自分にばっちり合う品と出会ったときのような……、これはじつにいいモノ。
 相性の良さにわたしはホトホト感心しつつも、水差しをそっと台に戻す。
 いや、たしかに気には入ったけれども、さりとて「ちょうだい」とおねだりするほど、わたしは厚顔かつ軽薄な女ではない。
 ただ、これを作った職人なり工房のことは知りたいので、おりをみてたずねてみようとは思うけど。ジョウロとか作ってたら園芸用に欲しいなぁ。
 なんぞと考えつつ就寝。おやすみなさい。すぴー。

 で、目を覚ましたら、なぜだかわたしは荒地にてひとりきりであったと。
 以上、ちょっと長めの回想終わり。


しおりを挟む
感想 74

あなたにおすすめの小説

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

冒険野郎ども。

月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。 あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。 でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。 世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。 これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。 諸事情によって所属していたパーティーが解散。 路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。 ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる! ※本作についての注意事項。 かわいいヒロイン? いません。いてもおっさんには縁がありません。 かわいいマスコット? いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。 じゃあいったい何があるのさ? 飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。 そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、 ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。 ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。 さぁ、冒険の時間だ。

処理中です...