剣が無ければ女の子を持てばいいじゃないか?

竹野こきのこ

文字の大きさ
6 / 6

06 剣聖の恋

しおりを挟む
 神官長はゆっくりと立ち上がると、ラニに近づいて行く。目の前まで来るとラニの頭をなでようとする。

 ラニは不安そうな表情でマティスを見つめる。

「ラニ、噛んじゃダメだぞ!」
「……う、うん」

「やだなぁ、そんなに警戒しないでくださいよ。この子には精霊に近いものを感じますね」

 それは、武器だからなのか他に何かを感じたのかは分からない。だが、メモリルには確信がある様に見えた。

「ふむ……【大罪武器】ですか……」

 メモリルはそう言うと、表情を硬らせた。

「知っているんですか?」
「そこまで情報を持っている訳ではないですが、ルノワール様に会いたいと言う理由もこれですね?」

 マティスは隠した所で無意味だと思い、ゆっくりと頷いた。

「わかりました、紹介状を書きましょう。それがあれば、自然にルノワール様の元に連れて行ってもらえるはずです」
「いいんですか?」
「ただし……」
「報酬ですか……払える物なら……」

 ──多少高くても剣が無いよりはマシだ。

 マティスは覚悟を決めて唾を飲んだ。

「串焼きを10本ほど……」
「へっ?」
「わかりました、わかりました串焼き8本でいいですっ!」

 予想外の返答に驚く。もしかして隠語か何かなのだろうか……。

「すいません、慣れていないもので。串焼きとはなんの事でしょうか?」
「ああ、教会から左にまっすぐ行くと交差点の角にあるんですよ。正直買いに行くのが面倒なので」

 店の指定。やはりこっそりと包む形なのだろう。

「わかりました。とりあえず買ってきますね」
「本当ですか? でしたら紹介状を書いておきますので、交換という形で……」

 こうしてマティス達は教会を出た。
 メモリルの言っていた串焼き屋は、屋台をそのまま店にした様な造りで、気のいいおっさんがひとりでやっている。

「意外と普通の串焼き屋だな」

 マティスがそう呟くと、ラニはジュルリとヨダレをすする。

「折角だから俺たちも食べてみるか?」

 そう言ってラニを見ると、彼女は必死に頷いた。

「すいません、串焼き12本下さい!」
「12本!? さてはあそこの神官長のお使いか?」

「あ、はい。でも、2本はここで頂きます」
「はいよ!」

 そう言うと、おっさんは先に2本の串を渡す。メニューはこれしか無い様子で、見た感じ豚バラ肉を焼いたものに特製のタレを付けたものだろう。

 受け取った内の1本をラニに渡すと、串ごとペロリと食べてしまった。

「流石と言うか……まだいるか?」

 遠慮がちな顔をしているものの、どう考えても足りていない様子にマティスは追加で串を頼む。

「あの……あと5本追加して貰えますか?」
「お? そんなに美味かったか、それじゃ、全部て15本の代金でいいよ!」

 気のいい彼は、サービスしてくれるらしい。
 だが、15本分普通の代金だった事にマティスは、神官長へ渡す報酬の事がきになる。

「あの……神官長に持っていく分なんですけど、底にお金を包んだりするんですか?」

「兄ちゃん初めてかい? なあに、それしか言われなかったんだろ? なら大丈夫だ!」

 ──と言う事は、紹介状は串焼き10本分程度の内容と言う訳か……。

 ラニに追加分を渡し、マティスも自分の分を食べる。とろける様な肉と、少し甘さの有るタレがマッチして二人の顔が緩んだ。

 すると、交差点に向かいローブを着た青年が走って来るのが分かる。そのすぐ後に憲兵が追いかけて居るのが見えた。

「おっ? なんだ、ひったくりか?」

 マティスは目を凝らし、状況を確認する。確信したのか、青年が来たタイミングに合わせて飛びかかる。あっという間に、腕を極めて取り押さえた。

「にいちゃんすげぇな!」

 取り押さえたマティスがローブをめくると、青年に見えたその子は背の高い赤毛のスレンダーで綺麗な女の子だった。

「……その髪色。魔女か……」
「くっ……」
「はぁ……はぁ……取り押さえ、感謝します」

 憲兵の方をみると、ひとりは騎士学校時代の後輩のサルバだった。

「剣聖……マティスさんじゃないですか!」
「ええっ!! にいちゃん、剣聖マティスなのか、そりゃ強いわけだ!」

「サルバ、こいつは何なのだ?」
「はい。見ての通り魔女族の者でして、許可書を確認しようとしたら逃げ出したんです……」

「違法入国か……」
「可能性ですけどね」

