その彼氏、俺でよくないですか?

竹野こきのこ

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第33話 喧嘩と未来

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 全力のドヤ顔で振り向くも、背後の物音がほとんど持って行ってしまった。

「今の音、何?」
「優のストライクで何か壊れたのかなー?」
「流石に破壊する力も無ければ天変地異を起こすほど珍しくも無いと思うぞ……」

 そう言うと、叫び声の様な声が響く。誰かが喧嘩でもしているのだろうか。すると、千佳は立ち上がる。

「千佳、どこにいくんだよ?」
「誰か暴れてるかも知れないから見てくる」
「ちょっ、やめとけよ!」
「なんで?」
「また警察沙汰になったら……」
「そんな事、言ってられないでしょ?」

 これ以上、千佳を止める事は出来ない。
 俺は、仕方なく彼女についていくと音がした辺りで人だかりが出来ている。

「やっぱり、喧嘩みたいね……」
「なんで、千佳がいかなきゃいけないんだよ」

 正義感が強いのは、彼女のいい所でもある。それを実現出来るだけの実力があるのも分かっている。

 店員はあたふたしているけど、そのうち警察も来るだろう……。別に俺たちが割り込まなくても。

 そう、思っていた。

「あれ。優の友達じゃない?」
「は?」

 ひび割れたUFOキャッチャーの前で倒れている男に見覚えがあった。

「修平……」

 相手は3人。どうして喧嘩になったのかは分からない。だが、助けに行かないとと思う……。

「ねぇ、何やってんの?」

 俺が躊躇している間に、千佳は3人に声をかけてしまった。

「すぐ終わるから。どっか行ってろ、な?」
「見逃せないから声かけてんだけどー?」

 そう言うと、3人組の1人が慌てた様に仲間に声をかける。

「は? こいつが?」
「マジでヤバイんだって……」

「あんた、見た事ある顔ね」
「ひっ……」

 そう言ってそいつは股間を隠す。そうか、こいつはあの時の……。

 あの日、駅で俺たちを襲ったうちの1人。同じ街のせいか世間は狭い。

「喧嘩する気なら相手になるけど?」

 千佳がそう言うと、彼等は逃げる様に捨て台詞を吐いて出て行った。俺はすぐさま修平に駆け寄る。

「おい、大丈夫か!?」
「痛ってぇ……なんとかな……」

 幸い数発殴られた程度だった様で少し安心する。

「なんで、そんな事になってんだよ?」
「なんでもない、ただ絡まれたから抗っただけだよ……」

 修平は、そう言って目を逸らした。
 彼が自分からするとは思えないが、他に何か原因があるのだろうと思った。

「今日は、綾と一緒じゃないのか?」
「途中まではな……もう帰った後だ」
「そうか、一旦綾に連絡した方が良さそうだな」

 俺はそう言って、スマートフォンを取り出すと、修平は俺の腕を掴む。

「やめてくれよ、大した事ないから」
「だって……」
「格好悪いとこ見せたくないんだよ」
「そっか……まぁ、動けるみたいだしその辺りはまかせるわ」

 修平はゆっくりと立ち上がると、腕を押さえながらそのまま出て行こうとする。

「おい、修平」

 呼び止めると、横顔をみせる。

「まだ、奴らいるかもしれないぞ?」

 俺が声を飛ばすと、押さえていた手を開き小さく手を振った。多分、彼にとっては俺に見られた事も予想外だったのだろう。

「千佳、ありがとな……あの時、千佳が向かわなければ、もっと大変な事になっていたかもしれない」
「別に優の友達だからじゃないよ。あたしはいつもどおりの事しただけだよ」

「そうだな」
「もどろ? 純が待ってる!」
「たしかに!」

 俺たちが戻ると、純は荷物を見ていてくれたのかこっちを向いて少し怒っている様にも見える。

「それで……大丈夫だったの?」
「うん……行ったら終わってた」

 知り合いだった事や、あの日のヤンキーがいたことなんかは言わなかった。千佳も同じ事を思っていた様で、結果的に口裏を合わせたようにボウリングの続きを始めた。

 1ゲーム目、俺は僅差で千佳に勝つ事が出来た。その事がよほど悔しかったのか、2ゲーム目に突入する。

「ねぇ、お昼ここで食べない?」
「フードが頼めるのか?」
「ポテトとか、サンドイッチとかだけど」
「いいねー! そしたら3ゲーム目も出来て優に完全勝利!」
「いや、まだ2ゲーム目まけてねーから!」

 千佳は膨れつつも笑った。それぞれどんな事を考えているかはわからない。だけど、この時間がずっと続けばいいなと、俺は思っていた。

「あのさ、夏休み2人は何してる?」
「あたしはバイトかなぁ……」
「私も、夏休みはバイト始めようかなって」

「なんだよ、2人とも勤労の義務を果たしすぎじゃないか?」
「優はどうするの?」
「いや……俺もバイト」

 なんとなく、切実な夏休みが浮かぶ。

「でもさ、どこか行かないか?」
「どこかって……どこに?」
「花火とかさ、夏休みなんだしさ!」

 そう言うと、千佳は少し寂しそうな顔をして呟いた。

「3人で行けるかな……」

 その意味はわかっている。今日どんな風に転んでも、この3人ではもう遊べないかも知れない。

「だから、約束したいんだよ」

 俺はそう思った事を口にした。

「まぁ、プールとか海と言わない辺りが優だよねー」
「それわかる!」

「どう言う意味だよ」
「あんたは、水着より浴衣を取るタイプって事!」

 水着! その手があったか!

「ちょっと今後悔した?」

 正直後悔した。千佳の水着だけじゃなく、純の水着まで見れるチャンスだったのだ。

「顔にでてますなー」
「優、そんな事考えてたの?」

「いや、俺は至って健全な男子だ」
「健全な男子って、水着見たいと言ってるじゃん!」
「だから違うって!」

 本当に、このまま……。
 2人の笑顔が飛び交う中、不安と緊張が時計の針と共に進む。

 俺はどうすればいい。
 どうすれば、後悔しない結果が待っているのだろうか?

 限りある時間を楽しみたい気持ちと、時間の無い不安が入り混じり何も考えられなくなっていた。
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