僕が君ならどう生きる

竹野こきのこ

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最終話

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俺は何も変わらなかった絶望感に耐えられず、その日仕事をやすんだ。

明日は、牧村の葬儀か……。
俺は牧村の死んでる姿を見て、受け入れられるのだろうか?

牧村が俺を好きだった事、でも12月の約束の日まで自殺を待てなかった事。

もし夢と繋がっていたのなら牧村に何かあったのかもしれない。

もし夢が繋がっておらず、俺の記憶の妄想だとしたらあのしおりのメッセージはどうやって説明できるのだろうか?

これだけ夢に振り回されてる俺に、葬儀当日に牧村の死を受け入れる事は出来るのだろうか?


なんとなくだけど、俺が夢で牧村の元に行くのは今日が最後だと感じていた。きっと葬儀までの思い出のプレゼントなのだろう。 


今日は仕事が終わってから実家に帰るつもりだったが、休んでしまった俺は早めに帰る事にした。


電車で1時間半、俺は地元の駅に着いた。
駅に着いてすぐに、あの日、俺が告白しようとした"駅前の公園"が目に入る。


この街は牧村との思い出でいっぱいだな。


特にする事もなく、時間も余っているので、回り道をしてかえることにした。俺は通っていた、中学校や高校の前をとおり通学路をなぞる。


この道、俺は毎日通っていたよな。


あの時。牧村と付き合っていたなら、この景色はどんな風に見えたんだろう、もしかしたらそのまま結婚して、子供と一緒に来ていたかも知れない。


そしたら俺は牧村を由美って呼んでたのかな?


家の近くに着いた時、ふと一瞬牧村が見えた気がして、一瞬走って追いかけたが姿が見えなくなり我に返った。


幽霊?それはない。もしかしたら牧村の妹だったのかも知れない。



もう、俺は居るかもしれないという、希望にすがる気力さえなくなっていた。


実家に着くと家には誰も居なかった。
特に何も言わず帰って来たからどこかへ出かけているんだろう。


今は誰とも話したくはないんだ。
俺は懐かしい俺の部屋で、最後の夢を見ようと思い眠りについた。

俺は、少しでも多く長く夢の中だけでも牧村と過ごしたいと思っていた。


──気がつくと、森林が広がっていた。


俺の予想どおり、4人で行った最後の思い出のキャンプ場だった。

この後の出来事は、俺の記憶にはないだろうから夢でも見る事は無いだろう。

目が覚めたら牧村の葬儀、きっと次の夢はない。
感傷に浸っていると、聞いたことのある声が響いた。

「夏と言えばキャンプでしょー!」
なぜか、宮田が森林に向かって叫んだ。

久々に4人揃うのはすごく楽しそうだった。
世間話をしている間は俺は黙って懐かしさに浸っていた。

俺はみんながバーベキューの準備をし始めたのを見計らって牧村に話しかける

(牧村!  久しぶり!俺はそうでもないんだけど。)

(あ、未来の弘樹だ!すごく久しぶりだね!) 
少し驚いた様に牧村は返事した。

(最近はどう?  元気?)

(あれ?  未来の弘樹だから知ってるんじゃないの?)

(まあね、ただ、今日こっちの弘樹に話してる事とか、メールした事なら知ってるけど、話してない内容までは知らないからさ)

(そっか、今は前みたいに頻繁には遊んでないもんね!  元気だよ!  弘樹は?)

(俺は牧村から告白の返事が来なくてかなしいよ)

(えー、あたしは来たらすぐに返すと思うんだけどなぁ)

(まぁ、牧村も俺の事好きみたいだしな!)

(あ、しおり……見たんだ?)

(うん、だから夢から覚めてから、早く返事もらってイチャイチャしたいんだけどなー)

(イチャイチャって)

野菜を切ってた牧村は吹き出した。

「由美?  どうしたの?」
佐々木が笑いながら言った。

「あ、野菜がにげてしまっで、」
牧村は野菜でごまかした。

そうこうしているうちに牧村と佐々木が作ったカレーと男性陣によるバーベキューが来上がった。

「コテージでバーベキューとかいい感じだな!」
宮田が嬉しそうに言った。

このキャンプ場はコテージを借りるタイプになっていて、俺たちも1つ、大きめののコテージを借りていた。

ウッドハウスの味のあるお洒落なコテージがとても綺麗で、個人的にもまた来たい場所の一つだった。

俺は宮田の明るさで、
どうせ夢なら後悔の無いようにしよう、そう思わされた。

牧村がカレーを食べようとした時に俺はこの後の事件をおもいだし、牧村に声をかけた。

(あ、由美ちゃん?)

ガッシャーン!
ひっくり返ったカレーが由美ちゃんのTシャツとショートパンツについた。

(なんで急に名前で呼ぶのよ?  おかげでカレーこぼしちゃったじゃない!)

(ごめん、この時にカレーこぼすのを教えようと思ったら、俺が原因だったみたいだわ)

「Tシャツ汚れちゃったから着替えてくるね!」
佐々木に伝え由美ちゃんはコテージに入っだ。

(もう、勘弁してよね)

(というか由美ちゃん俺の前で着替えるの?)

(あんた、どうせ鏡ないと見れないでしょ?)

