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028 見学会
しおりを挟む白地に金ぶち、黄緑の線で描かれてあるのはツルと葉の装飾。
見た目が豪奢な二頭立ての馬車は医師会の公用車。乗り心地はまあまあ。
わたしは現在、この車内にてアンズー卿と二人きり。
では、どうしてこんなことになっているのかというと、それはつい先日の突発的な四者面談に起因している。
◇
夢神バクメを撃破した翌朝のこと。
高級宿の最上階にある食事処で優雅に朝食としゃれこんでいたら、ロイチン商会のシャムドの訪問を受けた。
いきなりの敵首領の登場。完全なる不意打ち。
戦に夜討ち朝駆けはつきものなれど、実際にやられた側はけっこうあたふた。
場を支配され主導権をも握られた状況となり、地味にマズイ状況に追い込まれつつあったところに、乱入してきたのがアンズー卿とネジャ導師。
たまさか……なんてことはなく、これは意図的な介入。
その真意は「おいおい、抜け駆けは感心しないねえ」というもの。
いろんな肩書きを持つわたしことチヨコ。不本意ながら市場価値がぐんぐん右肩あがりにて、人脈も多岐に渡りつつある。ぜひともお近づきになりたいという方はおもいのほかに多い。
医師会の重鎮であるアンズー卿は、わたしの水の才芽、手づからかかわった水に様々な効能を宿すというチカラに興味津々。
富国教を統べるネジャ導師は、商公女と呼ばれたわたしの活動や、剣の母を中心にして起こっている一連の好景気に強く惹かれている。もらった宝物を惜しげもなく放出しているわたしに、なにやら感じ入るところがあるっぽい。まぁ、活動内容と結果だけを見れば、「じゃんじゃん使え」という富国教の教義とも一致しているけどね。
シャムドに関しては、天剣(アマノツルギ)およびわたし自身を、とっても美味しい商品とみなしている節がありあり。神さますらをも使いつぶす毒の華は、辺境の小娘をしゃぶり尽くす気まんまんだ。
他にもわたしこと剣の母に対する思惑を秘めた人物が、ここ商連合オーメイにはゴロゴロしている。
神聖ユモ国内では皇(スメラギ)さまの目が光っているから、おいそれとは手が出せない。国外に出ているいまが、まさに好機。
なのにこれまであまりその手の輩から不躾な突撃にあわなかったのは、ひとえに今回の記念式典の一切を受け持っている公房会および、これを率いるワラシ氏のにらみがあったればこそ。
でもその防壁にほころびが生じている?
このことが意味することは……。
「ひょっとして、何かあったの?」
そうたずねるわたしに、大人たちが顔を見合わせた。
三人は席から身を乗り出し互いに額をつきあわせて、小声で何やらごにょごにょ相談をはじめた。じきに合意をみたのか一様にコクンとうなづく。
そして代表として口を開いたのはアンズー卿。
彼から告げられたのは、北部を中心にて静かに広まっているという、不穏なウワサについて。
『北部の過激派が今回の記念式典の開催中にことを起こすらしい』
商連合オーメイは北部と南部にてけっこうな経済格差がある。
その根底には貴族と商人との確執があって、北部の貴族たちは自分たちの苦境の原因は南部にあると考え、王権復古を唱えている。南部の商人たちは自分たちこそが国を守り動かしているという自負があり、経済は自分たちにまかせて、お飾りの貴族どもは余計な口を挟むなといった考え。
もちろん他にもいろんな考えを持つ者がいるし、みんながみんなそんな極端な考えでもない。なかには現王ランケンやワラシ氏のように南北の融和を模索している人もいる。しかし一方では短絡的な行動に走る愚か者も……。
各国から使節団が来訪しているこの時期に問題が起きれば、それは公房会の失態であり、ひいては南部の信用失墜にもつながる。
なんぞと過激派は考えているらしいのだが、いやいやいや、ちがうでしょ?
南部で発生した問題は、巡りめぐって北部にもおよび、ひいては国全体にも影響をおよぼすはず。それも何倍にも大きくなって。
ワラシ氏はその軽挙妄動を喰い止めるべく、火消しに躍起になっており、絶賛奔走中。
とんだ貧乏くじにてお気の毒さま。
わたしはいらぬ苦労を背負わされたワラシ氏に同情の念を禁じ得ない。
が、誰かが苦境に立たされれば誰かが優位になり、誰かが不利益をこうむると誰かが得をするのが世のつね。
わたしを守る防壁にほころびが生じ、圧力が減ったところを、すかさず切り込んできたのが、シャムド、アンズー卿、ネジャ導師の三名というわけ。
◇
混乱に乗じてまんまとワラシ氏を出し抜くことに成功したシャムドたち。
しかしここで誤算が生じる。
それは集った人数が三ということ。
古来より伝わる「三すくみの法則」がここで発動。
互いを牽制するあまり拮抗し、身動きがとれなくなってしまった。
さて、困ったことになってしまった。時間は限られており、獲物を狙っている者は多い。あんまりグズグズしていたら、どこぞより横槍が入るかわかったものじゃない。
なんぞと頭を悩ましているところに、先ほどごにょごにょする機会を得た三人は、そこでこっそりある協定を結ぶ。
各々に目的があり、だし抜かれるのは論外。かといって無闇に争ったとて誰も得をしない。
ならばいっそのこと……。
手を組むとまではいかないけれども、三者が望みを果たすべき機会を平等に得る。
そのあたりで妥協したアンズー卿たち。
そろってネコナデ声にてもちかけてきたのが、見学会の打診であった。
アンズー卿は医学舎および研究所などを、ネジャ導師は富国教の教会や施設での活動などを、シャムドはロイチン商会の大型店舗や運営している賭場などを。
ぜひとも自分の目で見て、現場の声や雰囲気などを確かめて、それから今後のつき合いを考えてみて欲しいというお願い。
一対三にて波状攻撃を喰らっては、これを退け続けることかなわず。
耐えきれなくなったわたしは、ついにしぶしぶうなづくハメになった。
でもって、豪華な馬車にゆられる現在の状況に繋がると。
見学会の第一弾はアンズー卿。
馬車が向かっているのは首都ナンシャーチ郊外にある医学舎である。
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