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023 夢神バクメと女傑
しおりを挟む夢神バクメの語りは続く。おもいのほかによく回る舌。ひょっとして会話に飢えているのか?
その隙に、わたしはこの局面を打開する案を考えようとするも、ついつい意識が話に惹かれてしまい、いまいち集中できない。
そんなこちらの苦悩を知ってか知らずか、バクメは愉快そうに口を動かす。
「いま一人はシャムドの嬢ちゃんじゃよ。これまで誰も、ワシすらもが思いもよらぬ方法にて夢の世界を手玉にとりおった。
現実の情報を夢の世界に落とし込み、現実に起こりうることを予測する。心地よい夢を否定し、夢をただの夢では終わらせず、仮想現実の空間に仕立ておった。
理屈は簡単かもしれん。じゃが、一切の主観や想いを捨てて、冷徹にこれを行い経過を観察するなんぞ、常人の神経ではとてもとても。
それを平然とやってのけるのが、シャムドという女じゃ。
それと、これは彼女の名誉のために言っておくが、もしもシャムドの嬢ちゃんがワシと出会わなくとも、たぶん自力で逆境を跳ねのけ、社会の底辺から這い上がっていたことであろうよ」
長々とした口上をよどみなく吐き出し続ける夢神バクメ。ここでいったん言葉を区切ったかとおもえば、急にくつくつ笑いだす。
これまでの話のどこに笑いを誘うようの箇所があったのかと、わたしは怪訝な表情となる。
「いや、すまんすまん。ただ、ちょっと似ておると思ったんじゃよ。おまえさんとシャムドがな。
あの嬢ちゃんはガツガツと上だけを目指し、あらゆるモノを不要・必要に分類し、いらないと判断すれば容赦なく切り捨てる。そのくせ二人の弟たちだけはとても大事にしておってな。他人や商いに関してはとことん冷徹なくせに、血の繋がった身内やいったん認めた相手にだけは妙に寛大だったりもする」
似ているといわれて、わたしは憮然。
あっちは容姿端麗、頭脳明晰、才気煥発、非情冷徹、資産潤沢、悪行三昧にて、稀代の悪女と呼んでもさしつかえのないような存在。
対してこっちはちんまい辺境の小娘。郷里を愛し、家族を愛し、仲間や友を愛し、土を愛し、日々慎ましやかに生きることを身上としている。まぁ、ここのところはちょっと人生の予定が大幅に狂っていることは否めないけれども。
いっしょにされては困る、プンスカ。
けれどもそんなわたしの心を見透かしたかのように、にやりと夢神バクメがいやらしく顔を歪めた。
「かわらぬよ。想いの方向性や程度に多少のちがいはあれども、両者には、おまえさんが考えているほどの差はないのじゃ。いわゆる目くそ鼻くそといかいうやつじゃな」
愛も希望も夢の欲望も野心も、誰かに対する想いも、何かに対する執着も、善と悪すらもが、根っこはみな同じ。
ほんの少しだけ方向や長さなどがちがうだけのこと。
夢神バクメの視点からすれば、それはとても些末にて、とても差と呼べるほどではない。
面と向かってそう告げれられて、わたしは「なっ!」と絶句。
「さぁて、ずいぶんと長話が過ぎてしもうた。あんまりグズグズしていると夜が明けてしまうわ。というわけで、そろそろ宴を始めようかのぉ」
夢神バクメの巨体がぷかぷか浮かび移動を開始。
ただし、ずんずんとわたしから遠ざかっていく。
向かう先は盆地にて戦争をしていた東西二つの軍勢のところ。
いつの間にか戦いをやめていた軍勢は、混然一体となり、夢神バクメを迎え入れる。
中央にデンと腰を据えた醜怪なカメのバケモノ。これを幾重にもとり囲む布陣がたちまちのうちに形成された。
「それでは戦をはじめるとしようかの。とはいえあまりに多勢に無勢が過ぎるのも、いささか興ざめか……。
フム、よかろう。では、こうしよう。
見事、この軍勢を打ち破りワシのところにまで辿り着いてみせよ。さすればおまえさんの勝ちにしてやろう」
ざっと見で万を優に超える大軍勢。
この包囲網を単身突破して、敵本陣を突くとか、どんなおとぎ話だよ!
ヤツはけっして希望を与えたんじゃない。
恩情っぽく口にした台詞の裏にあるのは、こちらを徹底的におちょくる悪意。
この提案は来たるべき結末の絶望をより色濃くするための演出。
じつに腹立たしい。
こいつは正真正銘の悪神だ。完全に人間を自分の暇つぶしのオモチャかなにかと考えている。
そんなヤツの意のままにされるのが、とても悔しい。
はっきり言って状況は最低最悪だ。
けれども勝ち目がまったくないわけじゃない。
だって夢神バクメはうっかり口をすべらし、こう言っていたんだから。
「グズグズしていると夜が明けてしまう」と。
つまりここは夢の中にて、わたしの身体は昨夜、就寝についた寝台の上にあるということ。
ずいぶん長いこと、この世界を彷徨っていた気がしていたけれども、現実世界ではほんの一夜の出来事なんだ。
夢神バクメの支配領域にて、状況は圧倒的に不利。
だというのにわたしは臆していない。
たしかにここはヤツの世界なのかもしれないけれども、すべてが自在になるわけではないことがすでに判明しているから。だってそれが可能ならば、とっくにわたしを意のままにしているはずだもの。こちらが強く心を持ち続けているかぎりは、たぶん出来ないんだ。
じきに夜が明ける。
いっこうにわたしが目を覚まさなければ、ミヤビやアンやツツミたちだけでなく、鉢植え禍獣のワガハイが異変を察知する。周囲だってきっと騒ぎ出す。
もしかして外部から肉体を刺激されたら、強制的に夢の世界が終了するのかもしれない。
すべては根拠のない推論に過ぎないけれども、いまはそれにすがって、あがいてあがいてあがきまくってやる!
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