13 / 50
013 強欲の街
しおりを挟む荒野の中にポツンとそそり立つ街の外壁。
ざっと見たところでは、街の規模はポポの里に一番近いタカツキの街とどっこいどっこいといったところか。
つまりはたいしたことがないということ。子どもの足でも一周するのに、さほど時間はかかるまい。
入り口を求めて外壁沿いを右へ進む。
しばし歩くと門扉が見えてきた。
無機質な扉は閉じられている。衛士は立っておらず、受付らしき場所もない。
だからわたしは扉を叩いて、来訪者がいることを内部に報せようとするも、直前でやめた。
重厚な鉄の門扉なんぞを叩いたら手が痛い。
たとえ現実ではなくとも、わざわざ痛いおもいをすることはない。
わたしは足下に転がっていた適当な小石を拾うなり、これを扉に向かってぶん投げる。
鉄と石が当たって、カンっと軽い音が鳴った。
………………。
しばらく待つも反応はなし。
そこで今度はもう少し大きな石を投げてみる。
先ほどよりも大きな音がしたものの、門の向こうはあいかわらず沈黙したまま。
誰もいないのか、聞こえないのか。
「フム。これで壁の向こうが無人だったら早々に詰みだよ」
なんぞと独り言をつぶやきながら、周囲の小石をかき集める。
一度でダメなら二度、二度でダメなら三度、である。
小石の山ができたところで、投げる、投げる、投げる。
ときには三つ四つとまとめて握っては「えいや」と投げる。
荒野に響くガンガン音。
続けるほどに肩がほどよく温まってきた。汗もかき、気分も高揚し、なんだかちょっと楽しくなってきたかも。そういえば、商連合オーメイに来てからというもの、ロクに体を動かす時間もなかったしね。
なんぞと考えつつ放たれた、何十投目か。
右足を軸に、左足のつま先を高らかに天へと突き出し、これを前方へと振り下ろすのと同時に、手の中から放たれた石は拳ほどの大きさ。
今日一番の速度と威力がこもった石。
これがぶち当たったのは鉄の門扉ではなく、門を開けてくれた長衣姿の老人であった。
「さっきからガンガンガンガンやかましい! って、ギャーッ」
渾身の投石。まともに顔面に喰らった老人は、カエルがつぶれたような声をあげ盛大にぶっ倒れ、わたしは「あっ」
石の直撃を喰らい鼻血を吹いて倒れた老人。
わたしはあわてて「ごめーん」と駆け寄るも、倒れている老人の顔を見た瞬間に、ギョ!
長くよれた白髪頭。めくれた前髪の下にあったのは大きな目玉ひとつきり。
あきらかに人間ではない容姿。これを前にしてわたしはどう反応していいのかわからない。
◇
「あいたたた」
自力で復活した一つ目の老人。
とくに怒るでもなく、「やれやれ、近頃の若い者は……」とタメ息まじりにあきれつつ「わしはバクメ。この街を預かる者だ」と名乗った。
だからわたしも謝罪がてら自己紹介をしようとするも、「無用」と手で素っ気なく制止される。
バクメ老はきびすを返すなり、かまわずスタスタと街中へと歩いていく。わたしもあわててあとを追う。
バクメ老についていきがてら、わたしはすぐにこの街の異変に気がついた。
そこかしこの地面がやたらとキラキラしている。
何かとおもえば、ミズル銀貨にミズレ金貨などだけでなく、色とりどりの宝石やら精緻な宝飾品なんかが、無造作に落ちているではないか。
まるで雑草みたいに、それこそ掃いて捨てるほど!
進むほどに量が増えていく。
ついには地面が見えないほどにまでもなった。
そうしてたどりついた先は、街の中心部とおもわれる広場。
広場の中央には金ぴかの福ふくしい体型をしたおっさんの像のある噴水。
この長鼻のおっさんは、商連合オーメイにて崇められている運と商いの神コガネ。たいていの商店は神棚にて像を祀っており、朝夕、商売繁盛を願って拝んでいるんだとか。
噴水のコガネ像が背負っている大袋。そこから勢いよく飛び出していたのは、水ではなくて目もくらむような金銀財宝の数々。
キラキラしながら周辺に降り注ぐそれらに大勢の一つ目たちが群がり、競うようにして拾い集めている。
「なに、これ……」
あまりの光景に立ち尽くすわたしにバクメ老がふり返る。
「ここは強欲の街。ご覧の通りの場所さ。おまえさんも遠慮せずに、カネでも宝石でも、欲しい物を好きなだけ拾うがええ」
言われて、わたしは足下にあった彩色の硬貨を手にとってみる。
見た目に反してずっしり重たいそれはイズユ彩貨。ミズレ金貨の千倍の価値があるもの(約一億円ぐらい)。一般には出回ることがなく、おもに商人や国同士の大きな取引などの際に用いられる貨幣。
知識としては存在を知っていたけれども、実物を目にするのはもちろん初めて。
よく見れば、そんなシロモノがそこかしこに埋もれている。
手の中にあるイズユ彩貨。光にかざすと七色に輝くソレをしげしげ眺めてから、わたしはポイっと捨てた。
その様子を見ていたバクメ老が首をかしげて「おや、気に入らなかったか。ならば他のモノを探すがええ。きっと好みの品があるじゃろう」と言った。
けれどもわたしは首をふるふる。
「そりゃあ、たしかにお金は欲しいよ。ないよりかはあった方がいいに決まっている。
でも正しくは『お金で得られるモノ』がわたしは欲しいの。
どれだけすごい宝石だって、寒さはしのげないし、空腹の足しにはならないし、ノドの渇きはいやせないもの」
辺境のきわきわ。外部から来訪する者は稀にて、国からも存在を忘れられたような未開の地の森の奥。
そこでの暮らしは基本的に自給自足。
ポポの里ではお金での売買よりも、物々交換が主として行われている。
いくらお金があっても使い道がない。先の理由とともに、大金があってもキビシイ自然は手を緩めてくれないし、狂暴な禍獣が避けて通ってくれるわけでもない。
広大な砂漠の真ん中では水が何よりも貴重とされるように、ところかわれば価値観もかわる。
幼少期より、そんな環境下で育ったがゆえにチヨコの中で培われた金銭感覚。
お金は大切。けれどもそれをどう活かすのか、それで何を得るのかこそが肝要。
「だからお金や財宝ばかり、いくらあってもしようがないかなぁ。場所をとるし、なにより気分が落ちつかないし」
ボリボリ頭をかきながらわたしがぼそりとつぶやくと、いつしか広場の喧騒が止んでおり、すべての一つ目がこっちを見ていた。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
冒険野郎ども。
月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。
あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。
世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。
これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。
諸事情によって所属していたパーティーが解散。
路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。
ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる!
※本作についての注意事項。
かわいいヒロイン?
いません。いてもおっさんには縁がありません。
かわいいマスコット?
いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。
じゃあいったい何があるのさ?
飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。
そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、
ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。
ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。
さぁ、冒険の時間だ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる