49 / 50
049 撃沈
しおりを挟む轟々と燃え盛りながら、陸へと向けて海面をずんずん突き進む大型貨物船。
どうにか止めようと海上警備の人たちもがんばっているけれども、圧倒的質量の暴走を前にしてはいかんともしがたく。
その様子を見下ろす位置に浮かぶのは、白銀の大剣と漆黒の大鎌と蛇腹の破砕槌。
「では、いきますわよ」
号令を発したのは、天剣三姉妹の長女ミヤビ。
言うなり白銀の大剣は急降下し、貨物船の右側面の海中へドボン。
「……行ってくる」
次に動いたのは次女のアン。
激しく回転しながら漆黒の大鎌は目標の左側面の海中へと没する。
海中へと潜ったミヤビとアン。勢いのままに向かったのは大型貨物船の船底。真一文字に斬り裂くようにしていっきに抉る。
スパンと銀閃、ざっくり黒閃。
ちょうど船体の真ん中の底あたりに、二本の筋が深々と刻まれる。
ひと仕事を終えたミヤビとアンたち。各々、突入した位置から船を挟んだ反対側の水中より宙へと飛び出す。
それを見届けてから、今度は三女ツツミが入れちがいに海へと突っ込む。
水中を進み船底へとりつくなり、ツツミは姉たちが刻んだ斬傷の間をガツンとぶん殴った。
◇
底が抜けた大型貨物船は大量の浸水により足を止めた。
じきに大穴を起点にして船体がバキバキ裂けはじめ、ついにはくの字にべっきり、二つに折れてしまう。船自体の強度のほかにも、どうやら過積載が仇となったらしい。
福ふくした女性のお尻のような船尾が渦を発生させながら海中へと没する。
続いて船首部分が天へと向けてバンザイの格好のまま、燃えながら静々と沈んでゆく。
やがてすべての紅蓮が海の青に呑み込まれた。
焦げ臭い残り香が潮風に乗って、岸より事態を見守っていたわたしのところにまで届く。
フム。少し油くさい。それもあまり質がよろしくない。ねっとりギトギトした感じからして、廃油でも満載していたのかもしれない。
だとすると、あと始末がたいへん。
こりゃあ当面、掃除のために港は封鎖かなぁ。派手に沈めておいてなんだけど、残骸も引き上げて撤去しないと。湾内を往来する船が危ないだろうし。
やれやれ。人的被害こそは未然に防げたものの勝利にはほど遠い。
結果として記念式典に汚点を残したのにはちがいなく、これを仕切る公房会の面目もおおいにつぶしたことになるので、過激派の目論見はあるていど達成された。
だからせいぜい痛み分けといったところか。
なんぞと考えていたら、ふいに、足元がぐらりと揺れる。
何ごとかとおもえば、沈没したはずの大型貨物船が海底にてドカン!
最後に特大の水柱をあげてみせた。
水飛沫が雨となって周囲に降り注ぐ。
陽光を受けてきらめき、なかなか大きな虹が出た。
いろいろとヒドイ事件だったけど、最後はほのぼのにて、わたしは「なんだかなぁ」
◇
最後の最後で台無しにされた。
というほどではないけれども、ケチがついたのはたしかな今回の記念式典。
明るい未来どころか、なにやら暗雲が垂れ込めたような微妙な空気にて幕を閉じる。
ずさんで適当なものから、わりと緻密に深刻なものまで。九十九もの悪だくみは目くらまし。
すべては百件目の大型貨物船での炎の襲撃を成功させるための仕込み。
……というのは、少々うがった見方らしい。
事実はいささか異なっている。
調査にて早々に判明したのは、実行犯たちが船に火を放った直後に巻き込まれて死んでいたということ。
近くの海上を放浪していた一隻の小型船が発見され、これが犯行一味のものであったのだが、残された資料などから当初の計画では大型貨物船を暴走させたあとは、すみやかに脱出して現場を離れる算段であったらしい。
が、想定以上に爆発炎上が激しくて、あっさり焔に呑み込まれてしまったと。
これだけならば「マヌケな連中」ですむ話。でもことはそう簡単にすみそうにない。
問題は大型貨物船に仕掛けられたからくり。
設定した時間がきたら自動で爆発するモノらしいのだけれども、残された仕様書にあったよりもはるかに大きな爆破が起こっていた。しかも起動直後に。
だから実行犯たちも、よもや自分たちが死ぬだなんてみじんも考えていなかった節がある。
たまたまだとしたら、ご愁傷さま。
でも意図したものであれば、実行犯はわざと消された可能性が大。
今回の北部の過激派の活動。その裏に深く関与していた第三者の存在がちらりちらり。
魔道長連車の機関車へと侵入し制御を奪った技術やら、秘密裏に可燃物満載の大型貨物船を用意したりと、一連の騒動につぎ込まれた資金は相当なもの。
懐古主義に固執し、己の怠惰を棚に上げて経済格差をあげつらい、南部の金持ちを妬んでいるばかりの北部の過激派。
不毛に見える彼らの活動だけれども、複雑にからみあう現代社会と人界の連鎖の妙によって生まれる利権やら、利益やらのおかげで、恩恵を受けている人たちもいるせいか、ひそかに支援している者たちも一定数存在している。対立や衝突すらもがメシのタネになるのが人間の業の深いところ。
だからこそ過激派は活動を続けていられる。
とはいえ、今回の件に関しては支援の域をはるかに超えている。何もかもがケタちがい。
よって、わたしが真っ先に疑ったのは、帝国と親密な関係を築いているロイチン商会なんだけど……。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
冒険野郎ども。
月芝
ファンタジー
女神さまからの祝福も、生まれ持った才能もありゃしない。
あるのは鍛え上げた肉体と、こつこつ積んだ経験、叩き上げた技術のみ。
でもそれが当たり前。そもそも冒険者の大半はそういうモノ。
世界には凡人が溢れかえっており、社会はそいつらで回っている。
これはそんな世界で足掻き続ける、おっさんたちの物語。
諸事情によって所属していたパーティーが解散。
路頭に迷うことになった三人のおっさんが、最後にひと花咲かせようぜと手を組んだ。
ずっと中堅どころで燻ぶっていた男たちの逆襲が、いま始まる!
※本作についての注意事項。
かわいいヒロイン?
いません。いてもおっさんには縁がありません。
かわいいマスコット?
いません。冒険に忙しいのでペットは飼えません。
じゃあいったい何があるのさ?
飛び散る男汁、漂う漢臭とか。あとは冒険、トラブル、熱き血潮と友情、ときおり女難。
そんなわけで、ここから先は男だらけの世界につき、
ハーレムだのチートだのと、夢見るボウヤは回れ右して、とっとと帰んな。
ただし、覚悟があるのならば一歩を踏み出せ。
さぁ、冒険の時間だ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる