僕が君ならどう生きる

竹野こきのこ

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第3話

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カーテンの隙間から入る光で朝を迎えた。
今回は俺は何も出来なかったな。

スマホを開いても牧村へのメッセージに既読はついていなかった。


昨日の夜、開きっぱなしになっていたアルバム。
夢を終えてから変わった事と言えば佐々木が俺のことを好きだと言っていたのを知ってしまった事。

そうか、アルバムの写真いつも佐々木が隣なのはそういう事だったのかもしれないな。

でも、このアルバムから俺の中で辻褄を合わせて夢に出ただけかもしれない。

佐々木とは今でも時々飲みに行ったりしているけど、そんな話しは出た事無かった。そういえば俺、牧村となんであんまり合わなくなったんだっけ?

そんな事を考えながら俺は、スーツに着替え、仕事に行く準備をする。そうだ、明後日休む事を言わなきゃいけないな。


そうして俺は会社に向かった。
当たり前だけど、全く仕事が手につかない。

後何回、牧村との夢を見れるんだろうか?  俺は次見た時にどうにかしたら牧村を助けられるんじゃないかと考える様になった。



あの夢は現実とつながっているのか?



次に行くときは、それを確かめたい。 

どうやったら確かめられる?
俺が出来るのは牧村と話すことだけ、だから牧村に現実と違う事を行動してもらうのが一番確認しやすいのだけど、前回みたいに結局変える事が出来ず、帰って来てしまうのがオチだろう。


仕事中に色々考えて上の空になっていたところに、俺の上司の篠崎しのざき課長が声をかけてきた。

「どうした西村、今日は全然進んでないじゃないか、何か悩んでるのか?」

「すいません課長、少し考え事をしてしまって。」
課長に言い訳しても仕方ない、俺はそう思い素直に答えた。

「プライベートでなにかあったのか?」

「ええ、まぁ……」
明後日の休みの件も含めて何かを察してくれているのか?

「おまえが言える事なら、俺が聞くぞ?  そのまま悩まれても仕事に影響するからな。  なあに、人生の経験なら年の分経験がある。」

俺の出す雰囲気に課長は心配してくれてるようだ、たが課長に相談出来る内容じゃない。

いや、まてよ
少し内容を変えて課長に相談してみようか。

色々な案件をこなす切れ者の課長だ、もしかしたら何かいいアドバイスをくれるかもしれない。

「そしたら、少しだけ宜しいですか?」

「わかった、なら給湯室にいこうか。」
そう言うと課長はコーヒーを二つ買ってそのうちの一つを俺にくれた。

「ありがとうございます。少し話しにくい内容なので、例え話しになるんですが。」

「あぁ、全然かまわんよ。」

「例えば、悪い結果が見えてるのを回避するために誰かに動いて欲しいとします。課長なのでよくある事かもしれないですが。 ただ、その際、課長は電話でしか指示出来ないとしたらどうしますか?」

「なんだ? 仕事の話か? そうだな、見えている悪い結果をそいつにわかりやすく伝えてから指示するかな。」

「もし、事情が有って、悪い結果になりそうなのを伝えられないときは?」

「なるほど、俺しか解決出来ない時ってことか?  それなら、一旦関与出来るタイミングまで保留に出来るように動くかな、、、」

「保留ですか?」

「要は、悪い結果を伝える事が出来ないのは、そいつは結果に対して対処するための意識が出来ない事になる。 まぁ、普段の仕事でも会社や株に関わる機密情報などに触れる内容ではよくある事だな。」

「要は機密を知らない事には、何が問題かも気づけないって事ですね!」

「そう、たが機密だから教える訳には行かない。だから本人が意識の出来る部分、例えば俺が行くまでの時間を作って貰うなど、目的が分かる部分で動いてもらい、直接自分で対処出来る状態を作るしかないだろうな」

そうか、自殺の保留だ。もしかしたらうまくいくかもしれない。

「課長、ありがとうございました!」

「ん?  こんなんでいいのか?」

「大丈夫です!」

「そしたら気兼ねなく仕事に戻れるな!」

俺はやれる事が見つかった。
急いで仕事を終わらせて定時に俺は家にかえる、もしかしたら牧村を救えるかもしれない。

ただ、今日も本当に夢に行けるのだろうか?
前回、牧村と気まずい形で戻ってしまったから心配だ。

俺は帰ってすぐに布団に入り、微かな希望を抱いて眠る事にした。

神さま、短い時間でもいい、もう一度、もう一度だけ……。


──眠ると綺麗な海が広がっていた。

ん?  海?
俺は違う夢を見てしまったんだろうか。
でも、この雰囲気見た事あるな。

「牧村ー、なにしてんだよ?  行くぞ!」
宮田の声がした。

よかった、どうやら夢に来れたみたいだ。
沖縄の海の風景って事は、卒業旅行か。
またすごいタイミングに来てしまったな。

「あ、ちょっと待って!」
牧村が宮田の方に走りだした。

バスに乗り込んだ牧村は、窓の外を眺めていた。

(牧村!まーきむらっ!)

