その彼氏、俺でよくないですか?

竹野こきのこ

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第24話 敵と仲間

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 ──学校へ行き、バイトする。
 今までと同じような、でも少し違う生活。

 多分それは、千佳が居るからなのだろう。
 あの事件以降、俺たちの距離は以前より近くなったと思う。バイトで会わないメールだけの純と違って、自動的に顔を合わせる。

 浅井さんの道場の件もあってか、以前より連絡を取る事が多くなった様におもう。

 そして今日も、バイトの後待ち合わせでもしているかの様に駐車場で千佳は待っていた。

「お疲れー」

 大きめのTシャツに、レギンス。着替えでも持って来ていたのだろうか。

「最近暑いよねー」
「もう、7月だからなぁ……」

 気温も上がり始め、夜は生暖かい夏の匂いがする。

「どう?」
「どうって何が?」

「夏服。イメチェンしてみたんだけど?」
「夏の感じ出てていいんじゃない?」
「なるほど……落ち着いた感じがどーもしっくり来ないんだよねー」

 確かに、普段の千佳にしては落ち着いた配色の服だ。だけど別に地味という訳ではないと思う。

「なんでまた、イメチェン?」
「うーん。あたしの好きな人がね、どちらかっていうと優に近い感じなんだよねー」

「それで?」
「それでって、だからこういう方が好きなのかなーって」

 それを聞いて俺は笑った。

「ちょっと、なんで笑うわけ?」
「いや、なんか意外だなって思って」
「どういう意味よ?」
「なんか、お前ってあんまり人に左右されなさそうだろ?」

 暗がりの中でも、千佳が赤くなっているのがわかる。

「だって……」
「まぁ、最善を尽くせっていうポリシーとしては正解なのかな?」

 少し膨れた千佳をなだめる様にフォローする。すると彼女は意外な事を口にした。

「優、今度ついて来てもらっていい?」
「なんだよ急に。それで、どこについて行けばいいんだ?」

「……好きな人のところ」

 千佳はもじもじしながら、恥ずかしそうに上目遣いで俺を見る。

「それって……アリなのか?」

 そう尋ねると、彼女はコクリと返事した。

「まぁいいけど、誤解されてもしらねーぞ?」
「その辺はなんとかするよ!」

 彼女の『好きな人』今まで架空の人物の様な気さえしていただけに、見てみたい気もする。

 だけど、嫉妬に駆られそうなのも事実だ。

 結局俺は、断れる筈もなく週末一緒に行く事になった。なんとなく、誰かについて来て欲しくて純にも連絡する。

 だけど、彼女は予定があると言ってあっさりと断られてしまった。


 ──週末の朝。
 俺は今までに無いくらい気合いを入れて服を選んだ。夏まで取っておいたTシャツを下ろし、お気に入りのデニムを履く。もちろん、いつものピアスも付け、ストロー系のハットをかぶった。

 だが、なんとなくこの高揚感が、綾と最後に買い物に行った日を思い出してしまう。

 別に期待しているわけじゃないけど、トラウマに近いものがあった。


 待ち合わせの駅に着くと、30分前。気持ちが焦りすぎたのか早く来てしまう。だが、予想とは裏腹に待ち合わせ場所に千佳の姿が見えた。

「ちょっと、早すぎないか?」
「1本早く乗っちゃってさー、でも優が早かったから助かったよ」

 そう言って千佳は顔を仰ぐ。
 まだ日は上がっていないとはいえ、夏の外はそれでも充分暑い。

「ねぇ、背中。汗染み出来てない?」
「今のところは……大丈夫そう」

 薄いピンクの丈の長いTシャツ。インナーにタンクトップの様なものを着ているのが首元で分かる。

 パッと見だけど、格好や普段より丁寧にされた薄目の化粧なんかから気合いが入っているのがわかる。

「千佳も人の子なんだなぁ……」
「どういう意味よ?」
「なんか気合い入ってるなーって」
「うるさいっ! 優のくせに」

 図星だったから照れているのだろう。
 そんな千佳がかわいいと思った。

 少し早いものの俺たちは目的地に向かう。

「あのさぁ、会いに行くって言ってだけど待ち合わせとかしてるのか?」
「……してない」

「それじゃ、いるかわからないんじゃ」
「いるよ……お店の人だから」

「なるほど……」

 そう言って、千佳が向かった先は俺がよく行く店の近くだった。もしかして、店って船場せんばさんの店じゃないよな……」

 だが、予想は違い『ブラウニー』のある建物を通り過ぎる。内心少しホッとしていると、千佳の足が止まった。

「どうしたんだ?」
「ちょっと、そこのアイス屋さんでアイス食べない?」

「会う前にアイス食うのかよ?」
「会う為にアイスを食べるの!」

 相手はアイス屋さんなのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。二人で買って、外のベンチに座った。

「お、このアイス美味いな……」

 俺の感想に触れる事なく、千佳は一点を見つめている。一口アイスを口にすると小さな声で言った。

「あそこの美容院なの」
「という事は、美容師さん?」

「うん……」
「なるほどなぁ……それじゃ休み時間まで出てこないんじゃ?」
「予約入ってない時は近くのお店に出るから、多分もうすぐ出てくると思う」

 千佳はそう言って、スマートフォンで店の予約情報を眺めていた。

「マジかよ……」

 そのまましばらく、アイスを食べながら待つ。二人とも食べ終え、座っているのが気まずい感じになって来たあたりで彼女は立った。

 彼女の視線の先には、細身の黒髪の男が居る。千佳が話しかけ、こちらを向くと彼は俺に話しかけてきた。

「あれ? 優くん?」
「えっ!?」

 千佳が驚いているのがわかる。それと同時に俺はその人に見覚えがあった。

「カジさん、美容師だったんですか?」

 そう言うと、二人は一度顔を見合わせる。

「知り合い?(知り合いなの?)」

 まさか、千佳が好きな人ってカジさんなのかよ……。

「え? 2人は付き合ってんの?」
「そんなわけないじゃないですかー」
「いやでも、デートでしょ?」

 まぁ、普通の反応だと思う。仕方なく俺は千佳をフォローする。

「バイト先が一緒なんですよ」
「そう言う事? 俺、日比野さんの担当してるんだよ、偶然ってあるよね!」

 千佳の行きつけの美容室、そこの担当の人というわけだ。

「髪型変えて、服も変わったの?」
「そうなんです、どうですか?」
「大人っぽくなったと思うよ?」
「本当に? やったー」

 いつもと違う千佳の雰囲気に違和感しかない。ふられたと言っていたけど、どうなのだろう。

「じゃあ、俺ちょっと寄る所あるから」
「また切りにいきます!」
「うん、優くんもまたブラウニーで!」

 そう言って、カジさんは去って行った。少し浮かれた様な千佳がどことなくいやだった。
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