 ──ほぼ、間違いないだろうな。

 マティスは、彼女をサルバに渡すと、彼は縄で腕を後ろで素早く縛る。

「あとは、事務所に連れて行って対応します」

 彼が後ろを向いた瞬間、彼女は縄を抜け魔法を発動する。マティスがそれに反応するも、ラニの足元に魔法陣が浮かんだ。

「私に手を出すと、その子を殺す」

 ラニは不思議そうに、魔法を見ながら串を頬張り美味しそうな顔をしている。

 ──くそ、迂闊だった。サルバの剣があれば、この魔女を斬れるが……。

 後退りし、退路を確保する魔女にマティスは動けなくなっている。

「剣聖……」

 魔女がそう呟くと、地面から剣を造りだす。魔力が高く、魔法の技術にも秀でた魔女族ならでは魔法。

「貴方にはそのまま死んで頂くわ?」

 飛んでくる石の剣、マティスはそれを持っていた串焼きの串で軌道を逸らす。

「ラニ、その魔法陣食べていいぞ!」

 その声に反応したラニの足元から魔法陣がきえる。マティスの予想通りラニは食べる事が出来た。

 それを確認すると、マティスは魔女の掌に串を刺し動きを止めた。

「流石の魔女も掌を刺されては、詠唱するしかないだろ? 詠唱し出したらもう2度と話せなくなると思うんだな!」

「くっ……」

 あっさりと捕まってしまったものの、マティスでなければ取り押さえる事は出来なかった。それだけでもこの魔女ははかなりの手だれだと言うのがわかる。

あるじはやっぱりつよいね!」
「だけど、何が目的なんだ?」

 マティスは魔女の顔をみる。美人だとは思っていたものの、いざ目が合うとその美しい見た目はマティスを照れさせるには充分だった。

「か、かわいい……」
「えっと、マティスさん?」

 男だらけの騎士学校から、女騎士のいない部隊にいたマティスは年の近い美人には縁がなかった。

 後ろで手を串刺しにして、ローブがボディラインを浮かび上がらせている事を意識せずにはいられなかった。

「あの……お名前は?」
「剣聖に名乗る名などない……」

 マティスは一瞬で振られてしまった。

「すいません、マティスさん。自分が油断したばっかりに……」

 だが、マティスは彼女のおっぱいの事しか考えられない。すると近づいて来たラニがマティスを噛んだ。

「痛っ! ちょっと、ラニ何すんだよ!」
あるじ変な事考えた」

 ──どうにか彼女を助けられないだろうか?

 マティスは、不意にそんな事を考えていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした

藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると 土地を蝕む邪気となって現れる。 それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。 派手な奇跡は起こらない。 けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。 ――その役目を、誰一人として理解しないまま。 奇跡が少なくなった。 役に立たない聖女はいらない。 そう言われ、私は静かに国を追放された。 もう、祈る理由はない。 邪気を生み出す原因に目を向けず、 後始末だけを押し付ける国を守る理由も。 聖女がいなくなった国で、 少しずつ異変が起こり始める。 けれど彼らは、最後まで気づかなかった。 私がなぜ祈らなくなったのかを。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

俺の伯爵家大掃除

satomi
ファンタジー
伯爵夫人が亡くなり、後妻が連れ子を連れて伯爵家に来た。俺、コーは連れ子も可愛い弟として受け入れていた。しかし、伯爵が亡くなると後妻が大きい顔をするようになった。さらに俺も虐げられるようになったし、可愛がっていた連れ子すら大きな顔をするようになった。 弟は本当に俺と血がつながっているのだろうか?など、学園で同学年にいらっしゃる殿下に相談してみると… というお話です。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

嘘つきと呼ばれた精霊使いの私

ゆるぽ
ファンタジー
私の村には精霊の愛し子がいた、私にも精霊使いとしての才能があったのに誰も信じてくれなかった。愛し子についている精霊王さえも。真実を述べたのに信じてもらえず嘘つきと呼ばれた少女が幸せになるまでの物語。

処理中です...