(えっ、未来の弘樹? これたの?)

(よかった、話せた)

(もう、弘樹は来ないかと思ってた)

バスがホテルに着いた。牧村は宮田達にちょっと移動で疲れたから少し休むと伝えた。

(弘樹、こっちの弘樹とはあれからあんまり話せてないよ)

(知ってる。俺も卒業旅行くらいまで牧村に話しかけづらくなったのを覚えてる)

(あのさ、弘樹はさぁ、本当にまだあたしのこと好き?)

(うん、好き)

(聞いちゃダメかもだけど、みのりとはどうだったの?)

(佐々木?  いや、恋愛的な事は何にもないけど、今でも普通に連絡は取り合ってるよ)

(あたしとは?)

(ちょっと間が空いてるかな……)

牧村は何も言わず窓の方に歩いて海を見つめた。

(あのさ、牧村……)

(何?)

(俺と1つだけ絶対破らない約束しないか?)

(内容によるけど……)

(6年後の12月1日に絶対会おう!)

(何それ?  未来で言いなよ)

(これから、どんな事が有っても誰と付き合ってても絶対約束。俺はその時の状況を受け入れるから)

(いいよ。)

(こないだ見たいなのは無しな!来れなくても絶対おまえから連絡してくれ!)

(こないだは、ごめんね。わかった、約束を守るよ。)

(それと一つ、今から多分あいつらと合流する事になると思うけど、俺にこの部屋にある紅芋タルトをあげてくれ!)

(えっ?  なんで?)

(俺の記憶だと、そこから大分牧村と話しやすくなったんだ)

(そっか、わかった。持っていくね)
少し牧村が笑った気がした。

牧村は、そのあと宮田達と合流し、約束どおり俺にタルトを渡した。

渡された後、すっごく嬉しそうな俺がいて、つい笑いそうになってしまった。

俺はエメラルドグリーンの綺麗な海で遊ぶ4人を見て、懐かしさと切なさで胸がいっぱいだ。

この時楽しかったな、でも牧村は結構気にしてたんだな。

──夜になって俺たちはホテルの花火を見ていた。

牧村は、椅子に座り花火を見つめていた。

(なぁ、牧村。おまえ今日楽しかった?)

(うん、楽しかったよ。でもこれから、なかなか遊べなくなるね)

(そうだな。話は変わるけど、俺さ、牧村の水着姿がみたいんだけど)

(あはは、今日ほとんど水着だったじゃん)

(俺、牧村目線でしか見れないんだよ)

(鏡に立てって事? やだ、恥ずかしい、未来の私に見せてもらってよ)

(牧村、俺はおまえの事が好きだ)
気づいたら告白していた。

(んー?  知ってるよー?)

(それで、牧村は?  俺の事どう思ってるの?)

(そんなの未来の私にききなよー)

(今の牧村にききたいんだ)

(弘樹、今も宮田の作ったしおり持ってる?)

(部屋にあるけど……)

(そっか! そしたら返事はしおりの中に書いとくね)

(えっ?  今言ってくれないの?)

(その様子だとしおりには気づかなかったのかな?)

俺はめちゃくちゃきになった。
早く戻りたいけど戻りたくない。

「お  た  の  し  み  !」
牧村は小さな声でつぶやいた。

「牧村、今なんかいった?」
隣の椅子で花火を見ていた俺が言った。

「なーんでもないよー」

その夜、牧村が寝る前に俺は次いつこれるか分からない事を伝えて、12月1日の約束を絶対守る事をもう一度約束してから別れた。


──そうして俺は目をさました。

起きてすぐ、宮田の作った卒業旅行のしおりを探した。

アルバムの中にしまっていたしおりを見つけ、俺は恐る恐るページを開いた。

スキ

目次の下に小さく書かれている。
小さいけど牧村の字だった。

俺は目頭が熱くなって涙が溢れてきた。

いったい牧村はいつから俺が好きなんだろう?

もしかして、前回俺が告白しようとしてた時も好きだったんじゃないだろうか?

もし、そうなんだとしたら、俺は、俺は。
後悔とやるせなさが混じって涙が止まらなかった。

そしてもひとつの約束、あの夢は現実とつながっている、俺はそう確信しスマホを確認した。

俺の予想が正しければ、これで牧村は12月1日までは自殺しないはず。

だけど。

現実は甘くはなかった。
一昨日来ていた宮田のメッセージと、俺が牧村に送ったメッセージの履歴が悲しく残っていた。

俺は絶望した。

「牧村……12月1日約束っていったのに好きだって言っていたのに……なんで約束まで待てないんだよ、なんで……なんで」

俺は朝にもかかわらず、声に出して大声で泣いた。
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