(そうじゃなくて、、)

コテージの中にこっちの俺があたふたしながら立っていた。
「ご、ごめん」

下着姿の由美ちゃんが固まる。

(もう!もっと早く言ってよ!)

この時の俺は慌ててコテージから出て行った。

この時が俺の体験した、由美ちゃんとの一番のハプニングだった。

もう14時か、長くても俺に残されている時間は後半日だろう。俺は残り少ない時間を由美ちゃんと話し続けようと思った。

(ねぇ由美ちゃん?)

(さっきから思ってたんだけど、なんで急に名前呼びになったのよ?)

(両思いな訳だし、未来では付き合ってるかも知れないけど、今の由美ちゃんと話せるのは今しかないなーっておもって。こうやって話せる時間も、もっと近づきたいんだ)

本当は、今しかないからなんだけど、今の俺の精一杯の嘘だった。

(うーん、それはそうだよね。あたしも未来の弘樹が戻ったら当分こんな感じでははなせないもんね。)

(ねぇ、由美ちゃん?  今から未来の弘樹の彼女になりませんか?)

(えー? 急に告白?  いいよ、でも未来に戻ってもちゃんと直接言ってよね?)

(もちろん! 由美ちゃんが彼女かぁ幸せすぎて死にそうだわ)

俺はそれから、家族の事や、この日からあんまり会えなくなって行ったこと、一緒に行きたい場所とか色々話した。

由美ちゃんは、この時の俺たちには、きっとあんまり喋ってないって思われてたかも知れない。

夜中12時を過ぎ、コテージではみんなははしゃぎ疲れて寝ていた。

由美ちゃんは外に出て、もうすこし話してよっか?って言ってくれた。

俺は嬉しさと、これから起こることに気持ちが抑えられなくなって涙は出ないはずなのに泣きだした。

(由美ちゃん、俺、離れたくない。)

(私も……。)

(でも、本当は、もう由美ちゃんといる事は出来ないんだ。)

(3年後、会えるでしょ?  そしたらたくさん一緒にいよ?)

(実は、無理なんだ。)

(えっ?  なんで?  すでに告白して、戻っても付き合うって言ってたじゃん)

(実は由美は自殺していて。初めて来た時から今回までは自殺したその日から葬儀までの3日間の夢なんだよ)

(嘘、  あたし自殺なんてする気無い)
由美ちゃんは、動揺を隠せない、あたりまえだ。いきなりあなたは3年後自殺するといわれても誰も信じられるはずがない。

(うん、嘘じゃ無いんだ。だから送った告白のメールに返信が来ない)

(そんな……嘘……。)

(これでも未来を、由美ちゃんが自殺していない世界に変えられないか試したんだ。前回12月に約束をしたのも、由美ちゃんの生きている期間が延び、自殺してない事にならないかとか試したけど、無理だった。これは俺のただの夢だったんだ。)

(本当に変えられないの?)
泣きながら由美ちゃんは言った。

(本当だ、過ごした時間、未来の状態は変えられない。現に今まで来た時に色々タネを蒔いても何も変わっていない)

由美ちゃんはだまり、ショックを受けたんだろうコテージの椅子で横になる。

(黙っててごめん。)
俺は本人に伝えてしまったことを少し後悔した。

その時あることが俺の脳裏をよぎった。もしかしたら……

(そうだ、由美ちゃん、俺に最後のチャンスが欲しい!)  


(えっ?  でも未来は変わらないんじゃ)


(今、未来を変えずに由美ちゃんを助ける方法を思いついたんだ!)

(本当に? でも、未来を変えないでって言っても、既に死んでるあたしはどうしようもないんじゃないの?  自殺しないでおこうと思っても何かで自殺しちゃう事になるって事でしょ?)

(そうなんだ。だから3年後、宮田たちと俺を騙して欲しい。)

(あたしが弘樹をだますの? なんで?)

(そう、由美ちゃんが自殺したと、宮田に連絡してもらう様にと、Facebookにも細工して葬儀の日まで俺を騙しつづけて欲しい。そして当日朝、俺の実家にきてくれないか?)

(そんな事で大丈夫なの?)

(それは分からない。だけど俺はこれに掛けたい。 今日夢が覚めたら君の葬儀の日なんだ、俺の告白メールもバラすまでは無視してくれ! 元の世界を由美ちゃんが自殺した世界じゃなく、由美ちゃんたちに騙されてた世界として俺の未来と辻褄をあわせるんだ。)

(わかった、あたしは死なない。思いっきりあんたにサプライズ仕掛けるよ、絶対。それで天の声じゃなく付き合って幸せにして!)
由美ちゃんは、力強く言った。

(うん、絶対だからな!)

本当は由美ちゃんもキャンプで疲れていたんだと思う、少し安心したように眠った。
意識が途切れるギリギリまで、俺は心で泣きながら居続けた。


──そして、最後の朝を迎えた。


俺は涙を流しながら目を覚ました。
約束して別れたけど本当は、正直そんなにうまくいくはずないかもとも思ってる。

スマホもスマホも変わらず未読のままだ。
でもどこか落ち着いている自分がいた。


ピンポーン



そして実家のインターホンが鳴った。
俺は急いで階段を降りて実家のドアをあけた。



─おわり─
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